※何もなかったけど主人公が過去の恋愛経験について語るシーンがあります。
※オルーニィは総排出孔という設定です。総排出孔ならびに生殖器についてはダチョウをモデルにしています
ランプの仄燈が灯る寝室は、重たい夜の帳と、眠気を誘う静けさだけがあった。真の姿で体温の染みたシーツに横たわる神の片腕に抱かれ、穏やかな呼吸に合わせて膨らむ胸元に頬を押し付けて目を閉じていると、まるで身体の境界線が溶け合ってひとつになったかのような幸福感を覚える。この時間が好きだが、今夜は、神聖な時間がどろどろとしたどす黒いものに侵食されている。
いつも眠りに落ちるまでの間に神が語ってくれる昔話——神と人間の歴史や、神が出会ってきた人間達の話だ。ワタクシはこの話を聞くのが好きだ——の内容のせいかもしれない。かつて神を慕っていた女性の話を、やけに熱っぽく感傷的に語るものだから、複雑な気持ちになってしまったのだ。当然、神は人類が繁栄するよりも前、神話の時代から生きているのだから、情熱的な恋愛のひとつやふたつは経験があるだろう。しかし、ワタクシの知らない誰かとの話など、聞きたくはなかった。
「アナタ様を慕っていた女性とは、その後どうなったのですか」
眠気が鋭い怒りの刃に裂かれていく。頭を擡げて神の言葉の続きを待った。神は言葉を選んでいるのか、はたまた、話題を間違えたことに気付いたのか、顔をしかめている。
「何もなかった」
「……本当ですか?」
「本当だ。誓うよ」
じっと神を見詰める。美しい眸はまっすぐにワタクシへ向いている。ふっと、胸の中にあった激情が鎮まっていった。
「何があったにせよ、もう過去の話ですね」
身体を起こし、神の身体に乗り上げて、寝衣の襟元をぎゅっと握り締める。過ぎたことに固執する必要はない。神は今、ワタクシの元にいる。ワタクシだけの神なのだ。
「嫉妬した?」
神の御手が背中に載る。
「まさか、そんな浅ましい感情をワタクシが抱くわけがありません」
「本当に?」
「…………」瞼を半分下ろす。「嫉妬したのかもしれません」
神が喉の奥で小さく笑った。「意外だな」
「寵愛を受けた者がいることに対して嫉妬したというよりも、ワタクシの知らないアナタ様を知っている者をひどく羨ましく思ってしまったのです。アナタ様の過去にワタクシはいません。ワタクシの知らないアナタ様の表情や言葉を知っている者がいるのは、耐えられません」
「私は君のそういうところが好きだよ」
頭を撫でられた。御手はそのまま頬に移った。
「これからは、私と君で未来を歩もう。長い時間を掛けて、私を知るといい」
「はい……ああ……ワタクシの神様……」
肺腑にこもった熱を吐き出す。身体の下で、呼吸に合わせて神の胸や腹が小さく波打った。神の胸に頬を摺り寄せる。幸せだ。
御手が背中に載り、まるで幼い子供をあやすように優しく叩かれた。リズミカルな振動は眠気を連れてきた。うとうとしていると、御手はゆっくりと下肢に向けて滑っていき、やがて臀部に辿り着いた。溶けかけた意識のままじっとしていると、膨らみを撫で摩られ、揉みしだかれた。びくりと身体が強張り、眠気が頭の中から転げ落ちた。
「ん、神様……」
指先が太腿の付け根をなぞったかと思えば、総排出孔の辺りまで這い上がる。情事の時に味わう快感に似た刺激に、身震いする。愛撫は続き、下腹部がじくじくと熱を帯びていく。
やがて、臀部に熱く硬いものが押し当てられた。それが昂った男の本能であることは見なくてもわかる。
「……したく、なってしまいます」
小さく震える声で言って、神を上目に見詰める。
「しようか。私も君を抱きたくなった」
柔らかな眼差しだったが、眸に情欲の巨影が過ったのを見逃さなかった。
「今夜は、ワタクシが、全部します」
「全部?」
「はい。全部です。アナタ様にワタクシを知っていただきたいのです。ワタクシがいかにアナタ様を想い、慕っているのかを。ワタクシがどれほどアナタ様に焦がれ、尽くしたいと思っているのかを」
