Starlit

 グラヴィズ星系にある宇宙ステーションでアーマラーとパズ・ヴィズラと再会した時、ディン・ジャリンは心底安堵した。ネヴァロで帝国軍の残党から逃れたのは彼らだけだと知って胸が痛んだが、再会は喜ばしいものだった。マンダロリアンの新たな隠れ家となったこの場所から、また一歩ずつ進んでいくのだ。マンダロリアンは如何なる苦境にも決して屈しない。
 ヴィズラがバクタ・スプレーで手当てしてくれた足の傷から痛みが完全に引いて、ディンはようやく腰掛けていた階段から立ち上がった。いつまでも休んでいられない。手伝えることは手伝いたい。
 アーマラーにできることはあるか訊ねると、少し休むよういわれた。もう平気だと返したが、平静に、いつもの如く凛とした声音で「傷付いた者には休息が必要だ」と諭されたので、素直に彼女の心遣いに甘えることにした。ここ最近仕事続きで、身体を休めていなかった。弱っている時は、判断を誤ることもある。それに、彼女たちの傍で過ごすのはずいぶん久し振りだ。束の間の安息に浸るのもいいだろう。
 来た道を戻っていると、さっきはいなかったヴィズラを見付けた。広い背中を見詰めて歩み寄ると、彼は振り向かずに「傷はいいのか」いった。
「ああ。さっきはありがとう。世話を掛けた」
 隣に立つと、果てしない宙が見えた。あまねく散らばる星々の瞬きは頼りない。
「しばらくここにいるのか」
「ああ。そうしようと思う。俺にできることは、やらせてほしい」
「やることならいくらでもある。炉の準備も必要だ」
 遠くで星が煌めいた。一等星だろうか。ディンとヴィズラは、互いに黙った。ディンは俯いて、ふっと肩の力を抜いた。
「また会えてよかった」
「そうだな」
 ヘルメットを巡らせ、頭ひとつ分背の高いヴィズラを見上げる。バイザー越しに視線がぶつかった。ヴィズラの眼差しには、熱がこもっている。
「……ジャリン」
 名前を呼ばれた途端に、胸に湧いていた安心感は腹の底まで落ちて粉々に砕け散った。飛び散った安心感の断片は、一気に盛った劣情の炎に呑み込まれて灰になった。そっと腰から抱き寄せられた。胸当てが触れ合って、硬い音が跳ねた。
「……するか?」
 ヘルメットの聴覚センサーを揺さぶる熱烈な誘いに、ディンは歯を食い縛った。互いに欲情している……。
 ディンは返事をする代わりに、腰にあるヴィズラの手に自身の掌を被せて、指先を握った。

 宇宙ステーションの地下の最下層、狭い鋼鉄の通路に張り巡る太い排熱管と排熱管の間にふたりはいた。かろうじて男ふたりが入れる余裕しかないが、物陰になっていて、大柄なヴィズラも隠れる。
 ディンは排熱管に手を突いて、背後に立つヴィズラに身を委ねた。下半身のジッパーと下着が下ろされ、股間と尻が露出する。大きな手がまだ萎えたままの性器を包み込み、ゆっくりと上下しはじめる。潤滑油がないので、レザー手袋グローブと擦れて少し痛かったが、先走りが滲み出てくると、滑りはよくなり、快感が生まれた。根本の膨らみも揉みしだかれた。男同士なのだから、どこが気持ちいいかはわかるだろう。ましてや、ヴィズラとは何度も身体を重ねている。
 ヘルメットの肩口にヴィズラの顎が載り、官能で湿った息遣いを聴覚センサーに感じた。ディンは片手を後ろ手に回し、ヴィズラの下半身をまさぐり、股間部分に被さった装甲を外してやった。装甲は排熱管の突き出している部分に置いた。再び手を這わせると、そこはもう硬くなっていて、盛り上がっていた。ディンは思わず身震いした。この規格外の質量に腹を拓かれる……。
「……ん」
