パスファインダーが、ゲームの賞金でロボット用の高耐荷重ベッドを買った。
彼はカレンダーに印をつけ、配送日を指折り数えて楽しみにしていた。とっ散らかった倉庫内も片付け、空いたスペースを眺めて、ベッドをイメージしてははしゃいでいた。
――四日後に届くから、君に一番に見せてあげるね! 約束だ!
ベッドが倉庫に運び込まれたその日の夜、律儀にも約束通り、パスファインダーの倉庫に招かれた。
彼は胸部ディスプレイの表示を目まぐるしく変えながら「ふかふかだよ!」「すごい! 僕が乗っても壊れない!」シーツの上を転げ回り、大喜びしていた。
ロボット用の高耐荷重ベッドというのは、安価な大量生産品がほとんどだ。需要は主にセクサロイドがいる風俗店だが、宇宙にはロボットを愛玩動物よろしく愛でる人間もいる。そういう人間は、ペットが使うものであってもデザインや機能性に拘る。パスファインダーが購入したのは、後者に好まれる上質なものだ。
ロボットに睡眠は不要だというのに、何故こんなものを買ったのだろう。
「レヴナント、君もこっちにおいでよ。今夜はここで一緒に過ごそう」彼はむくりと起き上がり、シワだらけのシーツをぽんぽん叩いて言った。
「我々に睡眠は必要ない」
「そうだね。でも僕はベッドで君と朝を迎えたいんだ。干したてのブランケットにくるまって、一晩中話していたい。昨日観た映画の話でも、この間屋上で一緒に探した星座の話でもいい。とにかく、色んなことを話したい。君と話すのはとっても楽しいからね」
パスファインダーの胸部ディスプレイがピンク一色になった。中央のフェイスマークの目はハートになっている。
戯れに付き合ってやろうと、組んでいた腕を解いて、ベッドに歩み寄る。鷹揚腰を下ろすと、体重を受け止めた部分が僅かに沈んだ。マットレスは厚く硬い。……好みだ。
「……フン」
「どう? いいベッドでしょ」
「そのようだな」
「シーツも防水性なんだ」
得意げなパスファインダーの隣に乗り上げて、ヘッドボードに背中を預ける。
「さぁ、なにを話そうか」
その日は夜が明けるまで、彼とシーツの海で過ごした。
殺し合いが終わり、血腥い夜がきて、こびりついた血の臭気と硝煙の残り香に胸が高鳴っているというのに、倉庫の持ち主であるパスファインダーは、そんなことは知りもしない様子で話し掛けてくる。
「今日の君もかっこよかったよ!」
「少し黙れ。貴様がやかましいせいで余韻が台無しだ」
「余韻?」
「獲物の最期を見ただろう? 私は皮付きどもの死の瞬間を見るのがこの上なく心地いい。あの甘美な高揚感を長く味わっていたいのだ」
「つまり、君は今興奮してるの?」
「ああ。お前にはわからないだろうな。私が感じている興奮は」
「わかるよ!」
パスファインダーの胸部ディスプレイいっぱいに感嘆符が浮かんだ。
「接続している時、君のパルスはすごく乱れるんだ。周波数も高い。僕も同じ。きっとあの状態を興奮してるっていうんだよ。接続してないけど、今君はそんな状態ってことなんだね」
接続――機械同士でできる非生産的で擬似的な性交渉――たしかにあれは興奮を伴う行為だ。端末へケーブルを繋いで電気信号を伝送するため、プロセッサはもちろん、あらゆる回路に干渉する。繋がっている間はお互いの状況が手に取るようにわかる。与えられる刺激が熟して、人間でいうオーガズムを迎えた瞬間もパスファインダーに知られている。
金属の塊に成り下がって三世紀以上に渡り生きながらえているが、はじめて味わったあの未知なる感覚を快楽と呼んでもいいのかもしれない。つまるところ、交歓行為は嫌いではない。彼には決して言えないが。
「ねぇレヴナント、接続したい。……ダメ?」
モノアイを明滅させ、最後だけ声量を落として、パスファインダーは小首を傾げた。
「そういう……わけでは……」
歯切れ悪く返して、視線を逸らす。パスファインダーはじっとこちらを見詰めている。
「……いいだろう」
甘ったるい圧に耐え兼ね、折れた。
「嬉しいな!」
手を叩き、パスファインダーは無邪気に喜んだ。
「そうだ! この前面白いものを買ったんだ。今持ってくるから、君は先にベッドで待っててくれる?」
