神宿学園の教師は、一部を除いて通勤している。
ブギーマン先生もそのひとりだ。先生の自宅がどこにあるのか私は知らないが、今ちょうど向かっている。デートの帰り道だ。外泊届は出してきた。今夜は先生のうちに泊まる。はじめてのお泊まり。恋人同士だし、自然と「えっちなこと」を意識してしまう。緊張と期待を先生に見抜かれないようにするのに必死だった。
駅前は賑わっていたけど、閑静な住宅街に入ると人気はなくなった。塀の上を歩く野良猫を見かけたくらいだ。
「三月に入ったのに、夜はまだ少し寒いですね」
「帰ったら温かいココアを淹れてあげよう」
「本当? 嬉しいです」
先生は小さく笑って私の手を取り、指を絡めてくれた。微笑みを返して、互い違いに合わさった指にわずかに力を込める。ブギーマン先生と過ごす土曜日の夜が、私は好きだ。街灯の燈だけがぽつぽつと灯る道を並んで歩きながら、胸を満たす充足感と安心感が入り混じった吐息を零した。
先生が淹れてくれたココアを飲むと、身体が暖まった。緊張もなくなって、はじめてお邪魔した家だというのに、すっかりリラックスモードに入ってしまった。
ローテーブルにマグカップを置いて、隣に座る先生に甘えようと身を寄せると、体重の移動を受けたソファのシートが深く沈んだ。肩に手が回り、抱き寄せられて身体が密着して、上と下で視線が交わった。先生の深い色をした双眸には、甘い熱情がこもっている。
「ブギーマンせんせ……キスして」
先生の胸に手を添えて囁くと、頬を持ち上げられた。距離が詰まって影が被さる。瞼を下ろすと、唇を塞がれた。尖らせた唇同士を擦り合わせるような動きのあと、下唇を軽く吸われる。昂揚感が血の巡りを速くさせ、頭がくらくらした。リップ音が弾んで、隙間から柔らかな舌が差し込まれた。
「サモナー……」
腰を抱かれて、先生の厚い胸に私のおっぱいが当たって潰れる。大好きな優しいキスにとろけそうになりながら先生の動きを追う。息を継ぐ間も惜しかった。名前を呼ばれ、唇が離れた。ほうっと体温のこもった吐息を漏らして、膝をもじもじと擦り合わせて、先生を見詰める。お腹の底が熱い。抱いたことのない衝動が渦巻いている。私は今——欲情してるんだと思う。
キス以上のことを求めてもいいだろうか。いいや、今日はそのつもりできた。
「せんせ……」ブギーマン先生のシャツを握る。私の期待に気付いたのか、先生は一瞬目を細めた。「えっち、しよう?」
恋人をはじめて自宅に泊めるとなったら、男であれば官能的な展開を意識してしまうだろうと思うが、自分から誘うつもりはなかった。
恋人同士であっても、教師と生徒であり、彼女は未成年であるという事実に後ろめたさを感じていたのだ。だが、愛の花というのは、種子が一度芽吹いてしまったら成長を止めることはできない。冬の間に、私の中で尊い愛の花は咲いてしまっていた。私は彼女を愛している……だから、彼女から求めてきたら応じるつもりだった。シャツを握られた時点で、拒否するつもりはなかった。
「良いんだね?」
いつかの放課後に、狭いロッカーの中でキスをする前のように彼女に問うた。薄桃色の唇が引き結ばれ、一拍置いて、恋人は大きく頷いた。
「さっき寄ったコンビニで……ゴム……買ったから……」
「…………」
呆気に取られて目を瞬かせた。駅前のコンビニに立ち寄った時、先に外に出ててほしいと言われたのを思い出した。
「先にシャワーを浴びておいで」
顔が赤くなっていないことを祈りながら、ソファから立ち上がる。バスタオル以外に、上だけなにか着る物を貸してほしいというので、スウェットを用意した。彼女は自分の荷物ごとそれらを抱きかかえ、礼を言ってバスルームの方へ向かった。
恋人の背中を見送って、天井を仰いで息を吐き出す。それからローテーブルに置かれた彼女のために用意した白いマグカップに視軸を移す。甘いココアのような夜が待っている。
なにをするでもなくぼんやりとしていると、脱衣所から聞こえていたドライヤーの音が止まって、彼女が出てきた。貸したグレーのスウェットはぶかぶかで、太腿の辺りまですっぽり覆われていた。裾から、引き締まった足がすらりと伸びている。
「先生の服、大きい!」
両腕を伸ばし、余った袖を揺らして、彼女は無邪気に笑った。年頃の娘らしい笑顔につられて笑った。
彼女に続き、私もシャワーを浴びた。リビングに戻ると、普段結っている髪を下ろした姿が新鮮なのか、彼女は目をらんらんと輝かせて私を見詰めてきた。
温かいお茶を淹れ、ソファで甘いひとときを過ごした。そしてふとした時に、長い間視線が合って、前触れもなく「その時」がきた。
