Still Here

 グラヴィズ・リングワールドの地下。マンダロリアンの新たな隠れ家となったこの場所に到着したばかりのディン・ジャリンは、アーマラーの心遣いで段差に腰掛けて休んでいた。パズ・ヴィズラがバクタ・スプレーで処置してくれたおかげで、ダークセイバーで負傷した足の痛みはだいぶ引いてきた。傷が完全に癒えるのに半月は掛かるかもしれないが、じきによくなるだろう。
 ディンは俯きがちに溜息をついた。グローグーを仲間の元へ返してから、溜息が増えた気がする。仲間の元へ返すまでは、親代わりとなる——マンダロリアンとしての責任を果たし、ひとりに戻っただけなのに、ふとした時に、グローグーのことを考えてしまうのだ。
「傷はどうだ」
 聞き慣れた声にディンは顔を上げた。ヴィズラが鷹揚と歩み寄ってきた。
「おかげで痛みが和らいだ」
 ディンが身じろぎすると、彼は隣に腰を下ろした。
「再会してすぐに手当てをすることになるとはな」
「面倒をかけた」
「気にするな」
 ネヴァロを出てから——色々あった。こうして話をしていると、再び生きて会えたことに対する喜びが胸に湧く。久しぶりに嬉しいと感じている自分自身に、ディンは驚いた。
「なにがあった? お前らしくないな」
「…………」
 ディンは首を巡らせてヴィズラを見た。ヘルメットのバイザー越しに視線が交わったが、なにもいえなかった。ヴィズラは、ディン自身がごまかしてきた心境の変化に気付いている。他者の心の機微には鈍感そうに見えるのに。
「……わかるか?」
「お前のことは子供の頃から知ってるんだ。いやでもわかる。お前は昔から変わらないからな」
「そうか?」
「そうだ」
 ディンは思わず苦笑いした。子供の頃から馴染みであるヴィズラにそう言われると、反論ができない。子供の頃に形成された性格や価値観、気質の根幹となる部分は、この歳になっても変わらないのは事実だ。ディンだって、ヴィズラの性分はわかっている。
 沈黙のあと、ディンは胸の内で暴れている感情を言葉にするために目を閉じた。瞼の裏に浮かぶのは、グローグーだ。
「あの子に……グローグーに会いたいんだ」
「会いに行ってやれ」
「……いけない。あの子は仲間の元にいる」
 何度も己に言い聞かせてきたことを口にして、ディンは俯いた。心を殺すたびに、胸の奥がぎりぎりと軋む。
「だからなんだ。お前は父親だろう。親が子供に会ってなにが悪い。子供は親を恋しがる」
「……っ」
 ディンは歯を食い縛った。グローグーも寂しがっているだろうか。仲間の元で元気でやっているだろうか。いいや、考えてはいけない。安全な場所で、頑張っているだろうから……。
「……だめだ。会いに行けない。あいつは……きっと、大丈夫だ」
 喉から絞り出すようにいう。ヴィズラが黙った。
「ジャリン」
 長い沈黙のあと、静かな声で名を呼ばれた。おずおずと顔を上げる。目の前が涙で水っぽく歪んでいることに気付いて、ディンは顔をしかめた。
「子供には、親が必要なんだよ。それをお前が一番わかってるんじゃないのか?」
「…………」
 優しかった父の別れ際の顔が記憶の海から浮上する。大好きだった。離れたくなかった。師であり、養父であった誇り高い男の背中が浮かぶ。かけがえのない人だった。傍にいてほしかった。ふたりの父のことを忘れることは絶対にない……。
「グローグーに、会いに行く」
「そうしてやれ。孤児も喜ぶ」
「あの子に、贈り物がしたい」
 立ち上がろうとして——よろめいた。
「落ち着けよ。バクタ・スプレーが効くまで待て」
 ヴィズラの制止に、ディンは微苦笑してまた座った。足はまだじんじんと痛んでいる。涙は、引いていた。