Anchor

 角度を変えてヘルメットを重ねていると、腰のうしろに手が回り、抱き寄せられた。少し強引だったが、ディンは抵抗することなく身を委ねた。小さな衝撃を受けた胸当てがかつりと音を立て、身体が密着し、ディンはヴィズラの両腕に収まった。
「ジャリン……」
 頭ひとつ分背の高いヴィズラが背中を丸めると、ディンの首元にヘルメットが埋まった。ヴィズラは、時々こうして恵体を縮こませるようにしてひっついてくる。この時ばかりは分厚い背中に手を回して抱き返して受け容れてやる。
 実のところ、ディンもヴィズラの肩口にヘルメットを埋めるのが好きだったりする。こうすることで、フライトスーツ越しにヴィズラの体温とにおいを感じられるのだ。
 大の男がふたり、会えなかった時間を埋めるかのように、互いを強く抱き、温もりを感じ、においを嗅ぎ合う……まるで本能のままに生きる獣の習性のようだが、ディンにとっては、一種の神聖な儀式だった。こうすることで生を実感できる。ヴィズラの存在をたしかめられる。
 互いに互いのにおいが好きだった。揃って男盛りの年だし、シャワーを浴びられていない時だってある。それでも、信頼関係と安心感からくるものなのか、ヴィズラのにおいは落ち着く。
 すっかりリラックスしていると、ふーっと溜息をついて、ヴィズラが背中を伸ばした。
「もういいのか?」
 ヴィズラはなにもいわなかった。バイザー越しに視線がぶつかって、またヘルメットが引き合った。時間ならいくらでもある。しばらくの間、離れるつもりはなかった。