※かなり下品な話です。パズとのセックスに対して積極的なディンがいます
はじめて訪れた街で情報収集をするなら、カンティーナに行け——賞金稼ぎという生業を選んだディン・ジャリンが最初に遂行した師の教えは、今では習慣になっている。
カンティーナは、飲んだくれの地元住民に混ざり、密輸業者や同業者にお尋ね者……つまるところ、潔白とはいえない訳ありの客たちが集まる吹き溜りだ。大抵は、ふらりと現れたマンダロリアンを珍しがるか、面倒ごとの気配を察して警戒する。ごく稀に身包みを剥いでやろうと企む愚かな者もいるが、そういう連中は悉く返り討ちにしてきた。
足を踏み入れたばかりのその店は、酒と安っぽい香水の匂いがした。種族は様々だが、男に混ざり、露出の多い服を着た女たちもちらほらいる。壁や柱に身を預け、値踏みでもするように男たちを見ている。客には見えない。
空いていた席に腰を下ろした。賞金首の情報を訊かなくてはならない。
「聞きたいことがある」
オーダーを取りに来た店員は目を丸くさせた。ディンがターゲットである賞金首の名を告げると、彼女はあっさりアジトを教えてくれた。というよりも「それなら誰でも知ってるよ」といわんばかりの口振りだった。
情報の礼にと、クレジットをテーブルに置いた。
「気前のいい客は——」
白い歯を見せて笑う店員の言葉はそこで途切れた。うしろにいた赤ら顔の男が彼女の尻を引っ叩いたのだ。
「クリームパイを食わせてやろうか、可愛い子ちゃん」
「クリームパイなんてごめんだね。とっとと失せな」
突き飛ばされた男はへらへらと笑って——相当酔っている。千鳥足だ——壁際にいる女に話しかけ、蜂のように括れた腰に手を回して二階へ続く階段を上がっていった。
「ごめんね、たまにいるのよ、ああいうサイテーな客。あたしは客は取らないのにさ」
「食い物の話だろう? ここは甘いものも置いているんだな」
「えっ」店員は顔を引き攣らせた。「ああ——いや、置いてないよ。ごめん、あたし、行かないと」
店員が踵を返す。ディンも立ち上がろうとしたが、隣のテーブルにいた老人が「なあ、あんた」話し掛けてきた。
「もしかして、この店がどんな店か知らねえのかい?」
「酒場だろう?」
老人はシワだらけの顔に剣呑の色を滲ませた。
「クリームパイの意味を知らねえのも納得だ。あんた、早くここを出た方がいい。商売の邪魔になる」
ディンが首を傾げると、老人は空咳をひとつした。
「クリームパイってのは、ベッドで使う言葉だ。これくらい意味はわかるよな? 帰ったら嫁さんに食わせてやるっていってみな。盛り上がるか、ビンタ食らうかのどっちかだ」
「……抱く方がいう言葉なのか?」
「そうだ」
「どういう意味なんだ?」
「おい、本当に知らないのか?」
「ああ」
ディンはいたって真面目だった。この話題は、おそらく卑猥なことなのだろうという察しはつくが、意味を完全に理解はしていない。だから知る必要がある。口にすることはなくても、マンダロリアンは、わからないことを口にしてはならないのだ。
仕事を終えてレイザー・クレストのコックピットにいる間中、カンティーナで聞いた話がずっと頭に引っ掛かっていた。想像以上に卑猥な意味だったが、もしもあいつにいったら、どんな反応をするだろう?
