夜の幕の内側で

 冥府より、デスパー様が王の代理人として或る北国を訪ったのは、地上から地底に吹き込む風にあたたかな春の息吹を感じはじめるころのことだったが、北の大地は未だ溶けない雪が積もっていて、冬の名残のある太陽は眩しかった。

 積雪のせいで、踏み慣らされた道でなくては歩くこともままならなかった。景色は枯れた木々以外は吐く息と同じくどこまでも真っ白で、澄み切った空気は肌を刺すようだった。

 北国では、護衛である私や部下たちまでもが賓客としてもてなされた。

 その国には四日間滞在することとなった。

 デスパー様によれば、交易の話も順調に進み、最終日には、つつがなく冥府に戻れるとのことだった。冥府からの長旅であるというのに、連日長時間に及ぶ会談のあとも、デスパー様は疲れを見せなかった。

「デスパー様、お疲れでしょう。明日はゆっくりおやすみください」

「なに言ってるんですか隊長、明日は街に行きましょう。観光……ごほん、視察したいです」

 今、観光って言ったな。

 聞こえなかったフリをして一揖する。

「ならば明日は城市へ参りましょう。お供します」

「明日はよろしくお願いしますね」

 デスパー様の微笑みに見送られ、部屋をあとにした。

 行き交う人々はコートを着込み、分厚い帽子を被り、手袋をしている。皆息は白く、風にあてられた頬は赤い。寒いのはもちろんわかっていたが、雪を知らない冥府で育った私には堪える寒さだった。

 デスパー様は、初日に王から贈られた大狼(ダイアウルフ)の毛皮で作られた黒いコートと手袋、それから、艶やかな黒貂の襟巻きを身に着けていた。よくお似合いだった。

 賑々しい城市は、北の王都の繁栄が見て取れた。燈のない冥府と同じく、この国でも火は大切にされていた。火は闇を照らすだけでなく、人々をあたためるのだ。

 デスパー様は我々護衛の他に、この国の外交官と共に街を巡った。

 火を重要視する国らしく、鍛冶場の設備や耐火煉瓦によって造られた建造物や炉の技術は高く、デスパー様の関心を引いた。

 観光と呼べるほど楽しげなものであったかどうかはわからないが、あっという間に日が傾き、城に戻った。

 デスパー様は特産品とされる塩漬けの魚卵を蒸留酒で流し込み、北国でしか取れない貴重な瑞々しい果実に舌鼓を打ち、新鮮な海の幸を堪能され、最後に北国特製の竜の肝漬けを召し上がった。竜の肝は精がつくというから、疲れも取れるかもしれない。

 明日はいよいよ冥府に帰る。

 デスパー様に呼ばれたのは、夕食後、しばらくしてからだった。

 来賓用の部屋は贅の限りが尽くされている豪勢なものだった。壁際の暖炉では、火が赤々と燃えていた。室内はあたたかい。

「今夜はそばにいてくれませんか?」

 デスパー様は暖炉を見詰めながら言って、こちらを向いて首を傾げた。

「お望みなら、おそばにおります」

 腰に佩いた剣の柄頭に手を置くと、デスパー様はにこりと微笑んで、それからややあって背中を伸ばした。

「はしたないと思われるかもしれませんが、さっき食べた竜の肝漬けのせいか、ムラムラするんです。あなたが、ほしくて……」

「いけません、デスパー様。ここは、冥府ではありません」

「わかっています。でも……少しで、いいんです」デスパー様は悩ましげに眉を寄せた。「したいんです」

 暖炉の中で薪が弾けた。火は音もなくゆらゆらと揺れている。それはまるでデスパー様の内側で燃え盛っているであろう情欲の炎のようだった。

 私を呼ぶデスパー様の眸が潤んでいた。

「私は、にゅ、入浴もしておりませんし……!」

「構いません」

 デスパー様はたじろぐ私を壁際に追いやると、しゃがみ込んで慣れた手つきで鎧の内側に手を差し込み、隊服のブレーを下ろしてきた。蒸れた一物がぼろんと飛び出て、こもっていた熱気が立ち込める。

