マリケス×褪せ人♀

※死ネタ

 崩れゆくファルム・アズラの奥地で繰り広げた苛烈を極めた戦いの勝敗は、たった今決まった。剣をあと一振りすれは、褪せ人の命は砕け散るだろう。
 剣の柄を握り直し、大きく振り上げるも、一拍置いてゆっくりと下ろす。かつて己のために死の根を集めては獣の神殿を訪っていた存在にとどめをさせないでいた。手を緩めてはいけないことくらいわかっている。
 それでも、褪せ人と過ごした時間が、記憶が、情が邪魔をする。
「褪せ人よ」血の臭いを吸い込んで、身体をかがめて褪せ人の方へ顔を寄せる。静かな死が血溜まりの中で横たわる褪せ人に迫っていた。「何故、お主と戦わねばならぬ」
 指先を引っ掛けて褪せ人の兜を外すと、たっぷりとした髪が溢れ、他の白いかんばせと紅唇があらわれた。
 見慣れた横顔を見下ろすと、決して黄金間に祝福されぬ色褪せた除と目が合った。命尽きる前だというのに、そこには恐怖はない。悲しみも怒りも。あの頃のように、祭壇で己を見上げていた時と同じ情熱が息を潜めている。
 ぐるぐると嘘を鳴らし、頬を舐め上げた。彼女は血と汗の味がした。柔らかい喉元に軽く牙を突き立てる。顎に力を込めれば、牙はたちまち薄い肉を食い破り、皿潮が流れ出るだろう。
「お主だけは肩じていた。信じていたのだ」
 瞼の裏で想い出が弾けた。神殿で見た褪せ人の微笑みも。がらんどうの胸の中が切なく締め付けられた。おさまっていたはずの渇きが再び喉を始く。
 彼女の細い首に噛み付いたまま、顎に力を加えていく。
 肉が裂け、胃が軋み、影しい量の生暖かい血と鉄臭さが口腔を満たす。
 褪せ人と重ねた穏やかな黒目が、血に塗れていった。