仕事を終えてネヴァロの地下にあるアジトに戻り、孤児たちを養う資金として、報酬のほとんどをアーマラーに渡した。
食事をして、ディンはまっすぐにヴィズラ個人の居住スペースに足を運んでいた。ここしばらく、仕事続きで会えていない。ふたりきりの時間を過ごしたかった。夜の帳の内側で、身体の芯を蕩けさせるほどの快楽を味わわせてほしかった。
ヴィズラとの間に同胞に対して抱く親しみ以上の絆が芽生えてしまったのは、もうずっと前のことだ。子供の頃から共に誇り高い共同体で育ち、ディンが独り立ちして共同体を離れてからも幼馴染みとして関係は良好だったが——たとえ口論が発展して取っ組み合いになっても、それは互いの矜持のためにぶつかりあった結果だった——或る夜、昂るままに求め合い、まぐわった。そこから今もなお肉体関係が続いている。性欲をぶつけ合うだけの関係だったはずなのに、今では、互いの間には目に見えない温かな情がある。それをなんと呼ぶのかディンはわからないが、ヴィズラは伴侶に近しいものだと思う。
ヴィズラの居住スペースに近付くにつれ、自分が性欲という浅ましい欲求のままに彼の元に向かっていくことに対して羞恥心を覚えたが、足を止めることはできなかった。今はただ、ヴィズラに会いたい。会って、触れ合いたい……。
ヴィズラは、自身のスペースでヴィブロナイフの手入れをしていた。ディンの姿を見ると、彼はちらりとディンを一瞥した。「戻ったのか」
「ああ」
壁に凭れ掛かり、ディンは俯いた。セックスがしたくて会いにきた、とは切り出せない。「ふたりきりで過ごせないか?」
つとめて平静にディンは切り出した。これは偽りのない本心だ。
ヴィズラは手にしたヴィブロナイフをしまうと、じっとディンを見詰め、ややあって腰を上げ、歩み寄ってきた。
「それで押し殺しているつもりか」
腰を抱き寄せられ、胸当てがかつんと澄んだ硬い音を立てた。ディンはヴィズラを見上げた。バイザー越しに視線が交わって、腹の底から形のない灼熱が沸き上がって、衝動的に彼の首のうしろに手を引っ掛けた。ヘルメットが引き合って、額が重なる。鋼鉄の口付けは、神聖な儀式のようだった。角度を変えて、何度もキスをした。
「抱いてやる」
ヴィズラの熱っぽい囁きに、ディンは頷いた。テント型のコフィン・ベッドに雪崩れ込んで、会えなかった時間を埋めるように激しく求め合った。預けている潤滑剤の残りは少ない。スキンだって、夜すがらセックスするには足りない。それでも、衝動は止められない。手に負えない。
「……なあ」
ディンは昼間のことを思い出し、口を開いた。正直、すごぶる卑猥な煽りだと思うが、ちょっとした刺激にはなるだろうと思ったのだ。
「クリームパイが食いたい」
「そんなもの、ここにはない」
「わかっている」
「……なにがいいたい?」
「お前のクリームパイが食いたい」
腹の内側を埋めるヴィズラの指を感じながら、ディンはいった。ヴィズラは手を止めて首を傾げた。潤滑剤で濡れた中指と薬指は、根本までディンの腹の中に埋まっている。
「ベッドで使う言葉だ。抱く方が、抱かれる方にいう」
「つまり……俺がお前にクリームパイを食わせるのか」
「そうなる。意味は……わかるか?」
ヴィズラは黙考しているのか、微動だにしない。じわじわとせり上がっていた快楽が遠ざかるのを感じて、ディンは歯を食い縛った。
「ああ……なるほどな。意味はわかった。食わせてやる」
ぬちっ、と音が跳ねて、指が動き出す。
「お前がそんな誘い方をするとは意外だ」
腹側を押し上げられて、ディンは呆気なく沸点に達した。緩く勃起した性器が脈打って、色のない体液が勢いなく溢れ出た。
「あ、ぅ、パズ」
指以上の質量を求めて、腹の奥が切なく疼く。ディンは息を乱しながらヴィズラを呼んだ。
「もう、きてくれ」
ヴィズラも限界だったのか、指はすぐに引き抜かれた。ヴィズラは手早く股間の装甲を外してフライトスーツの前を寛げた。規格外の大きさを誇る肉色の男の象徴がぶるんと飛び出して天井を向く。側面には太い血管が脈々と走り、エラの張った凶悪な尖先からは、我慢汁の露が滲み出ている。
ヴィズラは自身の根元を握ると、ディンの太腿の間に身体を深く割り入らせ、ふてぶてしい肉棒を股座にのせた。亀頭は臍の位置まで優に超えている。
「挿入れるぞ」
