Keep the Fire

 ぱちり、と火の中でくべた枝が弾ける小さな音が夜気を震わせた。焚火を挟んだ向かいで岩を背にして座っているヴィズラが、枝を半分に割って投げ入れると、火はわずかに勢いを増した。
 見張りを交代してから間もないが、今のところ異常はない。このまま何事もなく朝になればいい。護るべき存在である孤児たちが穏やかな眠りに就いているのは、いいことなのだから。
「傷は癒えたのか」
 不意に投げかけられたヴィズラの問い掛けに、ディンはわずかに顔を上げた。以前彼が手当してくれた、ダークセイバーで負った傷のことをいっているのだと気付くのに少し時間が掛かった。なにぶん、この稼業では、怪我をすることもある。
「ああ。あの時は、ありがとう」
 再び揺れる火を見詰める。辺りは静かだ。杳とした闇だけがあった。火だけが揺れて——気配を背後に感じた一刹那、ディンは素早く立ち上がり、振り向きざまに闇に向けてブラスターを向けた。真の闇の中に佇んでいたのは、ラグナーだった。ディンは銃口を下ろして、ゆっくりと元の位置に戻った。
「ラグナー、どうしたんだ」
「父さん」
 ラグナーはディンの横を通り過ぎて、父親の元へ歩み寄った。
「悪い夢を見たんだ。それで……」声が小さく震えていた。まだ未成熟なシルエットが大柄なヴィズラの腕に収まる。「怖くなったんだ」
 父親の手を握る手が力んだのをディンは見逃さなかった。それもそうかと剣呑と眉を寄せる。脅威は去ったとはいえ、肉食のラプターに攫われた恐怖は想像に難くない。
「そうか。しばらくここにいるといい」
「うん」
 安堵したのか、ラグナーは父親の分厚い胸に背中を預けた。会話はない。火の中で、燃える枝だけが乾いた音を立てている。しばらくして、規則的な寝息が聞こえてきた。
「寝かせてくる」
 起こさないよう慎重に息子を抱き上げて、ヴィズラは子供たちが眠るテントへ向かった。
 ディンは新しい枝を折って火に投げ入れた。火は勢いを増し、辺りを赤々と照らした。ベスカー製のアーマーが鈍色に照らし出される。夜明けは遠い。
 ヴィズラが戻ってきて、また向かいに座り込んだ。
「よほど怖かったんだろうな。寝ぼけながらも俺の手を離さなかった」
「傍にいてやらなくていいのか?」
「ああ。ぐっすり眠っているから、大丈夫だろう」
 彼はふーっと長い息を吐いて、天を仰いだ。ディンも倣って視軸を上げた。今夜は月が満ちている。何光年先では星々が頼りなく瞬いている。地上から空を見上げたのは、ずいぶんと久しぶりな気がする。
 名前を呼ばれ、ディンは意識を正面に向けた。
「ラグナーを救ってくれた恩は決して忘れない。感謝する。あの子は俺にとってなによりも大切な存在だ。あの子のためなら、俺はすべてを差し出せる。あの子は……俺の未来なんだ」
 慈愛に満ちた決意だった。ヴィズラの気持ちは痛いほどわかる。ディン自身、グローグーのためなら、精神に染みついたマンダロリアンとしての教義を破る覚悟がある。魂をかけることができる……。
「我らの道」ディンは胸に込み上げた熱情を口にする。
「我らの道」ヴィズラもまた力強く復唱した。
 胸の内側で火のように熱く盛る感情は、夜明けがきても燻ることはなかった。グローグーが目覚めたら、抱き締めてやりたかった。