上半身を起こし、神の腹に跨って、スリーパーの裾を摘み上げる。ちらりと覗いた太腿に熱い視線がそそがれている。胸の内側で心臓が暴れはじめた。
「それじゃあ、君に任せよう。はじめだけ私が手を貸そう。君は爪が鋭いから、体内を傷付けてしまう」
神の寝衣の帯を掴み取って解き、はだけさせる。雄々しい完璧な肉体の上でほんの少しだけ腰を上げて下着をずらし、剥き出しになった臀部を神の下腹部に下ろす。神の下着も下ろしてしまおうかと思ったが、まだ総排出孔をほぐしていないのであとにすることにした。
性行為の経験なんて、正直なところろくすっぽない。神に抱かれるようになってから得も言われぬ快楽を知ったといってもいい。それでも、奉仕したいと思った。
神の指が二本、狭い口腔に押し込まれた。口腔を犯されているようだった。唾液がたっぷり絡んだ指はすぐに総排出孔に触れた。
「……ん、っ、……くっ……」
孔が柔らかくなるまで丹念に撫でられた。濡れた指が挿入できるようになるまで時間が掛かったが、神の指が荒っぽく動くことも、性急に動くこともなかった。指と粘膜が擦れるぐちりぐちりという粘ついた音が余裕のない息遣いに被さる。神の太く長い指は、時々体内で鉤型に曲がり、気持ちのいいところを擦り上げてきた。それだけで果ててしまいそうだった。
「ふ、ふうぅ……」
背中を伸ばしたり丸めたりしながら、与えられる甘美な悦を受容する。神を受け容れる孔は少しずつ拡張していき、ついに二本の指が根元まで挿入できるまでになった。
「あとは、ワタクシが、やります」
気持ちよくて身体が宙に浮いている時のような感覚に陥った。腹の底で快楽が確実に煮えている。
身体をずらし、神の張り詰めている男の本能を解放しようと下着を下ろした。ぶるりと勢いよく飛び出したそれは、肉色の幹に血管を浮かせて天井を向いている。先端からどっぷりと先走りが溢れていた。大きく逞しい……。情事の度に思うが、こんなものがすべて体内に収まることに驚く。
厚く滾る昂りを臀部に密着させ、神の腹に片手を突き、膝立ちになって腰を上げる。臀部を片方鷲掴みにして外側に引っ張りながら濡れた鈴口を総排出孔に押し当て、ゆっくりと、慎重に、おそるおそる腰を下ろしていく。
「ぁ、んっ、は、あぁ……!」
自重で肉杭に沈んでいった。骨盤の内側を圧倒的な質量が埋めていくのがわかった。確実に、腹の中が神でいっぱいになっていく。腰を前後にくねらせると、弱いところにあたってすぐにイってしまいそうになった。神が長く息を吐き出している。攣縮する体内を味わっているのだろう。
「……ひぅっ……あ、ぁ……」
なんとか深呼吸を繰り返し、硬直した全身の筋肉から力を抜きながら、神を腹に収めていった。臀部と股座が密着すると、単眼には生理的な涙の膜が張った。これで、すべて挿入った。
苦しくなって喘ぎ、普段しまいこんでいる性器を——ワタクシの種族は男も総排出孔を持っているが、ペニスもついている。なので、排尿と生殖の方法は大体の種族と同じだ——露出させる。中途半端に勃起した自身を見下ろして、深く息を吸い込み、両手を神の腹に突いて、奉仕をするために腰を上げて下ろした。「……っ!」
小さなピストンでも、衝撃は腹に重く響いた。緩やかな抜き差しはスムーズだった。肉と肉がぶつかって淫らな音が弾ける。無我夢中で沸点に向けてひたすら腰を揺さぶった。法悦の荒波が怒涛となって押し寄せ、意識を飲み込もうとする。快楽というのは、受け容れすぎると苦痛に変わる。それも神との交わりで知った。下腹部で渦を巻く形のない何かが脊髄を伝い上がり、脳天を貫こうとする。その耐え難いほどの強烈な刺激に慄き、思わず動きを止めた。息が乱れている。
「はっ、あ、ぅ……はぁ——はぁっ……」
「頑張れ頑張れ」
突っ張っていた両腕から力が抜けそうになっていると、神に両手首を掴まれた。歯を食い縛って、抽迭を再開する。
「気持ちいい、ですか?」
「ああ、すごく気持ちいいよ」神の息も乱れていた。「それに、そそる景色だ」
