Sweet Inferno

 ディン・ジャリンは、ネヴァロ・シティの地下にある下水道でひっそりと暮らす同胞たちの元を積極的に訪うようにしている。孤児たちを養えるように資金を提供する責任があり、アーマラーに防具のメンテナンスをしてもらう必要もあるからだ。
 そしてもうひとつ、決して口にはできない目的がある。それは同胞であるパズ・ヴィズラに会うためだ。彼とは——肉体関係を持っている。
 以前寝る場所を提供してくれたヴィズラの寝床で、ちょっとした勘違いで自慰の邪魔をしてしまって、劣情を発散できなかった彼に「抱かせてほしい」と言われ、そのまま承諾したのがきっかけだった。それっきりで終われば一夜の過ちとなったかもしれないが、互いにパートナーがいないこともあり、後日なんとなくまたそんな雰囲気になって、身体を許した。こうして関係は続き、時々密約にも似た行為に耽るようになった。
 ヴィズラとの性交渉は、性欲を発散するためのものであって、愛情は間にはない。肉体だけの関係であるから、色事のすったもんだもなければ、面倒な駆け引きもない——そもそもディンには恋愛経験などないのだが——楽でいい。
 その夜も、ディンはヴィズラのコフィン・ベッドの中にいた。
 ランプの仄燈に照らされたコフィン・ベッドにこもるのは、男ふたり分の湿った息遣いと、汗ばんで火照った身体から滲み出る体臭と、とらくした果実が放つ芳香のような、噎せ返るほどの官能だった。
 ディンが持参した潤滑油のボトルを——今はいつでも使えるようにヴィズラに預けている——手繰り寄せたヴィズラの吐息には、噛み殺しきれていない劣情の気配があった。
 折り曲げていた膝の裏側を掴まれ、足がさらに大きく開かれて、ヴィズラの巨躯が太もものあわいに深く割り入った。潤滑油で濡れた指が、まだヴィズラを受け容れる準備のできていない窄まりに触れる。
「力を抜け」
 ぶっきらぼうに言って、ヴィズラは円を描くように孔を撫で摩ってきた。ディンはいわれた通りに、ふーっと息を吐いて腹から力を抜いた。これから思う存分互いを喰らい合い、性欲を発散する。ぞくぞくした。性的興奮がふつふつと腹の底で煮えていく。
 ふたり分の呼吸音と指が粘膜を搔き乱す粘着質な音だけがディンのヘルメットの聴覚センサーに届いた。
 繋がるために最低限の部分だけを剥き出しにして、行為は続く。会話は必要なかった。今はただ、衝動的に求め合えればいい。
「ん、っ……ぐ……」
 指の腹に神経が集中している敏感な浅い部分を擦り上げられ、噛み締めたディンの歯の間から、鋭い吐息と呻き声が漏れた。ディンの反応を窺うように、ヴィズラは指を増やした。ディンはふっふと息を乱して繋がった場所に視線を向けた。中指と薬指がくねるように動いて孔に差し込まれていくのが見えた。指が根元まで埋もれると、掌が小刻みに規則的に前後した。
 甘ったるい刺激がディンの腹を冒していく。ヴィズラは掌を前後させながら、体内で指をわずかに腹側に折り曲げた。腹の内側をくすぐられ、ディンは頭を反らして喘いだ。気持ちがいい……。
 不意に掌の動きが止まり、鉤型に曲がった指の腹がなにかを探るように滑り、ある場所を押しやった。
「……っ!」
 瞬発的に快楽が背骨を駆け上がり、ディンの太腿が跳ね上がった。腹の上でゆるく勃起していたペニスから精液が噴き上がる。特定の場所を押し上げられると、いつも呆気なく射精してしまう……。
 びくびくと身体を痙攣させて弱々しい呼吸を繰り返しているディンを見下ろし、ヴィズラは指を引き抜いた。しとどに濡れて拓かれた孔は、ヴィズラの猛々しい男の本能を欲している。
 射精感に打ち震えているディンの太ももの間で、ヴィズラは鷹揚とフライトスーツの前を寛げた。硬くなって膨らんだ陽根が勢いよく露出する。ランプのオレンジ色の仄燈が、ふてぶてしい凶悪なシルエットを暴く。鈴口から先走りがどっぷりと溢れて筋を描き、血管を浮かせた側面を伝い落ちている。
 ヴィズラは陽根の根元を握り締めると、ディンの小振りな引き締まった尻の割れ目をなぞった。雁高の亀頭はそのままディンの睾丸を押し上げ、濡れた孔の吸い付きを楽しむように触れては離れた。雄が雌にするマーキングのような行為を、ヴィズラは好む。
挿入れるぞ」
 ヴィズラの宣言のあと、ディンはごくりと唾を飲み込んで、手首を反らして枕の端を握り締め、できるかぎり脱力した。
「……んっ」
 指とは違った圧迫感がゆっくりと腹の内側に食い込んでくる。圧倒的な質量だった。
「ぅ、ぐ……ふぅ……」
 息が詰まった。痛みがないのが幸いだが、挿入時の苦しみは未だに慣れない。
 腰を突き出したヴィズラの下生えが尻たぶに密着した。すべてをディンの腹に収めると、彼は腹の横にあった対の足首を掴み、自身の肩に載せた。
「は、あ、ぅ……あっ」