 デスパー様の黒黒とした眸が上を向き、私を捉えた。萎えたままといえども量感のあるそれを手に取り、鼻を近付けて小さく鳴らすと、デスパー様はうっとりとしたような、艶っぽい溜息を吐いた。

「はぁ……たまりません」

 デスパー様は垂れ下がったものを持ち上げ、先端に尖らせた唇を押し当てた。みだらな口付けひとつで、本能はむくむくと膨らんで、血管を浮かせて勃起した。

「も、申し訳ありません……!」

 兜の上から顔を押さえる。なんて情けないのだろう。

「相変わらず大きいですね」

 デスパー様の喉仏が大きく上下した。舌先が裏側を舐め上げたかと思うと、半ばまで飲み込まれた。幹に唾液をまぶされるうちに、得も言われぬ快感が背骨を駆け上がってくる。

「隊長も我慢していたんですか?」

「い、いえ、決してそのようなことは……!」

「そうですか」

 デスパー様はしゃがみ込んだまま、淫らな音を立てながら私の一物をしゃぶった。

 溢れる先走りごと先っぽを舐めまわし、一息に頬を窄めて咥えたかと思うと、ずるずるとゆっくり頭を引きながら頬の内側で扱き上げる――巧みな口淫に腰が砕けそうになって、「ああぁ」とみっともない声が出た。

 情欲にとろけた目で私の愚息にむしゃぶりつくデスパー様は、昼間に見た、国の未来を見据える冷厳とした、知的な面差しではなく、快楽に身を委ねた男の顔をしていた。

 デスパー様は丹念に裏側を舐め上げると、根元に並んだ子種の詰まった肉袋にも吸い付いた。唾液と先走りを啜る粘着質な音が耳朶を擽り、羞恥心をつつく。

 肉色の幹の側面を走る脈絡をちろりと舌先でなぞって雁高の傘まで戻ると、デスパー様は髪を耳にかけ、焦らすように亀頭を飲み込んだ。頭がリズミカルに前後に動いて、ぐらぐらと煮えだった快楽が私を責め立てる。

「あぁ……デス、パ、様、もう……」

 肉欲を掻き立てる摩擦は続き、歯を食い縛る。敏感な先端を強く吸われた時、耐えられずに爆発した。デスパー様はいつもそうするように、子種を一滴も零さないように慎重に頭を引いた。

「っ、う……」

 射精感に打ち震えていると、デスパー様は私を見上げて口を開けた。薄桃色の口腔に注がれた子種は今にも溢れ出しそうだった。舌の窪みに溜まった白濁を見て身震いする。デスパー様は目尻を細めると口を閉じ、中のものを飲み込んだ。

「濃いです。溜まっていたんですね」

 舌なめずりをして、デスパー様は言った。言葉に詰まって、唸って、身じろぎする。

「可愛いです。ますます、食べたくなってしまうじゃないですか」

「デスパー様……!」

 可愛いと言われて、顔が熱くなった。小さな唸り声をひとつ零して、おずおずとブレーを下着ごと上げる。

「はあ、少し落ち着きました。可愛いあなたのことは……そうですね、冥府に戻ってから食べます」

 鷹揚と立ち上がり、デスパー様は私の胸の真ん中を示指で突いた。「その時は寝かせませんからね」

 ウインクをひとつすると、デスパー様は喉の奥でくつくつと笑った。私たちのそばで、いつの間にか暖炉の火が弱まっていた。

 翌日、私たちは北国をあとにし、五日後に冥府に戻った晩、私はデスパー様の寝所に呼ばれた。

 デスパー様の寝所に向かって黙々と歩いていると、見廻りをしているふたり組の部下と出会った。

「見廻りご苦労」

「隊長もお疲れ様です」

 そんな短いやり取りを交わし、すれ違い、居館に向けて歩き続けた。

「こんな時間へどちらへ?」と訊かれていたら、私は正直に「デスパー様の元へ行く」と答えていただろうか。否、答えず、曖昧に濁していただろう。これから私は逢瀬に興じるのだから。

