ネヴァロ・シティの上級監督官であり、学校の校長でもあるカルガから、来週に行われる『子供キャンプ』の話を持ち掛けられたのは、よく晴れた日のことだった。なんでも、校外学習の一環として、街外れで生徒たちでキャンプをするのだという。そこにグローグーや、マンダロリアンの孤児たちも来ないか、という話だった。
「みんなでシチューを作ったり、夜には花火をするんだ。子供たちもきっと喜ぶと思うぞ」
上級監督官の執務室の椅子に腰掛けたカルガは、白い歯を見せて笑った。
「子供たちだけでやるのか?」
「俺や教師がついてる。ボランティアとして何人か保護者も参加してくれる。心配ならお前も参加するといい。報酬は花火セットだ」
花火セット、と復唱して、ディンは唇を引き結んだ。つまるところ、子供たちで行う夜営だ。グローグーには早いと思った。だが、なにごとも経験だ。学校に通う子供たちとも仲良くしてほしい。それに、マンダロリアンの孤児たちも滅多にない体験になるだろう。日の当たらない場所で育ってきた子供たちの中には、花火を知らない者もいる。
「わかった。一度みんなに相談してみよう」
「いい返事をもらえるといいんだがな。グローグー、来週は友達とキャンプに参加できるぞ」
カルガが相好を崩した。執務机の向かいでちょこんと椅子に座って菓子を頬張っていたグローグーが、きゃあと嬉しそうに両手を上げた。
カルガの好意を、同胞たちは——特に子を持つ親たち——大いに喜んでくれた。こうして『子供キャンプ』にはマンダロリアンの孤児たち皆が参加することになり、数名の保護者も加わることになった。グローグーのよき友人でもあるラグナーをはじめ、孤児たちははじめてのお泊まり会を楽しみにしているようだった。
そして『子供キャンプ』当日の昼に、街の入口に集まった大勢の子供たちは、保護者に挟まれて、列を成して灰色の大地を行進した。
「まさか、お前がくるとは意外だ」
ディンは隣を歩いているヴィズラに向けて——ラグナーのことが心配でたまらずボランティアに立候補したのだろう——呟いた。
「俺たちは子を守る責任がある」ヴィズラは、大量の荷物が載ったホバーカートを押しながらフンと鼻を鳴らした。「ラグナーも今日を楽しみにしていた」
「グローグーも昨日はなかなか寝付かなかった。よほど楽しみだったんだろうな」
ベッドの中でぱっちりとした目をらんらんと輝かせていたグローグーを思い出して、ふっと笑ってしまった。ヴィズラも「うちもそうだった」といって、つられたように笑った。
子供の足で二十分ほど歩いて、岩場の多いエリアに辿り着き、大人たちでいくつもテントを張った。子供たちも手伝った。彼らはシートを引っ張ったり、柱を支えたり、小振りなハンマーを振り下ろしてペグを打ち立てたり、一生懸命動いた。
寝る場所ができあがって、おやつを食べて一休みして、夕食のシチューを作った。ゴーントの塊肉も焼いた。
日が傾き、大鍋で煮込んだ具沢山のシチューができあがる頃には、街の子供たちもマンダロリアンの孤児たちも、大人ですら打ち解けて、朗らかな雰囲気が漂っていた。
おやつの時間と同じく、夕食の際はヘルメットを被ったマンダロリアンたちは方々に散った。グローグーはシチューもステーキも気に入ったようで、おかわりをした。ディンも、せっかくなので二杯目をもらった。子供が切った大きさも切り方も違う野菜は、くたくたに煮えていて美味しかった。
「さあ、メインイベントといこう。花火だ!」
食後に、カルガの一声で、教師であるプロトコル・ドロイドが、寛いでいた子供たちを呼び寄せた。グローグーとラグナーも子供たちに混ざり、黒く薄い箱に入った花火セットをもらって戻ってきた。
「花火ってどうやるの?」
ラグナーは父親を見上げて首を傾げた。箱を開けて、中にあった手持ち花火を何本か取り出したヴィズラが「お前ははじめてだったな」いう。「とはいえ、俺も花火ははじめてだ」
