ヴィズラとは、時々取っ組み合いに転じるほどの喧嘩をする。それでも間にはたしかに信頼があり、親しみがある。それらはすべて仲間意識からくるものだ。それなのに、今では、ヴィズラとは他者が踏み込めない唯一無二の深い関係になっている。
——端緒は、なんだったか。
ディンは、眠気の被さった頭でぼんやりと記憶の糸を手繰った。手繰り寄せたのは出会いの記憶だった。孤児としてマンダロリアンの共同体に迎えられた時には、すでにヴィズラは教義を重んじて生きるという永遠の誓いを立て、ヘルメットを被っていた。
彼は子供ながらに、マンダロリアンの氏族の中でも数多の功績を残してきた由緒あるヴィズラ家の末裔として、気高い誇りに恥じないよう、立派な戦士になるために日々鍛錬に励み、戦闘訓練では歳上すらも打ち負かしていた。
同じ共同体で生きる子供同士、そこそこ関わりはあった。ヴィズラは、強く、勇敢で、ぶっきらぼうながらも仲間思いで、実際慕われていた。夜空を仰ぎ見た時に一際輝いている一番星のような存在だった。
ヴィズラ家で代々受け継がれてきたヘルメットの色である青色のモットーである〝信頼性〟のように、彼は教義に最も誠実で、矛盾なく、頼もしかった。
ヴィズラに心を許したのは、ディンがすべてをなくしたあの日を——同時に生きる道と意味を与えてもらったあの日——夢見て魘されて泣いて起きた時だった。ヴィズラは隣にきて、背中を撫でてくれ、終夜傍にいて、手を握ってくれた。
その夜をきっかけに、子供同士の絆は少しずつ固く結ばれていき、ディンの師匠であり、養父である男の死をきっかけにディンが独り立ちしたあとも育まれていった。
成長したヴィズラは、戦闘では常に先陣を切っていた。時に殿を務めることもあった。仲間を鼓舞し、護り、戦った。ディン自身助けられたこともある。助けたこともある。
——ああ、それで、どうして、こんな関係になったんだったか。どっちが先に惹かれた? 俺だったか、お前だったか……。
重たい瞼を瞬かせ、ディンは寝返りを打った。隣で仰向けで眠っているヴィズラの寝息を窺う。なんとなく、規則的に上下している胸に手を置いた。熟睡しているのか、はたまた完全に気を許しているのか、起きる気配はない。
ヴィズラのコフィン・ベッドは広いが、体格のいい男ふたりが並ぶと狭い。それでも、この空間が心地いい。ディンは、ヴィズラとまぐわい、泥のように眠る夜が好きだった。盪くした果実にも似た官能に耽る中で、引かれ合って重なったヘルメットが立てる固く無機な音も、火照って汗ばんだ肌から匂い立つ男の体臭と汗の臭いも、掻き抱いた分厚い背中も、劣情混じりの熱い吐息も、高鳴る鼓動も、すべてがディンに生を告げるのだ。まだ命がある。生きている——そう感じさせてくれるのは、ヴィズラだけだった。
「……ん」ヴィズラが唸った。胸に置いていた手に肉厚な手が被さる。「なんだ」
「いや、なんでもない。ただ、触れたくなった」
「なら、こっちにこい」
まだ覚醒しきっていないヴィズラが身じろぎして、ディンの方に巨躯を向けた。太い腕がディンの背中を抱き寄せる。身体が密着して、ヴィズラの首元にヘルメットが埋もれた。彼はむにゃむにゃとなにか言ったが、聞き取れなかった。寝ぼけ眼の抱擁にディンは微苦笑したが、胸に込み上げた衝動のままに幅広の腰に手を回した。
どちらが先に仲間以上の情を向けたかなんて、どうでもよくなっていた。愛の言葉だって囁かなくてもいい。必要ない。ただ隣に互いがいる——それだけでいい……。
失くしたくはない温もりに包まれながら、ディンは目を閉じた。間もなくして意識は溶け出し、眠りの底に滴り落ちていった。