可愛い人

「せんせーって、エイメル先輩のどんなところが好きなんですか?」
 エイメルの後輩は、そういって、先日の聖夜に買っておいたクッキーを頬張った。
 彼の両脇に座るふたりは黙っていたが、こちらに向けられる眼差しには、無垢な好奇心の熱が宿っていた。それに気付かない振りをして、コーヒーを啜った。クッキーの包みと三つのマグカップが並んだテーブルの向こうで、三人はじっと答えを待っている。
 休憩時間になると、時々医務室にやってくる彼らとの茶飲み話に、エイメルのことは必ず話題に上がる。彼らは、はじめて会ったあの日のように――『ワーカーズハイ』で食事をしている時に、エイメルが席を外した時にやってきた——俺とエイメルのことを知りたがって、こうして質問をしてくる。
「お前達、そんなに俺の惚気が聞きたいのか」
「そりゃあ聞きたいですよ。せんせーって、全然デレないじゃないですか~」
「俺は公私混同しないタイプでね」
「エイメル先輩は照れながらも先生の好きなところを答えてくれましたよ」
「え……何て言っていた?」
「秘密でーす」
「内緒です」
「教えられません」
 三人は何故か得意げに胸を張った。
 微苦笑して、ソファに座り直し、背凭れに背中を預ける。
「頼りがいがあるところですか?」
「一途なところとか、ですか?」
「優しいところでしょうか?」
 三人は揃って首を傾げた。こうして見ると、羽も生えそろっていない鳥の雛が脳裏をよぎる。
「そうだなあ……」
 顔を横に逸らして、ブラインドの下りた窓の方を見る。冬の日差しは案外眩しくて、日がな一日ブラインドを下ろしている。 背凭れに頬杖を突いて口唇器官を引き結び、ほんの少し考える。
エイメル。責任感が強く、真面目で、優しく、強かな人……。最愛の人は、最近ようやく甘えてくれるようになった。悩みを打ち明けてくれたり、小さなことでも相談してくれたり、自分からスキンシップを取るようにもなった。大きな進歩だ。日々人々の平和を守るために尽力し、みなに頼られる彼にだって、寄り掛かれる存在が必要なのだ。
「……可愛いところ、かな」
 思わず笑みが浮かんだ。彼らの方へ顔を戻すと、三人は顔を抑えて唸り、悶絶しはじめた。
「……なんだ、どうしたんだ急に」
「それって付き合ってる当人じゃないとわかんないヤツだあ」
「先生、それはずるいですよ、反則です」
「エイメル先輩、愛されていますね」
「……っ」
 急にこっぱずかしくなってきて、ごまかすように咳ばらいをして、腕時計を見ながら立ち上がり、窓の方へ足を向ける。
「休憩時間が終わりそうだ。早く戻るんだぞ」
「あ、せんせー、照れてる!」
「先生も照れるんですね……」
「幸せそうで、よかったです」
 雛たちがピーピー鳴いているのを背中で受け止めながら、歯を食い縛ってブラインドを上げた。
 冬の日差しは、やはり、眩しかった。