 ヴィズラの両肩に踵を引っ掛け、ディンは喘いだ。上からのしかかるように重たいピストンがはじまる。潤滑油のおかげで抜き差しはスムーズだ。引いては押し寄せる快楽は、鋭く甘くディンを責め立てた。肉と肉がぶつかる生々しい湿った音は、ふたりをますます欲情させた。
 ディンは震える手を伸ばし、ヴィズラの胸に触れ、指先で上から下に撫でた。アーマー越しに、筋肉で隆起した逞しく厚い胸の内側から生き生きとした鼓動が伝わってくるようだった。最近はこんな風に触れ合うことも増えた。まるで愛情によって紡がれる愛撫のようだが、性的興奮が膨らむからだと、ディンは自分に言い聞かせている。
 上半身を屈めたヴィズラのヘルメットが近付いてきて、ディンの視界が覆われた。ちょうど唇の辺りがぶつかって、かつり、と硬い音が跳ねた。吐息が重なる距離感。ヴィズラの腰の動きに合わせてヘルメットは何度もぶつかる。
 ディンはヴィズラの太い首のうしろに腕を回して抱き寄せた。
「……がっつきすぎだ」
 ディンの息も絶え絶えの囁きに、ヴィズラはフンと鼻を鳴らした。「お前もな」
 ヴィズラは首のうしろにあった左手を剥がすと、指を互い違いに組んで掬い取り、そのままディンのヘルメットの横に縫い付けた。
 短いストロークが奥を突く長いものへと変わる。
「っ……んっ、ん……あっ」
「奥、好きだろ」
 男の本能が抜け落ちそうなくらい腰が引かれる。肉襞を逆撫でして退いた熱い滾りは、一息でディンの深い場所まで到達した。ヴィズラしか知らない最奥にある臓腑の窄まりを貫かれ、ディンは慄いた。強烈な痺れが全身を支配する。
 ヴィズラの腰使いは、徐々に内臓を轢き潰すものへと変じていく。沸騰していたどろどろした法悦エクスタシーがせり上がってきて、ディンの脳髄に肉薄する。
「……ぉ、奥、ぁ、だめだっ、やめ——」
 強烈な快感に襲われ、言葉は途切れ、意味を成さない震え声になった。
「…………! あ、あ、……っ……!」
 快楽は、受け容れすぎると苦痛に変わる。ディンは苦しみから逃れようと、押さえ付けられている左手に力を込め、ヴィズラの手を強く握った。伸びていたヴィズラの指が曲がり、互い違いに交わる指がしっかりと合わさった。
 どちゅん、と結合部から一際重たい音がして、ディンの脳髄に迫っていた形のない法悦エクスタシーが弾けて全身を巡った。目の前で強い光を見た時のように視界が真っ白になった。生理的な涙が湧いて、睫毛に絡む。瞬きを繰り返すと、瞼の裏で赤や緑の影が舞った。
「~~~~~~っ!」
 総身の筋肉が硬直と弛緩を繰り返す。一気に腰回りが熱くなった。失禁したのかと思って慌てて下半身を見ると、腹の上で揺れていた男の象徴から、勢いのない体液が押し出されるように溢れ出ていた。
「……よく締まるな」ヴィズラは息を弾ませ、腰を止めた。「俺も限界だ」
 繋がっていた手が離れる。ヴィズラはディンの膝裏を両方掴み取ると、身を乗り出し、のしかかってきた。腰の動きが射精に向けて突くだけの荒々しいものに切り替わる。
「あ、ぐっ——んっ」
 極致感オルガスムスに浸る間もなく揺さぶられた。奥を何度も抉るように叩かれて、意識を手放さないようにするのに必死だった。快楽は怒涛となって押し寄せて、容赦なくディンを襲う。ディンはヴィズラの腋の下から腕を回し、肩甲骨のくぼみに指を引っ掛けてしがみついた。重々しいピストンは止まらない。粘っこい音がディンの微かな喘ぎ声に被さる。
「……っ、は——射精るっ……」
 言い終わる前に、熱いものが体内に注がれる感覚がして、ディンは眩暈を覚えた。
 身体の大きいヴィズラの射精は長い。精液をすべてディンの中に吐き出してから、ヴィズラはゆっくりと離れた。拡張した孔から、射精を終えて勢いをなくした性器がまろび出る。萎えたといえども、規格外の大きさだ。
 互いに息が乱れていた。ディンは折り曲げた足を開いたまま放心していた。もう何度も交わっているのに、ヴィズラとの性交渉が単調なものではないのは、身体の相性がいいのだろうか。いつも泣き所ばかり責められる。
「大丈夫か?」
「……ああ。問題ない」
 所在なく手を腹に置いてディンは言った。片手を突いて起き上がろうとしたが、腰がだるい。かろうじて下着を上げる。
 少し休んでから去るか、さっさとシャワーを浴びに行くか考えあぐねていると、首を巡らせたヴィズラとバイザー越しに視線が合った——気がした。
 片手が伸びてきた。一拍置いて、差し出された手を取り、身体を起こす。手はすぐに離さなかった。否、なぜか、離せなかった。見詰め合うと、夢心地に似た気持ちに襲われた。
「……ありがとう」
 ややあって手を離す。ヴィズラはなにもいわなかった。
 まだ熱っぽい腹を摩って、ディンは溜息をついた。
 腰はだるいが、すっきりしていた。今夜はよく眠れそうだ。