 デスパー様と。

 デスパー様の寝所で。

 寝所に辿り着き、ドアの前で足を止めると、手にした懐中燭台の先で灯った火が瞬いて、茫洋とした夜を照らす緋色の燈の中にぼうっと浮かんだ私の影が揺れた。

 指の背でドアをノックして「デスパー様、遅くなり申し訳ございません」暗闇の中で耳を澄ますと、返事はすぐに返ってきた。

「どうぞ、入ってください」

「失礼します」

 ドアを開けると、柔らかな燈に出迎えられた。後ろ手にドアノブを掴んで閉めた。兜の視孔から、部屋に漂っていた香の匂いが流れ込んできた。甘ったるい、酩酊を誘うような芳香だ。

「待っていましたよ」

 デスパー様はベッドに足を組んで腰掛けていた。絹の寝衣の裾が割れ、色白の髀肉が覗いていた。慌てて視線を逸らす。

「鎧を脱いで、こちらに来てください」

 懐中燭台を棚に置いて、背中側にあるバックプレートの留め具に手を伸ばす。硬く無機な音がして留め具が緩んだ。デスパー様の期待を含んだ視線を浴びながら慎重に鎧を外し、ご命令通り、脚部を覆っていたグリーブとサバトンも取り外した。

 隊服のままおそばに寄る。重たい情欲の幕がベッドを覆っていた。

 手を引っ張られて体勢を崩し、冷たいシーツに仰向けに転がされた。

「やっとあなたを食べられる。今日は意地悪したい気分です」

 デスパー様の眸の奥に官能の火が灯るのを見た。一握の興奮が身を焦がす。ああ、私はこのお方に食われるのだ。朝にはきっと、骨も残っていないだろう。

「私がいいと言うまで射精したらだめです。我慢できたら、ご褒美をあげます」

 デスパー様は私の折り曲げて開いた足の間に座り込むと、ブレーと下着を下ろしてきた。まだ萎えたままの一物が零れる。

 身体を屈めたデスパー様の手が私を包み込み、唇が先端に押し当てられ、ちゅっと生々しいリップ音が跳ねた。数日前に外遊で訪った北国での口淫を思い出して、体温が上がった。

根本を柔らかい掌で撫でられ、分厚い舌に裏側を舐められ、頬の内側で尖端を扱かれるうちに、萎えたままでもふてぶてしい大きさの男の象徴はみるみるうちに硬くなり、勢いよく反り立って天井を向いた。

 脈絡を走らせて勃起した愚息の隣にデスパー様の美しいお顔が並ぶと、罪悪感と羞恥心で泣きそうになって、兜の上から顔を覆った。

「目を逸らしちゃいけません」

 整えた下生えから肉色の幹の半ばにかけて舌が這う。唸り声を上げて、指の隙間からおそるおそる視線をやると、私を咥え込んだデスパー様の頭が上下に動いていた。

「う、ぐ、デスパー様、くっ……」

 シーツを握り締め、全身を強張らせ、息を詰まらせる。「いいというまで射精するな」というご命令なのだから、なんとしても耐えなくてはならない。決して褒美が欲しいわけではない。デスパー様のご命令は、絶対なのだ。