 ゆるゆると性器を扱いていた手が速くなる。指の輪は強弱をつけて張り詰めた亀頭の下から根元まで滑っては戻る。傘下の括れを強く握られると、甘美な痺れが下腹部に広がった。鈴口を親指の腹で詰られ、肉の幹の裏側をくすぐられ、強く撫で摩られ——ディンは果てた。びゅくびゅくと噴き上がった白濁を、ヴィズラは受け止めた。
 ふーっと息を吐き出す。吐精してすっきりはしたが、まだ物足りない。早く繋がってしまいたかった。排熱管に手を突いたまま前屈みになって腰を突き出すと、剥き出しになった尻をヴィズラは鷲掴みにしてきた。彼は肉付きでも堪能するように尻を何度か軽く引っ叩いてきた。かと思えば、撫で摩ってきた。
「俺の尻が恋しかったのか?」
 ディンが溜息の代わりにつまらない冗談を零すと、ヴィズラは「俺以外に抱かれたか?」低い声でいった。
「まさか。お前だけに決まってるだろ」
 他の男に身体を許す——不快感が湧いて、ディンは顔をしかめた。ヴィズラは黙っている。ややあって、精液に塗れた指が交わるための窄まりに潜り込んだ。括約筋は久し振りに迎えたヴィズラの指を拒んだが、抵抗は呆気ないものだった。
「……ん、っぅ」
 ヴィズラの指は肉の嵌合を割り、ディンの腹を拓いていく。ぐちっ、と水っぽい音がした。体内の深い場所に指の存在を感じて、足から力が抜けそうになった。ヴィズラは時間を掛けて孔をほぐしていった。一本だった指は三本に増え、根本まで挿入できるまでになる頃には、色欲の糸にがんじがらめにされたディンは限界だった。
挿入れて、くれ」
「こっち向けるか?」
「……ああ」
 ディンはのろのろと振り返った。いつの間にか前を寛げていたヴィズラの男の象徴が、太い血管を浮かせて屹立している。ふてぶてしいほどの大きさのそれに、ディンはごくりと喉を鳴らした。
「座れ。俺が抱きかかえる」
 促さるままに、ディンが背後の突起に浅く腰を掛けると、膝裏を掴み取られた。折り曲げた両足を開く。下半身は丸見えだが、互いに羞恥心はない。
 ヴィズラを求めてひくつく孔に亀頭が押し当てられたが、すぐには挿入されなかった。まるでキスでもするように、ヴィズラは尖端で濡れそぼつ桃色の粘膜をつついたり、離れたりした。いつものマーキングのような行為だ。
「早く、挿入れろ」
 もどかしくて、ディンはヴィズラの首に腕を引っ掛けた。ぬらぬらと濡れた孔に硬いものが押し当てられ——一息に押し込まれた。張り詰めた亀頭が肉の門を突破する。猛々しい肉杭は半ばまで埋まった。待ち侘びた快感に、ディンは脱力感から気の抜けた声を漏らした。
 膝裏にヴィズラの逞しい両腕が回り、両足をハの字に開いた体勢で抱き上げられた。体勢と、ディン自身の自重で、繋がった部分が密着するのは一瞬だった。
「お”っ、ぁ……!」
 目の前がちかちかと明滅して、反ったディンの喉から歓喜の声が絞り出された。
「なんだ、俺のナニが恋しかったのか?」
「……っ、そんなわけ、あるかっ……」
 胸をどついてやりたかったが、身体に力が入らなかった。ディンは足を大きく開いたまま、排熱管とヴィズラの間に挟まれた。ディンを軽々抱き上げたまま、ヴィズラは「動くぞ」囁いて、腰をくねらせた。肉襞を轢き潰し、体内を往復するヴィズラの存在を骨盤の内側に感じて、ディンは慄いた。
「ぁ、あっ、っ……んっ」
 上下に動くピストンに合わせてディンの腹から嬌声が押し上げられる。ヘルメットの額同士が引き合って重なり、聞き慣れた無機な音が跳ねた。残響は官能と混ざり合って、情欲を激しく煽った。本能を喰らい合う今この瞬間、宇宙にはディンとヴィズラしかいなかった。
 生きている。生きていていい。生きなければならない。
「お前に、会いたかった」
 ディンは息も絶え絶えになりながら、胸に秘めていた想いを吐き出し、ヴィズラの首のうしろで重ねた手に力を込めた。ヘルメットのバイザー越しに視線が絡まって、逸らせなくなる。
「……俺もだ」
