※海辺の町で公演しているという捏造
今宵も万雷の拍手の中、ショーは閉幕した。
観客を魅了し、熱狂の渦に巻き込む非日常的な華やかな幻想は、昧爽の頃に夢のように消え去る。
無人となったサーカステントには、煌めきを失った興奮が埋め火となって燻っているが、明晩になれば、火は再び勢いを取り戻し、激しく燃え盛る。エンターテイメントという火は、決して消えることはないのだ。
「そこからだと、客席がよく見えるだろう?」
テントの中央に置いた、特定の演目を披露するための円形の舞台に腰掛けている彼女を見付け、声を掛けた。
「一番遠い席もよく見える。いい眺めね」
自分の背丈よりも高い舞台からの景色が気に入ったのか、彼女はすごぶる機嫌がよく見えた。天井から差す白いスポットライトに照らされたかんばせには、彫刻のような完璧な陰影が浮かんでいる。目眩がしそうだ。
「お腹が空いたわ」
「なら、食事に行こう。アンタの好きそうないい店がある。テラス席で潮風を浴びながら美味い海鮮料理が食べられるぞ」
「素敵ね。カラマーロ・アッラ・グリッリアはあるかしら」
「あるさ。ここは港町だからな。さあ、行こう。マイレディ」
片手を差し出した。日頃極力接触は避けているが、エスコートする時は別だ。
手が重なる。舞台の淵から彼女の身体が落ちる一刹那、腰から抱き留めた。
六代目が羽ばたいて、両肩にひんなりとした手が載った。ふたりの間で豊かな乳房が潰れる。ふふふっという小さな楽しげな声が聴覚器官を擽り、上と下で視線が絡まった。吐息が掛かる距離でゆっくりと瞬く明眸を、宝石や星の輝きにたとえるのはあまりにも陳腐過ぎる。無二無三の力強い生命力の光の向こうでは、底知れぬ邪悪と一握の慈悲が混ざり合っている——目の前には、魅了された者を引き摺り込む対の深淵がある!
「スクリック」
柔らかな声音で名を呼ばれる。数多の種族から畏怖の念を抱かれ崇められている女は、綺麗に笑った。
「食事は後にしよう」抱き留めたまま囁く。「しばらくは、ふたりきりの時間を過ごしたい」
「いいわ」
肉の薄い手に肩口を撫で摩られる。
「私もそうしたい」
彼女を横抱きにして、テントを後にする。海暾が煌めく頃にはふたりでシーツの海で溺れているだろうが、それでいい。ここは、カモメの飛び交う自由な港町なのだから。