背後できゃあと歓声がした。ヴィズラ親子と揃って振り返ると、もう数名の子供たちが筒状の花火の先に火を付けて、勢いよく噴き上がる火花に興奮していた。
ディンは箱の中にあった蝋燭に、持参していたサーマル・ライターで火を付けて、慎重に地面に置いた。火が瞬き、溶けた蝋が地面と癒着して、蝋燭は自立した。
「火傷をしないようにお互い離れるんだ」
ディンの指示を受けて、ヴィズラはラグナーを庇うようにして数歩前に出た。花火を一本手にしたラグナーは、筒の先端を恐る恐る火に近付けた。引火した途端、緑色の火花が弾けて、地面に向けて散った。
「わ、すごい!」
驚いて一歩退いたラグナーとヴィズラのヘルメットのバイザーに、緑色の閃光が反射している。ディンはグローグーに花火を一本持たせて、小さな手を覆うようにして掌を被せて、火まで誘導し、一緒に火を付けた。鮮やかな桃色の炎が閃いた。炎はやがて黄色くなった。
「ぷぅわ」
グローグーの長く平たい耳が小刻みに動く。どうやら、楽しいらしい。
ラグナーの花火の色が赤くなった。延焼に合わせて白煙が立ち上り、火花はやがて勢いをなくした。
「消えちゃった。父さん、またやりたい」
「好きなやつを選べばいい。これなんかどうだ。結構デカいぞ」
火の付け方の要領を得たラグナーは、大はしゃぎだった。グローグーも小さな身体で喜びを漲らせた。ディンとヴィズラは、「危ないから振り回すなよ」「人には近付けるな」と諭しつつ、ふたりを見守った。
「父さんたちも一緒にやろうよ」
ラグナーの誘いに、ディンとヴィズラは顔を見合わせた。
「俺たちはいい。お前たちが楽しければ満足なんだ」
先にヴィズラがそういって腕を組んだ。ディンも倣って頷いた。しかし、足元で、花火セットを抱えたグローグーがディンをじっと見上げていた。
「父さんと一緒の方が僕たちだって楽しいよ」
ラグナーも地面に置いていた花火セットを持ってきた。
「……そうか」
「……なら、一本だけやろう」
揃って花火セットを覗き込み、一番細くて量の少ないものを一本もらった。グローグーとラグナーも新しいものを一本取り、火を付けた。
子供たちのあとに、ディンとヴィズラはしゃがみ込んで、蝋燭の火を花火の先端に——この花火は一本の細い紐のようで、どちらが持ち手か一瞬わからなかった——火を灯した。
「お前も同じものを選んだのか」
「ああ。一番細いものにした。デカいのは、ラグナーが喜ぶからな」
たしかに火はつけたのに、派手な音も、火花も出なかった。垂れ下がった燃える先端で、頼りない火の玉が膨らんだ。まるで赤い蕾だ、とディンは思った。一拍置いて、控えめな火花がめまぐるしく散る。それは満開の花のようにも見えた。
「なんだ、この勢いのない花火は」
垂れ下がる小さな火の玉をまじまじと眺めて、ヴィズラが身じろぎした。火の玉はほんの少しだけ大きくなって、小刻みに震えている。
「これはこれできれいじゃないか?」
「そうだが……今にも落ちそうだ」
「なあ、どっちが長く持つか勝負しないか」
ディンは額を突き合わせたまま囁いた。なんだか、童心に帰ったようだ。
「お前には負けん」
「俺だってお前には負けない」
赤々とした蕾が落ちないように、ふたりで声量を抑える。
「父さんたちはどんな花火?」
「わっちょ」
ヴィズラの背中にラグナーがのしかかり、ディンの背中にグローグーが飛び乗った。
「あっ」
ふたりの手元で、煌々と燃えていた火球が落ちた。
「なんだ、もう終わっちゃったの?」
「ぶぶぶ」
父親たちの手元を見て、ふたりの子供はすぐに興味をなくし、去っていった。
「引き分けだな」
「そのようだ」
ディンとヴィズラは立ち上がった。子供たちの楽しげな声が心地いい。鮮やかな美しい火花が、かけがえのない夜を照らしている。