「髪下ろしたブギーマンせんせ……可愛い」
ほんのりと頬を染め、彼女はぽつりと呟いた。腹の底で情欲の火種が弾けた。途端に甘いひとときは幕間を迎えた。
隠しきれない気恥ずかしさを誤魔化すように恋人を横抱きにして寝室に向かう。
「君の方が魅力的だということを、わからせる必要があるようだね?」
「せ、先生?」
「私も、男なのだよ」
耳元で囁くと、彼女は黙り込み、微かに吐息を漏らした。
彼女をベッドに下ろし、サイドテーブルのランプに燈を灯す。彼女はベッドにぺたりと座り込んで俯いて「あのね、先生」と切り出した。
ベッドの端に腰掛けて、言葉の続きを待った。
「東京にくる前の記憶がないからわからないけど、こっちに来てからは……男の人と、こういうこと、したことなくて……」
恋人が緊張していることはわかった。余った袖の下で強く拳を握っているのも。
「サモナー」
ベッドに上がり、彼女をそっと押し倒して、触れるだけのキスをした。
「君が私を選んでくれたことを嬉しく思う。今夜は、教師と生徒としてではなく、男と女として向き合いたい。『先生』は禁止だ」
「そ、そういうこと言うの、ズルい」
「ふふ、可愛い反応をする」
「……もうっ……」
くすくすと笑い合って、夜の静寂の中で、ゆっくりと服を脱いでいく。体温が染みたふたり分の服はベッドの下に落とされていった。あとは彼女の下着を脱がせるだけだった。白い、可愛らしいデザインの、年頃の娘が好みそうな下着だった。豊かな乳房を覆うブラジャーのホックを外すと、たわわな胸が零れた。
取り外したブラジャーを枕元に置いて首筋に口付けを落とし、リップ音を弾ませながら頭をゆっくりと下半身に向けて滑らせていく。波打つへそのあたりで頭を止めて、上目に彼女を見れば、黒々とした眸には甘美な親愛が揺らいでいた。
下着の縁に指を引っ掛けて下ろすと、なだらかな肉の丘が剥き出しになった。下着を放り出して、手を突いて身を乗り出し、キスをする。色白の夭とした肉体は生き生きとした熱を放ち、夜の中で美しく咲いている。
「ん、ぅっ……」
頭の角度を変えて舌を絡ませ、息を啄んだ。肩口に顔を埋めて軽く歯を立て、唇を押し当て、誰も触れたことのない肌に鬱血の痕を残す。
「せ、せんせぇ……」
「サモナー、私の名前を呼んでくれ」
「……ブギーマン……」
「いい子だ」
喉の奥で低く笑って、鎖骨にキスをし、頭を下げる。柔らかい乳房を片手に収めて寄せるように押し上げ、ぷっくりと膨れた頂を唇で挟み込んだ。舌先でねぶると、彼女は「あっ」と声を漏らして敏感に反応した。口元に手を寄せて、未知なる快楽を受け容れる姿は、初々しく、艶やかで、愛らしかった。
シーツの上で強張ったり弛緩したりする肉体に覆い被さり、指と舌で、時間を掛けて男を知らない彼女に快楽と愛を刻んでいった。
何度目かのキスのあと、息も絶え絶えの彼女の膝裏を掴んで大きく開かせた。足の間に身体を割り込ませるようにして座し、指先を股座にやると、女の部分は愛液でぬかるんでいた。中指を慎重に胎内に潜り込ませると、狭い肉壁を割って、指は呆気なく根元まで挿った。一度抜いて、今度は環指と揃えて挿入する。
「あっ、ああ……!」
奥に突き入れると、切なげな悲鳴が耳朶を打った。肉襞が指に絡み付く。付け根まで中に押し込んで、ゆっくりと掌を前後させる。抜き差しはスムーズだった。
「ひうっ、あっ、あっ、……っ!」
胎内の深くで手を止め、腹側を押し上げるように撫でると、彼女の身体は震えた。膝を掴んでいた手を離し、親指の腹で充血してほめくクリトリスを詰ると、彼女は一際大きな嬌声を上げて善がった。
「こんなのっ、知らないっ……!」
艶やかな黒髪を振り乱して、恋人は言った。
保健体育の授業で受ける性教育では、受精の仕組みや避妊の仕方は教えても、セックスのやり方までは教えない。それでも、成熟した彼女の身体は味わったことのない快楽を本能的に欲し、私からの愛を受け容れていた。
「ブギーマン……ぅ、っ、お腹の奥、熱くて、切ないの……たす、けて……」
生理的な涙で眸を潤ませ、彼女は熱っぽく私を見た。少し刺激が強すぎただろうか、なんて思いながら指を抜き、シーツに手を突いて「大丈夫」キスをする。背中に縋るように手が回り、強く抱かれた。
「私も、限界だ」
吐息が鼻先に掛かる距離で囁く。足の付け根では、男の本能が痛いくらいに張り詰めている。
彼女が用意したコンドームの箱を手に取り、フィルムを剥がした。「0.01」と大きく印刷された外箱を開け、連なった六つのコンドームの端っこを切り取って封を切った。装着している間、好奇混じりの視線を感じた。