 緩急を付けて動く頭と手は巧みだった。

「悶えるあなた、愛らしいです。もっといじめたくなります」

 頭が離れたかと思うと、舌なめずりをしてデスパー様は囁いた。主導権を握る白い手が根本から先っぽを往復し、スムーズに動いている。

「イったらだめですよ」

「は、はいっ!」

 とはいうものの、たまらなく気持ちがいい。快感に負けないよう歯を食い縛る。腰が勝手に持ち上がる。

 リズミカルに動いていた手が張った傘で止まり、掌が上から括れまで包み込んだ。指が軟体動物のように雁首に絡まり、漏れ出た先走りと唾液でぬるぬると滑る。

「……う、ぐうぅ」

 びくびくと総身が痙攣し、張り詰めた本能が攣縮する。

「ああ、隊長……可愛いです」

 デスパー様の恍惚に満ちたお声は、四肢の末端まで流れ込んだ快楽に混ざった。

 根元に並んだ種の詰まった袋を食まれ、中のしこりを吸われ、頭の中が真っ白になる。いかん。耐えなくてはならない。

「いい子には、ご褒美を上げないといけませんね」

 デスパー様がゆっくりと身体を起こした。そして、私の腹に跨ると隊服を首元まで捲り上げ、上半身を倒し、剥き出しになった乳首を舐め上げてきた。

 乳首はすぐに硬くなって、ぷっくりと膨れた。舌が軸を中心にして周りを一巡したかと思えば、強く吸われる。火照りに似た心地よさが胸元に広がり、全身が熱くなる。

 離されていた手が再び私を握り締める。乳首を愛撫されながら一物を扱かれた。上も下も責め立てられて、耐え難いほどの快感が身体を貫く。

「デスパー様っ、もう……あ、ぁ、ぅ……」

 頭を左に右に振りながら、なんとか言葉を紡ぐ。

「お――お許しをっ、もう、ぁ、あ、出て、しまいますっ」

「イってもいいですよ」

「ぅ、うぐ、あ、あ、あぁ……!」

 情けない声を上げて――デスパー様の手の中で果てた。本能は何度も脈打ち、間歇的に噴き出た精液は上掛けに飛び散った。

「少し、意地悪しすぎちゃいましたね」

 いたずらっぽい笑みを浮かべて、デスパー様は指の股に滴り落ちた白濁を舐め取っていた。

 呆然としていると、デスパー様が寝衣を脱ぎはじめた。そうだ。まだ繋がっていない。デスパー様にご奉仕しなくては……。冷静になった頭でそんなことを考え、股間に視軸を向けると、自身はまた勢いを取り戻していた。

「あなたがくるまでに準備しておいたんです。すぐに繋がりたくて」

 一糸まとわぬ姿となったデスパー様は、私に跨ると、あっという間に私を根元まで腹の内側に収めた。いつもは肛門を潤滑油でほぐしてから挿入するので、驚いた。

「大丈夫ですか」

「ええ、ちゃんとほぐしましたから。さて、動いたらいけませんよ」

 まるで子供に言い付けるような口調に、素直に「はい」と頷いて身体を硬直させる。

 デスパー様のなだらかな曲線を描いた腰が前後にくねって、張り詰めた昂りを四方から包み込む肉壁が蠕動する。キツく締め上げられた。熱くとろけるような極上の刺激に、兜の下でうっかり漏れ出た掠れた声が重たく甘い余韻を残す。

 シワだらけのシーツの上で、デスパー様は私を征服した。

 持ち上がった尻が腹に打ち付けられると、心地いい重さと振動が全身に伝播した。

 スムーズな抽挿はデスパー様のペースで続けられ、私は情けない声を上げて悦びに打ち震えた。デスパー様は時折動きを止めて、腹の奥にあたる私の感覚を楽しんでおられるようだった。

「奥にあたって、気持ちいいです」

 深く沈めた腰を押し付けて、デスパー様は切ない吐息を零した。生き生きとした淫らな熱を放つお姿に喉が鳴る。込み上げる性的興奮のままに、デスパー様の臀部を左右から鷲掴みにする。しっとりと汗ばんだ肌は掌に吸い付き、肉厚な尻たぶは重量感があった。弾力と柔らかさがたまらない。腰が動いてしまいそうになる。

「動きたいですか?」

 私の胸の内を見透かしたように、デスパー様は首を傾げた。ぽってりとした唇が弧を描いている。

「私のことを……めちゃくちゃにしたいですか?」

 いいですよ、と結んで、デスパー様は私の胸に手を突いて前のめりになった。鼓動が早鐘を打っているのを気付かれないように祈りながら、湿った唇を舌先で舐める。

「そのようなことは、したいとは思いません。私は、私はあなたと愛し合いたいのです」

 目の前まで迫っていた影がふっと遠のいた。

「もう、あなたってほんとうに真面目ですねえ」

「…………?」

「動いていいってことです」

「そのような、意味合いでしたか」

 ほっとするあまり、一瞬繋がっていることを忘れてしまった。

「……では、失礼します」

 デスパー様の両手を掬い取り、掌を合わせて指を互い違いに組んで、きゅっと握った。握り締めた手は、色が白く、短く切り揃えられた爪までしっかりと手入れがされている。美しい手だ、と思う。