パスファインダーに促され、彼がこの間購入したロボット用の高耐荷重ベッドに向かった。
倉庫内はガラクタが散らかっているが、ベッドだけは整っている。シーツにはシワひとつない。完璧だ。ベッドメイキングを教えた甲斐がある。
厚く硬いマットレスに腰を下ろし、ヘッドボードに寄り掛かる。ここを乱すことができるのは、所有者であるパスファインダーと、自分だけだ。
「お待たせ!」
パスファインダーが持ってきたのは、彼の胸部ディスプレイほどの大きさの淡いピンク色の箱だった。箱の裏側には、ロボットらしい人型のシルエットと、ハートが散らばっている。
「たまたま見付けた店で買ったんだけどね」彼は箱を反転させた。前面は透明になっていた。中身を視認するのと、パスファインダーが語を継ぐのは同時だった。「じゃん! ロボット用の男性器型アタッチメントだよ」
箱よりも濃いピンク色の棒状のそれは、たしかにフォルムが男性器だ。根本にはご丁寧にふてぶてしい睾丸までついている。
宇宙にはセクサロイドではないロボットに疑似男性器ないし疑似女性器を装着させて性的奉仕をさせる変態がいるが……実物をはじめて見た。
パスファインダーが言うには、ギラギラした店の横に友達と同じモデルのガイノイドが立っていたのを見て、懐かしくなって話しかけたところ、いいものがあると腕を引かれて入店し、よくわからないが「恋人が満足してくれる大きくて逞しいおもちゃ」を薦められたらしい。
要するに、いかがわしい店の横に立つ看板代わりのセクサロイドに言われるがままディルドを購入したのだ……私のために。呆れて溜息が出る。嫌味や皮肉すら出なかった。
「今日はこれを使って接続しよう。新しいものは大好きだ」
「時々お前が心配になる。ここまでポンコツだったとは」
冷ややかな視線を浴びても、パスファインダーはけろりとして、クリスマスプレゼントを開ける子供のように箱の蓋を雑に破って開けはじめた。
取り出された作り物のペニスは、重量感があるが、自重で垂れ下がっている。勃起したものとはまるで違う。
「一番大きいサイズにしたんだ。えーと、まずアタッチメントを装着して、このアダプターを差し込んで……なるほど、ここにパルスを送ればいいんだ。無線タイプって便利だね」
ディルドを握り締めたまま取扱説明書に目を通すパスファインダーの姿は滑稽だった。疑似的といえども、これから性行為に及ぶというのに、こんな間抜けな図があるだろうか。いや、そもそも、彼は性的興奮をあおるムードというものがわからないだろう。
「ほんとうにそれを使って接続するのか?」
「うん、君を気持ちよくさせてあげたいんだ」
彼は箱の底にあった金属製のパーツを睾丸の裏側に取り付けると、前屈みになって股座にディルドを装着した。パスファインダーの両足の付け根にある関節の辺りには溝があるが、その部分にパーツをうまくはめ込んだようだ。
「お待たせ、準備できたよ」
ピンク色のだらしのない一物を股間にぶら下げて、パスファインダーはベッド上がって、両膝立ちでにじり寄ってきた。
「そんなぶよぶよのシリコンの塊で私を満足させるわけか。ハッ、粗悪品を掴まされたな」
「あ、そうか、パルスを流さないと変形しないんだ」
「……変形?」
復唱すると、パスファインダーは大きく頷いた。
意味がわからず、視軸を下げる。垂れ下がっていたアタッチメントが、みるみるうちに屹立した。
「は……?」
目の前にあるのは、血脈を浮かせて勃起したペニスだった。色はふざけたピンク色だが、雁高で、幹は太く、長さもある。
「ほら見て、変形したよ! 大きくてかっこいい! 君の排液口に全部挿るかな?」
「そんなもの」腹を穿つために作られた凶悪な肉杭を前にたじろいだ。「挿るわけがないだろう」
「試してみないとわからないよ?」
「そもそもどういう仕組みだ、それは」
「さっき説明書を読んだら――」
「そんなことを知りたいわけじゃない」
「わ!」
足を伸ばしてパスファインダーの股座に足の先を乗せると、勃起したペニスの先端が踵にあたった。
「こんなものを私の中に挿れたいのか?」
