パイプベッドのヘッドボードに、重なった状態で麻縄で固定された両手首が痛む。
「こんなことをしなくても、抵抗なんかしません」
恐る恐る述懐するが、折り曲げた足の間に身体を割り込ませて座すジェイコブはなんの反応も示さなかった。
彼に無視されることには慣れている。シーツに身体を投げ出したまま瞬きを繰り返して、鼻息を吐く。
さきほどまで麻縄で俺の手を括っていたジェイコブの指が、保安官の制服――今や、着ていてもなんの威厳もない――のシャツのボタンをすべて外し終えた。下に着ていた肌着が捲り上げられ、首元で蛇腹に縮む。
上半身を荒っぽく剥き出しにされ、帯革とベルトバッグを外したジーンズもあっという間に脱がされた。爪先から引っ張られた靴下がベッドの下に放り出され、唯一下着だけが残された。羞恥心はない。
「俺に抱かれるようになってから」身を乗り出したジェイコブが被さってきて、胸の真ん中を人差し指で、とん、と叩かれた。「身体が変わったと思わないか?」
「……え?」
「俺に抱かれる時、性欲を刺激されてどこが疼く?」
「それは」
言葉に詰まってジェイコブから視線を外す。胸の下で鼓動が速くなる。
「わかりません。俺は男だ。男に抱かれても興奮なんかしない」
本当は興奮する。それに、理性を削り取られそうなくらい気持ちがいいが、そんなことは口が裂けても言えない。
「お前はまだ自分が男として機能していると思っているのか?」
顎を掴まれて、無理矢理正面を向かされる。鋭い青い眸と視線がぶつかる。
「……は……?」
「その身体が誰のものなのか教えてやる」
濃い髭に囲われたジェイコブの口端が僅かに持ち上がる。
「俺の身体は俺ものものだ、あなたに、なんか……」
言葉は勢いをなくして喉の奥に落ちていった。下腹部が熱くなって、尻の辺りがむずむずしはじめる。
「威勢だけはいいな」
鼻で笑ったジェイコブの唇が、ゆっくりと上下する胸に寄った。あ、と声を漏らした時には、胸の端っこを吸われていた。
「ん」
乳輪ごと強く吸われた。吸い上げられて、平たいままだった乳首が口腔で芯を持った。硬くざらついた、チクチクとした髭が胸全体を掠めて、官能が鎌首を擡げる。
「ッ……、ジェイコブ、まって……」
尖った乳首を軸にして舌が一巡する。吸われ、舌先で潰され、ねぶられるうちに身体が火照って、性急に血流が下半身に向かう。
ジェイコブの唇が離れて愛撫から解放されると、晒された先端がじくじくと疼いた。
濡れていやらしく膨れた突起を、指の腹に挟み込まれる。押し上げるように摘み上げられて、開いた唇の隙間から切ない吐息が零れた。乱暴に引っ張られて、痛いような、むず痒いような、気持ちいいような、そんな曖昧な感覚が広がる。
ジェイコブはせせら笑って、中指で乳首を弾いてきた。敏感になった薄い皮膚には大きすぎる衝撃だった。ぴん、ぴん、と何度も弄ばれるように爪に弾かれ、身体が強張る。
触れられてもいないのに、反対側でぷっくりと突出してしまった乳首を、いきなり甘咬みされた。強弱をつけて咬まれ、腰が勝手に浮く。気持ちがいい。片方を舌で掻かれ、片方を指の腹で詰られ、夢心地に意識がとろけそうになった。
浅く不規則な呼吸を繰り返して、熱に浮かされた視線をふと股座にやると、いつの間にか下着を押し上げて、性器が勃起していた。
男のくせに胸を弄られて感じてしまうなんて信じたくなかった。
ジェイコブの手が下腹に滑って、指がゴムの淵に引っ掛かった。下着がずらされて、勢いよくペニスが飛び出す。先端からだらしなく体液を溢れさせて、淫猥な摩擦を求めている。もちろん、こんな状態になっても、粘膜に挿入することもなければ、自身の手で慰めることもない。
下着は剥ぎ取られるように脱がされて、シーツの端に押しやられた。
ジェイコブは膝立ちになって、ベルトを外してジーンズの前を鷹揚と寛げた。体躯に似つかわしい大きさの男根が血脈を浮かせてそそり立っている。
頭がぼんやりする。これから、あれが排泄器官に押し込まれる。体内を抉って肉壁の奥を押し開き、彼しか知らない場所に子種を植えるのだ。
膝裏を掴み取られ、足をさらに広げられる。押さえ付けられた膝がはだけた胸に乗った。尻が持ち上がって丸見えになったそこに、ジェイコブは唾液を垂らした。
垂れた唾液は会陰を伝って孔を覆った。猛々しい性器は尻の割れ目をぬるぬると滑って、ほぐされていない孔に宛がわれた。弾力のある先端が、確かめるように孔の真ん中を叩く。肉と肉が擦れて、窄まった孔がひくついた。
孔は異物を拒んだが、ジェイコブは強引に突き入れてきた。散々味わわされた疼痛が腹を満たす。
「……うッ、ぐ」
「キツいな」
