デススリンガーとトラッパーとドクター

 神を信じたことはない。
 しかし、産まれた場所や時代が違えども、神というのは世界共通で信仰されているものらしい。もちろん俺の時代にも神を信じるやつはいた。天にまします我らの父よ云々かんぬん。飯の時間の度に祈ってたっけ。そいつは胸を撃たれた時もそう言っていた。結局、神はそいつを救ってはくれなかったが。
「なあ、お前たちは神サマってもんを信じるか?」
 グラスを掌の中で傾けて、丸いテーブルを囲う友を見やる。
「おや、珍しいですね。あなたがそんなことを訊くなんて」
 斜め向かいでカーターが目を丸くさせた。開瞼器も開口器もつけていない間、カーターは一際饒舌になる。酔っていようがシラフだろうと変わらない。
「神というのは脳が作り出した都合のいい幻影にすぎませんよ。人々は偶像のために長きに渡って争ってきたのです」
 カーターはそこからペラペラと語り出した。その間に俺はウイスキーを一杯飲み干した。
「ハーマン、もう黙ってくれ。お前の話はややこしい」
 俺の向かいで、俯いて黙って聞いていたエヴァンが口を挟んだ。
「あなたのオツムでは難しかったですか?」
「……あ?」
「おい、喧嘩すんなら外でやってくれ」
「おっと、失礼。そうですね。酒が不味くなる」
 カーターは目尻を細め、歯並びのいい歯を見せて笑った。こいつのこういうところが好きだ。
「なんにせよ、神サマってもんはここにはいないな」
 ウイスキーを一口啜り、背筋を伸ばす。
「そうですね。ここにいるのは、気紛れで、不平等で、残酷で、人を救う気のない神です」
「ハハ、最高の神サマじゃないか。人殺しの俺たちにゃピッタリだ」
 腰を上げ、ふたりの空いていたグラスにウイスキーを注いでやる。
「邪神サマに乾杯」
『乾杯』
 三つのグラスが引き合って、縁が重なって、無機な音が跳ねた。