ランプの仄燈が、繋がったワタクシ達の輪郭を暴いていた。壁に貼り付いた影を見ていると、なんだか、自分が夜を喰らう魔物にでもなった気分になる……。
腰を大きく上げ、一息に落とす。肉襞を逆撫でして、神はワタクシの最奥を穿った。喉の奥で息が詰まった。眼球の裏側で、赤や緑の光がちかちかと弾ける。神の形を覚えた臓腑の窄まりが、貪欲にさらなる快楽を求めている。短いストロークから長いストロークに切り替え、奉仕を続ける。気が付けば情けない喘ぎ声が止まらなくなっていた。いつの間にか緩く勃ち上がっていた自身が硬さを得て質量を増して揺れていた。厚いマットレスが動きに合わせて弾む。神の御手が、腹にあったワタクシの手を掬い取り、掌が合わさって、指が互い違いに組み合わさった。腹に手を突いているよりも動きやすかった。
「ん、あ、ぁ、あっ、きちゃうっ……!」
声は声にならなかった。腹の奥の奥を突かれて、脊髄に留まっていた形のない灼熱が脳天までせり上がり——爆発した。
「あっ、…………! ~~~~~っ!」
これ以上腰を動かすことはできなかった。背骨が丸まり、爪先が強張る。押し上げられるように陽根から勢いのない白濁が溢れ出た。
「……ふ、ぅ」総身の筋肉が弛緩した瞬間、神の腰が動きはじめた。「あうっ……!」
体内を抉るような腰使いに、喉が反った。息ができなくなる。極致感の余韻に意識が一刹那途切れた。結合部からどちゅんと重く湿った音がしている。
「君はいじらしいね、オルーニィ。本当に可愛い」
「っ、あっ、かみっ、さまっ、あ、あ、ぁ……!」
「すべて君に任せるつもりだったのに、は……すまない。抑えられない」
「だめっ、あ、イく、イきますっ……! らめ、あ、ぁ……!」
生理的な涙の膜が破れ、目の端から零れ落ちた。気持ちがいい。苦しい。気持ちがいい……。神の御手を握る手に力がこもる。鋭い爪が神の御手を裂いたが、おびただしい量の血が溢れることはなく、傷は瞬時に癒えた。
二回目の絶頂は声も出せなかった。神の腰が止まった。痙攣するように収縮する臓腑の動きを感じているのか、熱っぽく息を吐いている。ほどなくして、隙間なく密着した結合部が離れ、ぶつかり、また離れた。ピストンに合わせて、萎えている自身がみっともなく揺れた。
「射精すぞ」
神の声は、まるで唸り声のようだった。組み合わさっていた手が解かれ、腰を両サイドから掴まれた。腹の一番深い場所で男の本能がどくどくと脈打ち、熱いものがそそがれる感覚がした。互いの不規則な息遣いだけが寝室にこもる。
神は動けないままでいるワタクシを腰から持ち上げた。ぬらぬらと濡れた総排出孔から、射精を終えた陽根が抜け落ちた。
どうっと神の胸に倒れ込んだ。聴覚器官に、生き生きとした鼓動が届くと、一気に安心感が込み上げた。
「オルーニィ」
「はい」
「大丈夫か?」
「……はい」
身じろぎしてのろのろと顔を上げ、顎を神の厚い胸に載せる。総排出孔から吐き出されたものが溢流している感じがする。
「ワタクシの奉仕では、物足りませんでしたか?」
「いいや。イきそうだった。我慢するのが精一杯だったよ」ただ、と神は続けた。「君があまりにも可愛いから、めちゃくちゃにしたくなった」
神はすまないと結ぶと、ワタクシの背中に腕を回した。
「シャワーを浴びないといけないな」
「そうですね。ですが、しばらくの間はこのままでいさせていただけませんか?」
「いいよ」
神の胸に再び聴覚器官を押し当てる。静かな鼓動は、官能の激情を鎮めていくようだった。この鼓動を独占できるのは、ワタクシだけだ。
「……ワタクシの、神様……」
囁いて、目を閉じる。
神の過去にワタクシはいない。それでも、これからは未来を共に歩める。この命が尽きるその時まで共にありたい。己の存在が過去のものになったとしても、神はワタクシを忘れたりはしないだろう。神は、優しい御方だから。
事後の倦怠感がのしかかる。遠のいていた眠気が戻ってきた。
街の片隅で、愛に満ちた夜が更けていく。