日頃の感謝や愛を込めてチョコレートを贈り合う日に、神はワタクシのために一杯のホットチョコレートを淹れてくださった。
仮初の姿でソファで寛ぐ神——ワタクシが贈ったチョコレートのアソートをどれから食べようか迷っている——の隣に座り、両手で温かいマグカップを包み込み、火傷をしないようにふうふうと息を吹きかける。とろみのある淡い褐色の液体は、うっとりしたくなるほど濃い魅惑的なチョコレートの香りを漂わせている。甘いものが好物のワタクシにとって、嬉しい贈り物だ。
チョコレートは、古の時代に異世界から持ち込まれたもので、この世界では誰もが口にすることができる。原料はカカオと呼ばれる豆だ。はるか遠い異世界でまだ神々が信仰されていた時代、カカオは神が自ら血を流して育み、人間にもたらした食べ物とされ、神聖視されていたそうだ。
それを教えてくれたのは、まぎれもない、隣で美味しそうにチョコレートを頬張っているワタクシの神だ。この話を聞かせてくれた時、神は、ここには存在しない遠くのものを見るように目を細め、哀愁と切なさが入り混じった表情をしていた。
「もしかして、アナタ様がカカオを生み出したのですか?」
思い切ってそう訊ねたが、神は須臾の間微笑んだ後、肩をすくめて「どうかな」と曖昧に笑っただけだった。
気紛れで放逸、一方で、秩序を重んじるという二面性を待ち合わせた神が人類に与えたものは——奪ったものも——多いのは事実だ。カカオを生み出したのはワタクシの神なのかもしれないし、そうでないのかもしれない。しかし、もし本当にワタクシの神が血を流したのだとしたら……神が生み出したカカオが時代と世界を巡り、こうして温かく美味しい飲み物としてワタクシの元に辿り着いた。神の一部が巡り巡ってワタクシの一部になる! なんという僥倖だろう。
マグカップを傾けて一口啜る。甘いだけじゃない、スパイスの刺激的な風味もある。美味しい。
ほうっと肺腑にこもった熱い息を吐き出す。
「口に合うといいんだけど」
「とても美味しいです」
「そうか、よかった」
神は安堵したように微笑んだ。つられて笑みが漏れる。
一杯のホットチョコレートは血肉となり、ワタクシを満たし、神とワタクシを繋いでくれる……そんな気がして、昂揚した。