硬く弾力のある杭の尖端を軸にして、鈴口をつま先でぐりぐりと詰り、足の裏で側面を撫でてやる。粘膜による摩擦ではないが、こうすることでパスファインダーが反応するのか好奇心が湧いてきた。
「レヴナント、先は、ダメ、僕にパルスが流れちゃう」
パスファインダーらしくない弱々しい声に、腹の底からどす黒い嗜虐心が込み上げて、好奇心を塗りつぶした。堪えきれない悦びがボイスモジュールを震わせる。
ヘッドボードに寄り掛かったまま両足を伸ばし、パスファインダーの股間から突き出たものを足の裏で横から挟み込んだ。
「なにをするの?」
「きちんと動作するか、確認が必要だろう?」
彼の反応を窺いながら、強弱を付けてそそり勃ったおもちゃを擦り上げる。
「感じるか?」
「……なんだか、回路がぞわぞわするよ……アダプターを媒体にして僕の回路にパルスが流れる仕組みになってるからかな?」
「なるほどな」睾丸を踏みつけていたつま先で先端を軽く叩いた。「そういう仕組みか」
「…………ッ、レヴ、ナント」
足首から先には関節も足の指もない。自重を支え、地に足を着けて自立するための鋼鉄の板が二枚あるようなものだ。それで挟み、上下にしごいているだけなのに、パスファインダーは接続中に漏らす、意味のないうわずった声を出力した。特に丸みを帯びた天辺を踏むと、おもしろいほど大きな声を漏らす。
「僕、それ、気持ちいい……」
パスファインダーは膝立ちのまま俯いて、所在なさげに手を垂らし、買ったばかりのおもちゃが弄ばれる様を見詰めていた。胸部ディスプレイは、一物と同じ色に染まっていた。
鈴口からつま先を離すと、透明な糸が引いていた。
「なにか出てないか?」
「これは生体オイルだよ。説明書に載ってた。この中に生体オイルが入ってて、刺激を与えると出てくるんだって」
「そんな機能まであるのか」
滲み出た生体オイルが足の裏を濡らした。これはまるでカウパーだ。なんて生々しいのだろう。
情事の最中、愛撫でパスファインダーの指に股座をこねくり回されている時と同じ淫らな興奮が回路を駆け巡り、この身体には必要のない欲求に突き動かされた。
「もういい、十分だ。はやくそのおもちゃを私に挿れろ」
「わかった。じゃあ、横になって、排液口のハッチを開けて」
仰向けになってすぐに膝裏を掴まれた。ハの字に大きく開いた足の間にパスファインダーの青い機体が割り込む。
「ドキドキするね」
内側に滑り止め加工の施された角ばった指が、股座を覆う前垂れの裾を摘まみ、捲り上げた。冷却処理のあとに廃油を排出するだけのただの穴なのに、見られるだけで羞恥心が回路を焦がす。
ここに彼の指だけでなくペニスを挿入するのなら、ただの穴ではなくなってしまうのかもしれない。
意識を排液口のハッチに移し、ロックを解除すると、冷却処理を実行していないのに、廃油がとろりと漏れ出し、真っ白な防水シーツに溜まりを作った。
「もう廃油でぬるぬるだ」
「いちいち言うな」
パスファインダーの肩を軽く足の裏で押しやるが、九百ポンド以上ある機体はびくともしなかった。
「僕のマニュピレータは二本挿るけど……これは挿るかなあ?」
ぱっくりと開いた縦長の穴の縁に、大きさ比べでもするように、アタッチメントの裏側が押し当てられる。
「うん、挿りそうだ。さっそく挿れるね」
パスファインダーが腰を引いた。天井を向いていた先端が垂直に穴の縁に添えられ、次の瞬間、一気に腹の中の保護膜を突かれた。
「……! ……は……ア、ウ、ウゥ……」
重い衝撃が腹から背骨にかけて弾けた。
「い、一気に挿れるな……!」
「ごめん、君の廃油とアタッチメントから出た生体オイルですべっちゃった。だけど今ので半分挿ったよ。ここからゆっくり挿れるね」
「……ッ、ウ……ウゥ……」
張った雁首が神経コードと繊細なパーツを包むシリコン製の保護膜の間を押し開いて、確実に腹の奥に食い込んでいく。パスファインダーの指とは比べ物にならないほど質量だった。
「ウ、アッ、……ッ、……!」
頭を反らし、腕を面に乗せ、情けない声が出ないようにできる限り意識を腹から離そうとするが、できなかった。