 ぐっと腰に力を入れて、一度大きく突き上げると、デスパー様の薄く開かれた唇から情欲にあてられた声が押し出された。

「自分で動くのと、あっ、ぁ、全然、違いますっ……! ん、すごく、いいです、んっ」

 肉と肉がぶつかって粘っこい音が弾け、デスパー様の嬌声に被さった。

 熱に浮かされたデスパー様は法悦(エクスタシー)に呑まれ、揺さぶられていた。肉の輪は収斂し、私を締め付けて離さない。

 気持ちがいい。

 快楽は確実に沸点に向かっている。

 肉杭を深々と突き立てたままピストンを止め、腹に密着した臀部に触れる。汗で湿った肌は、柔らかく、掌に吸い付いた。デスパー様を抱き締めたくなった。

「デスパー様、いつもの体勢になってもよろしいでしょうか」

「いいですよ。この体位は、ちょっと疲れてしまいますね」

 デスパー様は髪を一房耳に掛け、微笑んだ。

 繋がっていた部分から抜けても、私の愚息は勢い付いていた。

 シーツに横たわったデスパー様のおみ足の間に身体を割り込ませて被さり、兜を持ち上げて熱烈な口付けを交わす。首のうしろに手が回り、愛という衝動に任せて貪り合った。

「隊長、ください……はやく……」

 上向きの睫毛の下で、熱っぽく潤んだ黒目勝ちの眸が瞬く。扇情的で、頭がくらくらした。

 硬い自身に手を添えて、潤滑油で濡れたぬめった亀裂に先端を押し当てる。挿入は呆気なく、根本まで一息で挿った。体内はあたたかく、ぬるぬるして、締め付けがたまらない。

 絡みつく肉襞を逆撫でするように腰を引き、孔の縁を削り取るように動くと、突っ張った腕の下でデスパー様のお身体が強張った。 デスパー様は奥を突かれるのがお好きだ。焦らすように少しずつ肉壁を割っていき、腰を押し付けて最奥である行き止まりをつつく。

「あ、ぁ、そこ、いいっ……」

 私の肩に乗った白い手に力がこもる。ハの字に開いていたおみ足が跳ね、私の顔の横で爪先が張った。

 あまり動かず、腰だけをくねらせ、じっくりと奥を刺激していく。デスパー様の喉が反った時、一物が抜け落ちそうなところまで引いた。それから浅い抽挿を繰り返し、不意打ちで再び根元まで押し入れた。

 デスパー様の片膝の裏を掴み取り、腰を打ち付ける。

「あ、たいちょ、いい、あっ、ぁ、イく……!」

 ゆるく勃起していたデスパー様の性器から、勢いのない精液が溢れ出た。濃い白濁は、呼気に合わせて膨らんではへこんでいた腹を汚し、溜まりを作って、シーツに滴り落ちていく。

 デスパー様の愉悦に震える肉体は、快感の余韻を引きずっていた。もっと快感を感じてほしくて、怒涛の勢いで責め立てていく。

 結合部からは、ぶつかる度に粘着質で水っぽい音が鳴った。

 快楽に打ちのめされた男の声は甘美なもので、身体を巡る潜熱を煽った。

 抽挿を絶えず続けた。お互い息も絶え絶えで、息を継ぐ間すら惜しかった。ぬかるんだ亀裂に自身がぶつかって、結合部からどちゅんと何度も重たくねっとりとした音が鳴った――沸点が近い。

「っ、ぅ、出ますっ」

 デスパー様の膝の裏から手を離し、シーツに両手を突く。

「……っ、…………!」

 拓いた腹の最奥で種を蒔き、それを植えこむように腰を浅く揺すり、隙間なくしっかりと押し付ける。湿った吐息がふたりの間で弾けた。

「たくさん出ましたね」

 下腹部に手を置いて、デスパー様が囁いた。

 射精感が遠のいて、腰を引いた。まろび出た種を蒔き終えた性器は、まだ萎えていない。肉厚な尻の間で、逆流して流れ出た濃い子種が泡立っている。

「続けましょう。夜は長いですから」

 デスパー様の両手が伸びてきて、首から抱き寄せられた。火照った肌が重なる。

 夜の幕は、まだ降りたままだ。