鈴口と拡張した孔が擦れて、ぬちぬちと粘着質な音が立った。いつもと違う、スキンを着けない生身の繋がり……。急に臆して、ディンは「やっぱり、いつも通り」と切り出したが、言葉は最後まで続かなかった。ヴィズラが腹に潜り込む圧迫感を感じたからだ。ヴィズラはぴっちりと閉じた臓腑の隙間を押し開き、逆撫でした肉襞を轢き潰しながら奥へ突き進んでいく。じわりじわりと、快感が背骨を伝い上がっていく感覚に身震いして、ディンは喉を反らし、ありのままを受け容れた。
「おっ、ん……ぁっ……! あああ……」
拓かれた腹は、ヴィズラをほとんど受け容れた。抽迭がはじまる。引いては押し寄せる怒涛は勢いを増してディンを呑み込んだ。弾けた官能が劣情を煽り、抑えがたいリビドーは男二人の肉体を固く結びつけ、腹の底で渦巻く法悦はディンの敏感になった神経を削り取り、羞恥心の砦を打ち崩した。
「パズッ、あっ、ぐ、パズッ……!」
ヴィズラの首のうしろに腕を引っ掛けて抱き寄せ、揺れる視界の中で、ディンは必死に意識にしがみついた。受け容れすぎた快楽は真っ白な苦痛に変わり、意識を乗っ取ろうとしてくる。今までも、ヴィズラとの交わりの最中に何度か一瞬気を失ったことがある。
「っ、ぅぁ、イくっ、あ、あ、ああ……! ~~~~~っ!」
快感と苦しみの間を揺蕩う意識は絶頂の夢心地にさらわれた。極致感に全身を支配され、一刹那のうちに総身の筋肉が硬直と弛緩を繰り返し、痙攣する。腹の内側も攣縮を繰り返しているのか、ヴィズラは腰を止めたが——すぐに動き出した。抜き差しに合わせて、ディンの腹の中に快楽の波紋が広がる。温かくて心地いい、痺れにも似た感覚。ディンは弱々しく喘いだ。
「ジャリン……」
ヴィズラはディンの膝裏を掴み取ってさらに大きく広げると、腰をくねらせた。男の本能のままに、幅広の腰だけを淫らに前後させて、ヴィズラは息を弾ませる。
「望み通り中に射精してやる」
濡れた粘膜同士が衝突して、ごちゅん、ぶちゅん、と生々しい音が弾ける。ヴィズラは腰を大きく引くと、一息に突き出した。下生えが尻たぶに擦れるほどに肉体が密着して、腹の最奥にある結腸をブチ抜かれた。
「お”っ、~~~~~!」
ディンの眼球の裏側で火花が散った。一気に脳髄まで突き抜けた強烈な甘美な刺激に戦慄く。喉に詰まった酸素がひゅっ、と鳴って、声も出せなくなった。一物からなにも出ていないのに、イった時の感覚に陥り、眩暈がした。
分厚い身体でディンを押し潰すように抱え込み、結腸の窪みに亀頭を食い込ませ、ヴィズラは腰を動かし続ける。体内を抉るような容赦ないピストンに、ディンは息も絶え絶えになった。口から反射的に出る濁った声は、段々と悲鳴じみたものに変わっていく。
快楽から逃れようとヴィズラの胸を押しやるが、腕に力が入らなかった。下敷きにしたものをプレスするような力強いピストンだけが続いた。
「は、パズッ、あっ、あ、よせっ、だめ——おかしくなるっ」
ディンは懇願したが、状況は変わらない。ヘルメットの下で、生理的な涙と鼻水が止まらなくなっていた。緩んだ顎を涎が伝い落ちていく。盛った獣が雌に種付けをするように、ヴィズラはディンを抱え込み、腰を振っている。
「射精すぞっ」
どちゅん、と一際大きく肉と肉がぶつかり、ヴィズラが吼えた。
「んっ」
体内の一番深い場所で射精している……。長く、量も多い射精だった。ディンはほうっと熱っぽい吐息を吐き出した。ヴィズラは吐き出した精液をさらに奥へ注ぐように腰を小刻みに揺すってから去った。事後の倦怠感が、湿った官能に降り注ぐ。
「満足したか?」
ぐったりしたディンを見下ろして、ヴィズラはけろりとしていった。
「どこで覚えたのか知らないが、もっとマシな誘い方があっただろう」
「……夢中になっていたくせによくいう」
図星だったのか、ヴィズラはいいかえしてこなかった。
「後始末が面倒だな。次からはスキンをしろ」
「そう思うなら二度とあんな卑猥なことをいうな」
「そうだな。……悪くはなかったんだが」
ヴィズラが黙った。どうやら、これも図星らしい。
「ジャリン」
「なんだ」
ヴィズラの影が再び被さってきた。
「今夜は付き合え」
「旺盛なことだな」
「それはお前だってそうだろう」
今度はディンが黙る番だった。
どちらが先というわけもなく、小さく笑って、額を重ねる。
今夜は久し振りに、甘ったるい夜になりそうだ。