 ヴィズラの声には熱がこもっていた。それで十分だった。
「ジャリン」
「……パズ」
 ヴィズラの腰が止まって、触れ合ったヘルメットが——唇の辺り——かつりと鳴る。ディンは衝動的に両足でヴィズラの腰を挟み込んだ。「激しく、してくれ」
「あとで立てなくなっても知らないぞ」
「構わない」
「後悔するなよ」
 ヴィズラのヘルメットが離れていく。彼はディンの足をさらに大きく開かせると、ゆっくりと腰を引いた。体内に留まっていたものが抜け落ちそうなところまで引くと、神経が集中している孔の縁を擦り上げられた。捏ねるように動いていたそれは、一気に奥に滑り込んできた。短いストロークで体内を突かれ、ディンは頭を反らした。肉と肉がぶつかる生々しい音が聴覚センサーを震わせる。 
「おっ、あ、あ、あっ」
 泣き所を責め立てる腰使いだった。臓腑の隙間をみっちりと埋めるヴィズラの男の本能は、確実にディンの弱い場所を突いてくる。火照った身体を巡る快楽の怒涛に呑まれそうになりながら、ディンは無我夢中でヴィズラにしがみついた。雄々しい分厚い肉体は、匂い立つほどの官能に満ちている。
「……ここ、好きだろ?」
 わざと腰を止めてから、焦らすように粘膜の隘路をじわじわと突き進み、ヴィズラは、自身しか知らない最奥に到達した。突破されてはいけない臓腑の窄まりに灼熱が食い込み——ブチ抜かれた一刹那、ディンの総身が強張り、喉から濁った声が出た。窄まりに亀頭を食い込ませ、ヴィズラは腰をくねらせて、執拗に肉壁を叩いてくる。
「……っ! ぁ、やめ——やめろ、だめだっ、あっ、あ、~~~~っ!」
「本当にやめてほしいのか?」
「は、あ、あっ、~~~~っ、……!」
 目を開けているのに、ディンの目の前は真っ白になった。赤や緑の影が素早く視界を横切る。生理的な涙が瞬発的に湧き、鼻水が垂れ、顎に力が入らなかった。緩く勃起していた性器から、どろどろと勢いのない体液が間歇的に漏れ出ていることにすら気付かなかった。
「気をやるなよ」
 答えられないでいるディンを抱え直し、ヴィズラは腰だけを動かした。
「あ、いっ……イった、ばかりだっ、よせ……!」
「激しくしろといったのはお前だ」
「っん、ん……、あっ」
 極致感オルガスムスの余韻に浸る間もなく責め立てられ、快楽に身体を支配された。気持ちがいいが、快楽は受け容れすぎると苦痛に変わる。甘ったるい苦痛から逃れたくて、ディンは必死にヴィズラに抱きついた。形のない法悦エクスタシーが渦を巻いて、腹の底から鳩尾のあたりまで浮上する。眼球の裏で火花が散っている……。
「……は、あ」
 腹に載った萎えている自身から、また体液が溢れていた。何度目かの沸点に、ディンは呼吸をするだけで精一杯だった。
 円を描くように律動していたヴィズラの腰使いが、ディンの最奥を突く動きに変じた。射精に向けた荒々しい動きだが、呼吸を乱して腰を振っているヴィズラを見ると、ディンの中に一握の陶酔感が湧く。この男の本能に任せた淫らな姿を見られるのは、己との密約にも似た男同士の交わりでだけだ……。
「……射精るっ……」
 ヴィズラの切羽詰まった声が弾け、体内で熱いものが流動する。ディンは腹の力を抜いた。巨躯であるヴィズラの射精は長い。
「まだ勃つだろう?」
 ディンは体内に留まっていたヴィズラが去る前に訊いた。
「俺が一度でへばったことがあったか?」
 孔から抜け落ちた男の本能は、まだ勢い付いている。
 ディンは腰掛けていた突起から降りて、ヴィズラに背を向け、マントを捲り、腰を突き出した。中に出された真っ白な快楽の名残が溢流して内腿を伝い落ちていく感覚がした。
 ヴィズラの手が腹に回った。人々の営みが粛々と展開する宇宙の片隅で、求め合い、互いを貪り合った。