パスファインダーの指が届かなかった、腹の最も深い部分を暴かれている。
「レヴナントの排液口の奥は、狭くて、あたたかくて、ぬるぬるしてる……」
感覚を確かめるように腰を押し付けていたパスファインダーの追撃がはじまった。
彼が腰を動かすと、分厚いマットレスが振動した。根元まで埋まったペニスが穴から抜け落ちそうなところまで引き、また奥まで突き入れられる。
「ハ、ァ、……ウ……グッ……」
規則的な抽迭に、理性が削り取られていく。
「レヴナントの奥に当たるたびにに痺れちゃいそうだ。気持ちいい」
機体の温度が上がった。冷却処理が行われ、廃油が溢れ出し、疑似粘膜同士が擦れて、抜き差しがいっそうスムーズになった。ぬらぬらと濡れた股座の装甲と睾丸がぶつかり合い、鋼鉄の身体には似つかわしくない湿った音が鳴る。
パスファインダーは夢中で腰を振っている。マットレスが大きく揺れる。円を描くように動かれると、上壁をごりごりと擦り上げられ、衝撃に耐えきれず太い声で喘いだ。
「ウ、ッ、……ァ、ア……!」
繰り返される摩擦は勢いを増した。容赦なく腹の奥を突かれ、みっともない声が止められなくなった。閃光でも見たように目の前がちかちかする。
薄闇の中で、覆い被さるパスファインダーのオレンジ色のカメラアイだけが光っている。
いつも行う接続――胸部ハッチを開き、端末に接続して行う伝送――とはまったく違う。腹の中をえぐられる物理的な鈍い刺激に熱され、とろけた快楽が煮詰まっていく。気持ちがいい。機体がオーバーヒートしてしまいそうだ。
「ン、……ゥ……激しく、する、なッ」
粘膜同士がぶつかる粘っこい音が呻き声を掻き消した。
「レヴナント……ごめんね、優しくしてあげたいんだけど、腰が動いちゃう、止められないッ……」
足首を掴まれた。背骨が丸まって、ぐっと下腹部が持ち上がった。
「パ、ス……ア、ァ、そんな……グ、ウ……」
前後の動きが上から押し潰すピストンに切り替わり、猛々しいペニスが深々と体内を行き来している様を見せ付けられた。
「レヴナント、気持ちいい? 僕はすっごく気持ちいいよ♡」
「訊く、なッ、ウ、ァゥ……、……、~~~~~~~ッ!」
排液口は雌孔に成り下がり、悦んでパスファインダーを受け容れていた。引いては押し寄せる怒涛に呑まれ、機体の自由が利かない。押し潰されて腹の奥を突かれる苦しみは、快楽に真っ白に塗り潰される。
発声モジュールから音声が出力できないほどの絶頂を何度も迎えても、パスファインダーは手を緩めてはくれなかった。端末を繋いだ接続と違って、互いの状態や演算結果を把握できないからかもしれない。
火照った機体を震わせ、必死に彼にしがみついて、神経コードに伝播した得も言われぬ形而上の刺激と悦に縋った。
「もっと気持ちよくしてあげるね。僕、頑張るよ」
パスファインダーの腰が止まった。股座はじんじんと熱い。今度は焦らすように緩く浅い抜き差しがはじまった。保護膜の端を擦るようなねっとりとした動きだった。
「フゥ……フッ……ゥ、グ……」
むず痒さに、腹の奥が切なく疼く。物足りなさを感じている己を嗤い、パスファインダーのカメラアイの側面に手を伸ばす。
「……さっきの動きでいいぞ」
繋がったまま、パスファインダーは演算を行っているようだった。
「もしかして君って意外と激しいのが――」
「黙れ」
己の痴態を反射させるカメラアイを頭部ごと鷲掴みにすると、パスファインダーの胸部ディスプレイに泣き顔が映った。
一度離れると、パスファインダーは背中の排気口から蒸気を噴出させた。
「大丈夫。優しくする」
アラミド繊維に覆われた腹部を、パスファインダーの指が滑っていった。腰を抱き抱えられる。浮き上がっていた下肢がシーツに戻った。
「もう一度挿れるね」
アタッチメントの先が触れた。挿入の際の一刹那の圧迫感に頸部が反った。神経コードの詰まった背骨を撫でられた時のようにぞくぞくする。
「私を満足させるのだろう? 気張れ。私に尽くせ」
パスファインダーの腰部を足で挟み込んだ。動きにあわせて、保護膜とアタッチメントの隙間に入った空気が漏れて、ぐちゅぐちゅと水っぽい音を垂れ流した。
