こんな冬の夜には

※公式の小ネタを参考にしています。

「今の季節にピッタリないいものを買ってきたんだ」
 帰宅してすぐに、彼は提げていたスーパーマーケットの袋と、大きな紙袋を食卓に載せた。
 紙袋の中から取り出されたのは、不思議な形状をした深皿のようなものが印刷された箱だった。読めたのは、「三、四人前用」「直火用」といった文言だった。はじめて見るものだった。異世界から持ち込まれたものだろうか。
「土鍋っていうんだ」
「ドナベ、ですか」
 やはり、はじめて聞く言葉だった。箱から、重量感のある、陶器製の蓋のついた幅広の灰色の鍋が出てきた。取っ手がいつも使っている鍋と違って小振りだ。
「今夜はおでんにしよう。異世界の食材を扱っているスーパーマーケットで材料も色々買ってきた」
 おでんというのがどんな料理なのか想像がつかなかった。彼との生活は、新しい刺激で溢れている。

「去年『ワーカズハイ』でおでんを食べたんだ。とても美味しかったから、今年の冬は君と食べたいと思ってね」
 火にかけたドナベには、たっぷりの昆布出汁に浸った未知なる食材がみっちり詰まっている。輪切りにしたダイコン、チクワブやハンペンと呼ばれる魚のすり身でできているというネリモノ、三角形のコンニャク、串に刺さったすじ肉に、つるりとしたタマゴ……他にも色々あるが、どれも見たことがなかった。
 蓋をしてぐつぐつと煮込んでいると、空腹の胃を揺さぶる匂いが嗅覚器官を掠めた。蓋が持ち上がると、湯気と共に濃い匂いが立ち込めた。思わず喉が鳴る。
 ミトンを両手にはめた彼が、ドナベを持ち上げ、食卓に敷いたポットマット——ドナベと一緒に買ってきたそうだ——まで運んだ。
 いつものように向かい合って座る。彼は私の分の皿に具材を取り分けてくれた。
「いただきます」と声を揃えて箸を取る。
 種類豊富な具材はどれも美味しかった。出汁の優しい味わいがホッとする。彼に促され、チューブタイプの、「カラシ」という調味料を皿の縁に少し出して、食べる前に具材につけてみた。つけすぎるとたまらなく辛いが、そこそこの量にすると、いいアクセントになって、いっそう美味しくなった。
 おでんの具の中でも、ダイコンが気に入った。厚いのに味がしっかりと染みていて、とろとろに煮えて柔らかい。
 彼にそれを伝えると、嬉しそうに笑ってくれた。
 鍋いっぱいのおでんは、空腹の私達の胃を満たし、温めてくれた。 
 ちょっとだけ残ったので、また明日食べることになった。気に入りのダイコンもまだ残っている。
「とても美味しかったです」
「気に入ってもらえてよかったよ。いいだろう、おでん」
「はい。寒い日に食べたくなる料理ですね」
 空になった皿を前に、リラックスしながら余韻に浸った。
「土鍋があれば、鍋物が作れる。今度は水炊きにしよう」
またもや、はじめて聞く料理名だった。楽しみが増えた。
「ふふふ、楽しみです」
 彼と過ごす毎日は、幸福と刺激に満ちている。
 まだほんのり温かいドナベの中で、ダイコンが魅惑的に照っていた。