帰還

 冥府から修行を終えて国に戻って、真っ先にミツマタの巣を訪った。

 しゃがんで片膝を突いて穴の入口から奥を覗き込むと、穴の幅は広く、さらに深くなっていた。

「ミツマタ、いるか?」

 声を掛けると、丸い穴の奥で濃い影が動いた。一拍置いて、蛇身をくねらせて、見慣れた姿が暗がりから這い出てきた。脱皮してまた育ったらしい、ミツマタの身体は国を出る前よりも大きくなっていた。

「べビン様……おかえりなさい……!」

 目線の高さになった双頭が目の前にあった。鱗に覆われた頬を撫でてやる。ひんやりとした懐かしい冷たさが掌に広がる。冥府にいる間、この温度に焦がれていた。

「よくぞご無事で……ああ、逞しくなられて……」

「強くなったぞ、俺は」

 ミツマタの太い首に腕を回して抱き締める。千切れた尾が腰に絡んだ。互いになにも言わなかった。鼓動を共有するように、ただ抱き合って再会を喜んだ。

「寂しかったか?」

「はい。ずっとあなたのことばかり考えていました」

「オレもだよ」 

 隻眼の下をなぞるように撫で、ぐっと近くなった窄まった口の先に軽く口付ける。リップ音が弾んで、ミツマタの瞼のない眸に熱が宿る。

「会いたかった」

 愛おしい体温をもう一度しっかりと抱き締め、目を閉じた。