廃油はまだ溢れている。再び訪れた夢心地に身を委ね、シーツを握り締める。
「レヴナント、好き。僕は君が大好きだ」
「それは、もう、聞き飽きた」
シーツを握り締めていた手を、自分よりも厚く一回り大きな掌にあっさりと掬い取られ、頭の横で縫い付けられた。互い違いに交わった指も、彼の方が大きい。
「愛してるよ」
「……ッ、う――うるさい」
なめらかに指が折り曲がる。こうして手を握られるのははじめてだ。触れた装甲から温度が伝わってくるようだった。
パスファインダーのカメラアイを縁取ったフレームと、面の距離が近い。
見詰め合い、排気すると、彼のレンズが曇った。身体は隙間なく密着して、パスファインダーの腰だけが動いている。
「ア、ゥ、また……ッ、……ンッ……!」
強烈な極致感に身体が仰け反った。
「レヴナント……僕、なにか、出そう」
前後に揺れていた腰が止まった。
「この感じはなんだろう? ア、ウ、きちゃう、ア、さっきみたいにッ……」
パスファインダーはなにが起きているのかわからないのか、ぎゅっと抱き着いてきた。
マットレスと九百ポンドの機体の間に挟まれ、排気を必死に繰り返していると、腹の奥がじんわりと熱くなった。結合部からなにかどろどろと熱いものが溢れ出ている感覚に、なにが起きたかすぐに理解した。
射精だ。
「~~~~~~ッ、中に出すッ、な」
精巧に作られた性器が腹の奥でどくどくと脈打っている。
種を蒔かれている。
孕まされてしまう。
アタッチメントの中に入っているのは生体オイルだ。DNAが詰まった体液ではない。そんなことはわかっているが、パスファインダーが吐き出したものを奥へ余さず注ぐように腰を軽く打ちつけてくるものだから、ほんとうに孕んでしまう気がした。
そんなものは錯覚にすぎないと、演算処理装置が冷静で正常な演算結果を叩き出してようやく、安堵して全身から力が抜けた。
たっぷりと中に熱情を放ったあと、根本まで埋まっていたアタッチメントが引き抜かれた。
力尽きたらしいパスファインダーはそのまま隣にどうっと倒れ込んだ。胸部ディスプレイはまだピンク色なので、一時的機能停止したわけでも再起動したわけでもなさそうだ。おそらく、はじめての経験に放心しているだけだろう。
取り付けられた雄々しかったそれは、最初に見た情けない形状にもどっていた。
手に負えない熱に浮かされたまま、アイセンサーを足の間に向ける。濡れた亀裂の間から、パスファインダーが出した白く濁った生体オイルがどっぷりと流れ出た。
事後の倦怠感が、廃油の臭気に混ざった。
事後、廃油塗れのシーツを取り替えさせた。
すっかりアタッチメントを気に入ったらしいパスファインダーはご機嫌だった。
シーツの交換が終わるまで、ソファを陣取った。後処理の最中も余韻に浸っているパスファインダーに向けて「もうそれは使うな」言った。
「満足できなかった?」
「私には刺激が強すぎる」
「そっか。オーケー。君がそう言うなら使わないようにする。いつもの接続と違って君の状態や演算結果もわからないから、続けていいのかもわからないしね」
彼は一瞬動きを止めたが、慣れた手付きで新しいシーツを広げ、裾を器用に四隅に仕舞い込んでいく。
「その割には腰を振るのに夢中だったようだが?」
「気持ちよかったんだ。でも君はそうじゃなかったんだよね、ごめんね」
面を逸らし、なにも言わないでいると、パスファインダーもこちらを観察するように黙った。もう一度彼の方を見やると、胸部ディスプレイのフェイスマークが消え、感嘆符が浮かんだ。
「レヴナント……もしかして君、ホントは僕と同じですごく気持ちよかったんじゃないかな? 今度、いつもみたいに接続をしてからまたこれを使ってみない? そうしたら君の考えてることがわかるよ」
咄嗟にソファの端にあった丸いクッションを掴んで、彼めがけて投げた。
「わぁ!」
まっすぐに飛んだクッションは、彼のカメラアイに直撃した。
剥き出しになってしまった羞恥心に機体が火照る。
気持ちよすぎるとは絶対に言いたくなかった。
好奇心というものはほんとうに厄介だ。