「ま、待って? おっきくないですか……?」
「これが今から」指先で彼女のへその下をとんとんと叩く。「君のここに挿る」
彼女が息を呑む。長い睫毛に囲われた眸が、一刹那の間に何度も瞬いた。
「力を抜いて」
薄膜に包まれたぎちぎちに怒張した自身の裏側を、しとどに濡れた秘裂に擦り付ける。ぬちりぬちりと湿った音がした。
枕の端を握り、サモナーは大きく息を吸った。膨らんだ胸がへこむ前に腰を突き出し、男を受け容れたことのない胎内に潜り込んだ。
「っあ、あぁ……っ」
みっちりと肉の詰まった膣内を割っていく。内側は熱く、キツく、柔らかい。根本までなんとか収まった。奥の奥で、先端がなにかに当たっているのがわかった。性的興奮で子宮口が降りてきているのだろう。
「苦しくはないかな? 痛みは?」
「平気っ、です……圧迫感がある感じっ……お腹の中っ……内臓が押し上げられてるみたい……」
白い喉を反らし、彼女は途切れ途切れに言った。様子を窺い、緩慢に引いた腰を緩慢に突き出す。何度かそれを繰り返してピストンを重ね、緩急をつけて責め立てた。濡れた肉と肉がぶつかり合って、どちゅん、ばちゅんと重く湿った音が弾ける。睾丸が尻たぶの間で潰れるほど深々と突き挿れると、子宮口が先端に吸い付いた。
「すごいな……吸い付いてくる……」
「……っ、はぅ……あ、あっ、それっ、きもちいっ、だめっ……!」
彼女は声にならない声を絞り出した。
「だめ? 〝いい〟の間違いではなく……?」
問いかけながら腰を揺する。返事はなかったが、胎内がうねり、四方からキツく締め上げられた。動きに合わせて乳房が軟体動物のように弛んだ。
できる限り身体を密着させて唇を重ねる。体格差があるから慎重に扱わなければならない。
「んっ、ん、ブギーマン、ふぅっ……好き、好きぃ」
覗き込んだ眸は、官能の熱に絆されてとろけていた。
「私も君が好きだよ」
愛の言葉を囁いて、押し付けていた腰を引く。肉襞を逆撫でし、抜け落ちそうになる雁首のところで腰を止め、一息に最奥を貫き、子宮口を押し上げる。
「〜〜〜〜っ!!!」
細い喉から声が出ることはなく、組み敷いた総身が痙攣し、胎内が攣縮した。はじめての怒涛の快楽は、彼女を[[rb:小さな死 > オルガスムス]]に至らしめた。
「ブギーマッ……、っ、なにっ、今のっ……頭っ、ふわふわして、あっ、うっ、気持ちいいっ……!」
「今のが〝イく〟ということだ。『可愛い』よ。とても」
突っ張った両腕の下で口端を緩める。彼女は喘いで「恥ずかしいから見ないで」と片手で顔を覆ってしまった。
「隠さないで見せてほしい。私は君のすべてを、ありのままの君を知りたいのだ」
「……っ、本当に、そういうとこ、ズルい……!」
手が枕の横に落ちて、黒髪に縁取られた顔が現れる。その手をシーツに縫い付けて、帰り道にそうしたように、指を互い違いに組んだ。
「サモナー、私は君が好きだ」顔を近付けると、垂れ下がった私の髪が彼女の頬を掠めた。「君を離したくない」
「私も、ブギーマンのことが好き……です」
可愛らしい唇が親愛を紡ぐ。それは胸を暖かくさせ、充足感に似た夢心地を連れてくる。
「きて」
しなやかな腕が伸びてきて、抱き寄せられた。身体の横にあった両足に腰を挟まれる。身体の芯に灯った情欲の炎のままに、めちゃくちゃに抱いてしまいたくなった。最愛の人と身も心もひとつになった今、恐れるものはなにもなかった。
上半身を起こし、括れた腰を掴んで、胎の奥を何度も突く。彼女はか細く啼いて、二度三度と果てた。ぬらぬらと濡れた粘膜への摩擦は滑らかで、腰のあたりで渦巻いていた重たいものが、じわりじわりと迫り上がってくるのを感じた。
「……射精そうだ」
「射精してっ、お腹の、奥にっ、射精してっ……」
彼女のおねだりに、コンドームを着けていることを忘れて、ラストスパートをかけて腰を叩き付ける。
「……っ」瞬発的に沸いた射精感のままに、降りてきていた子宮口で弾けた。「……っ、ぐ、射精るっ……」精液は間歇的に溢れた。
ふたりとも息が乱れていた。腰を引いて胎内から抜け出ると、0.01mmの隔たりの先で、濃い白濁がたっぷりと溜まっていた。きっと中に出していたら孕ませていたことだろう。これだけの量を出したのに、自身はまだ勢いをなくしておらず、ふてぶてしく勃起していた。
「ブギーマン」
名前を呼ばれ、横たわったままの彼女へ視線を向ける。
「せっかくのお泊まりなんだから、夜更かししよう?」
色濃い情欲の幕が上がる。ここに恐怖はなく、どろどろに溶けた愛情だけがあった。鼓動も息遣いもひとつにして、夜を貪ることにした。