「甘い匂いがする」
親愛のこもった鋼鉄の口付けのあと、ヴィズラはそういってヘルメットの下で、すん、と鼻を鳴らした。
「甘い匂い……?」
ディンが首を傾げると、ヴィズラは頷いて、匂いを嗅ぐように顔を寄せた。
「お前からするぞ」
「俺から?」
目を瞬かせて、ディンは嗅覚に意識を集中させた。いわれてみれば、ヘルメットを被っていても嗅ぎ取れるほどの甘い香りが鼻先をくすぐる。なんだろう。まるで熟れた果実にも似た柔らかな芳香だ。すぐ近くから漂ってきているような気がする……。
「……あ」
ひとつ心当たりがあった。甘い匂いの正体がわかった時、ディンは思わず小さく笑声を漏らして肩を揺らした。すると今度はヴィズラが首を傾げた。彼はディンの言葉を待っている。
「さっきグローグーと果物を食ったんだ」
「ああ、それでか」
ディンの顎を掴み取ると、ヴィズラは頭を傾けた。唇同士がかつり、と音を立てて触れた。ディンは口端を緩めて、ヴィズラの首のうしろに手を引っ掛け、ほんの少し背伸びをしてキスを返した。腰のうしろに手が回り、胸当てが密着する。盪くした果実の匂いがそうさせるのか、ヴィズラは熱烈な口付けをしてきた。触れるだけのものなのに、夢中になってしまう。
足元で交わった影は、しばらくの間、離れなかった。