アレキサンダー×褪せ人♀

「あなたの故郷にいる子供が花冠を作ってくれたの」
 焚き火の向こうで、褪せ人はそういって兜の下で笑った。「すごく嬉しかった」控えめでいて熱のこもった声は、狭間の地に降りた夜の帳に溶けていった。
「どんな花だった?」
「うーん、名前はわからないけど、黄色くて、少し小さい可愛い花」
 アレキサンダーは組んでいた腕をほどいて、彼女をじっと見詰めたまま、故郷で咲き誇る色とりどりの花を思い出していた。花々が放つ芳しい香りは忘れてしまった。それでも、愛すべき故郷にどんな花が咲いていたかは覚えている。
小振りな黄色い花弁を持つ花。
 あれは村の西側で咲いていた。花弁は小さく茎も細いが、時々谷に吹き荒れる風にも負けない、逞しく、太陽のように気高く美しい花だった。今目の前にいる彼女のような。
「その子に『王冠みたいだね』って言ったら『お嫁さんみたいだよ』って言われて照れくさかった」
「それほどに美しかったのだろう。花嫁の装いのような貴公を、俺も見てみたかった」
 兜の下の素顔を思い浮かべてありのままに呟くと、褪せ人は前のめりになるようにしてなにか言いたそうにしたが、結局なにも言わずに俯いて、両手で顔を押さえた。気恥ずかしいのだろう。数多の強敵を討ち破り、剣を振るい続けて血に塗れ、それでもなお歩み続ける尊敬すべき武人であるというのに、褒めるとこうなる。なんて愛おしいのだろうか。
 あたたかな夜風が吹いて、ふたりの間で火が揺れた。風はきっと遠い故郷まで届くだろうとアレキサンダーは思う。褪せ人を彩った黄金色の花は、村の片隅で夜を照らしているに違いない。