君に夢中

 パスファインダーが住居にしている格納倉庫に、またくだらない物が増えた。
 それは私をモデルにした、小さくされた人形——ぬいぐるみだ。
 どうでもいいことだが、レジェンドたちは各々エージェント契約を結んでいる企業や団体がある。ライセンス契約に基づき、唯一無二の存在は、価値としてブランド化されることがあり、時には認知度の向上のためという名目で、なにかしらの形で様々な分野で商品化される。商品化の可否については企画の段階でレジェンドの意見が尊重されるらしいが、稀に例外がある。
 私のように、何人(なんびと)にも縛られない立場の者であっても、断れない場合があるのだ。
 その条件は、「APEXゲームに参加しているレジェンド全員」だった場合だ。運営側が決めたとなると、時にこんな風に丸くて柔らかい綿の詰まった、皮付きに媚びたぬいぐるみにされることもある。実に忌々しい。
 パスファインダーは、この間発売されたらしい私のぬいぐるみを購入してから片時も離さず持ち歩き、出先で頻繁に写真を撮って、周りの影響ではじめたSNSに投稿している。気に入りのスクラップ置き場や夜の繁華街、お友達のバー、公園のベンチ……そして今も、物の溢れたとっ散らかった格納倉庫で、ご自慢のアイカメラで撮影しては「ぬいぐるみの君って、とっても可愛いよね」ディスプレイをピンク色に染めてうっとりしている。
「くだらん」
 耐荷重ソファの背凭れに寄り掛かり、ゆっくりと排気する。
「人形の写真を撮ってなにが面白い」
「ただのぬいぐるみじゃないよ。僕の大切なぬいぐるみだ。可愛いぬいぐるみの写真を撮ると楽しい思い出が増えるからって、ナタリーが勧めてくれたのがきっかけなんだけど、たしかにぬいぐるみを撮影するのって、友達と写真を撮るのとはちょっと違う感覚で楽しいんだ」
 赤い頭巾を被ったぬいぐるみをちょこんと胸部ディスプレイの縁に載せて、パスファインダーは続けた。
「僕はぬいぐるみをたくさん持ってるけど、君のことが好きだから、君のぬいぐるみにしたんだ」
「私がこうしてそばにいるというのに、人形に夢中とは滑稽だな。まぁ、私は楽でいい。そのまま人形を愛でろ。散々聞かされた陳腐な愛の言葉を聞かなくてすむ」
 鼻で笑うと、パスファインダーの胸部ディスプレイに感嘆符が浮かんだ。
「大変だ。君に寂しい思いをさせるつもりはなかったんだ!」
 掌サイズのぬいぐるみは、胸部ディスプレイからソファの肘掛けに移動した。「ごめんねレヴナント、今はそこにいて」
「おい、私がいつ寂しいと言った?」
「心配しないで!」
 塗装の剥がれた角ばった掌に手を掴み取られ、握られた。
「ぬいぐるみの君も大切だけど、一番大切なのは君だ。僕は君に夢中さ!」
ぬいぐるみが憎たらしいくらいつぶらな眸でこちらを見ている……。
「離せ、ポンコツ!」
「君に寂しい思いをさせちゃった分、今夜は寝かせない」
「スクラップにされたいのか?」
「愛してるよ、レヴナント!」
 尻の下でスプリングが軋み、九〇〇ポンドの重すぎる機体がのしかかってきて、身動きが取れなくなる。
「……クソッ、か、加減をしろッ」
 私の身体には綿が詰まっていないというのに、こいつは相変わらず力加減が下手だ!