狭まった肉壁を掻き分けて、彼は奥へ突き進んだ。苦しくなってのしかかるジェイコブを押し退けようとしたくても、手を拘束されているせいでできない。身体を捩ってみても、悪足掻きにもならない。
生理的な涙の膜が目を覆う。瞬きをすると、睫毛に涙が絡んだ。
ジェイコブの昂りは、孔にすべておさまっていた。色の濃い彼の下生えと、小振りな自身の睾丸が密着している。
臓腑の隙間をみっちりと埋められる苦しさから逃れようと、深く息を吸っては吐くが、ジェイコブが動いてすぐに呼吸が乱れた。
「あ、ぁ、ぐ……ッ!」
抜き差しがはじまって、喉から押し上げられるように反射的に声が出た。
マットレスが動きに合わせて小さく弾んで、ベッドの足が無機な耳障りな音を立て、縛られた手首の先では指先が震える。
こちらの様子を窺うように、ジェイコブは体内の浅いところで腰を止めて、先端を上壁に擦り付けるようにして腹の中をごつごつと突いてきた。
粘膜越しの刺激に息が詰まった。目の前が真っ白になって、身体が宙に放り出されたように軽くなった。
「あ」
一切弄られていないのに、硬くなった自身がしなって、腹に向けて精液を飛ばした。
「あ、ぉ……がッ……」
沸騰した血が仰け反った全身を巡る。エクスタシーが脳を揺さぶる。
噴き出た精液が、びゅく、と最後の滴を飛ばす。勢いを失くした性器は、繰り返される抽迭の中で無様に腹の上で跳ねた。
噛み締めた歯の隙間から鋭い息を吐いて、腹の内側を掻き回される苦しみを打ち消すほどの快楽に浸っていると、両足首を掴み取られた。
「え? あ……」
背骨が丸まって、尻がシーツから浮く。
「…………!」
頭を持ち上げると、結合部が厭でも見えた。濡れた孔を――というよりも肉色の亀裂――蹂躙されている。ぬちゅぬちゅと水っぽい音を垂れ流し、太く逞しいペニスは潤滑よく出入りを繰り返している。持ち上げられて真上を向いた張った尻たぶに、ふてぶてしいほど大きな睾丸が叩き付けられては、生々しい破裂音が跳躍する。
動きが止まって、股座が隙間なく密接したかと思えば、ジェイコブは猶々腰を深く落として先端を押し付けるようにして腹の奥を探った。
重力に従う臓腑の、奥深くにある行き止まりをごちゅんと叩かれて全身が打ち震えて弛緩する。それなのに、萎えていたペニスがむくむくと膨らんだ。
「お、奥にあたるからッ、や――やめてッ、それやめてください!」
「本当にやめてほしいのか? ここはそうでもなさそうだが?」
「……ぐッ」
なおいっそう腰を沈めたジェイコブの体重を下肢で受け止めて、背中がマットレスに沈み込んだ一刹那、鈍い痺れが腹の底から脳髄を貫いた。
「あ……!?」
一瞬、確かに、はっきりと、体内をずるりと擦り上げられる得体の知れない感覚がした。目には見えないが、ジェイコブは絶対に入りこめないような臓腑の窄まりを無理矢理突破し、深い場所に食い込んだのだろう。
「か、……ッ……、ぁ……」
喉が反った。目を開けているのに数瞬なにも見えなくなった。頭の中で弛んでいた理性の糸が引き千切れそうなくらい張る。全身の痙攣が止まらない。
たった一突きで、勃起していた自身から、勢いのない白濁が漏れ出た。間歇的に溢れて腹に滴り落ちるそれは体液というよりもゼリー状に近い。
「声も出さずにこんなに痙攣してどうしたんだ、プラット保安官。気持ちよくないんだろう?」
蔑みの言葉が胸を突く。
「こ、こんなのッ……」
知りたくなかった。
慣らされた排泄器官はみだらな肉の孔に成り果て、叩き込まれるジェイコブの滾りを享受し、体内を往復する彼の形を覚えようと貪欲に収斂を繰り返す。
身体は甘美なエクスタシーを求めるようになってしまった。
ジェイコブから与えられる、頸烈な快楽を覚えてしまった。
拓かれた身体は、雌と同じであると教え込まれてしまった。
「へばるな」
ぱん、ぱん、と湿った音を立てて肉が激しくぶつかり合う。怒涛に呑み込まれ、息も絶え絶えに喘ぐ。
シーツに両手を突っ張って、ジェイコブは腰だけをくねらせて、容赦なく、深々と肉杭を打ち付けてくる。
「ジェ、ジェイコブ、お、お願い、ぉ……おねッ、お願い、だからッ、も、もう、ゆる、して」
懇願は泣き声だった。
有り得ない、バカげたことだとわかってはいるが、自分が雌に成り下がったことを認めてしまうと、孕んでしまいそうで怖かった。
結合部から鳴る粘着質な音が互いの息遣いに被さる。
「おッ、俺が、俺が悪かったですッ、生意気なこと言いました、ごめん、なさいッ、ホントはッ、気持ちいいです……あ、ぉ、俺の身体……ぜんぶッ、ぜんぶ、あなたのものですッ……! だからッ」
許して。
「……浅ましい若造だな」
年の離れた男はそう言って満足そうに目尻の皺を深くさせたが、許してはくれないようだった。