翼を広げて飛び立つ瞬間、”彼”は確かにこちらに視線を寄越した。未知なる大型モンスターを屠り、喰らった”彼”の双眸は生命力に溢れていた。
その力強く美しい眸にとらわれてしまった。
愛しの君とこの世のはたて
悉くを滅ぼすネルギガンテ——生態系に大きな影響を及ぼしたアンイシュワルダをも糧としたネルギガンテの特殊個体はそう名付けられた。
いずれ彼とは決着をつけなくてはならない。
それはわかっていた。
セリエナを指揮するリーダーからも散々言い聞かされていた。
わかっている。
わかっている——けれど。
死の淵より蘇った彼と目が合った瞬間の一刹那の衝撃を忘れることができない。
抱いたのは恐怖ではない。
純粋に美しいと思ったのだ。
ネルギガンテに見惚れてしまった。
そんな彼が今ここにいる。
導きの地で彼の痕跡を探し、足跡を辿り、気配を追いかけながら、胸の中で膨らむ興奮を抑えられなかった。
ついに導きの地の奥地で彼を見付けた。
ひゅるりとぬるい風が吹いて、風が私の匂いを運んでいく。
リラックスして翼の手入れをしていた彼はぴたりと動きを止めて、ゆっくりと首を巡らせ、こちらへ顔を向けた。
雄々しい双角の下で、あの時見た双眸が見開かれる。黄金色の強膜の真ん中に座す鉤爪のような眸に私を映して、彼はぴくりとも動かない。
「戦うつもりはないの」
彼に人の言葉は通じないだろう。それでも私は彼に敵意がないことを伝えるために、声をかけながら距離を詰めていった。
ついに、あの時と同じくらいの近さになった。
彼が私を殺そうと腕を伸ばせば届く。
「あなたは……なによりも美しい」
胸を満たすのは恍惚だった。彼を見上げてうっとりと溜息を零すと、彼は低く喉を鳴らして、頭を下げて私の匂いを嗅いだ。
「私を覚えている?」
恐る恐る手を伸ばし、黒色の鱗に覆われた顔に触れる。触れた場所は人で言えば顎だ。鱗は艶やかで、硬く、冷たい。
彼は目を細めると、私の胸に飛び込むように顔を押し付けてきた。
「あっ」
巨大な彼を受け止めきれなくてうしろに倒れる。草花と土の匂いが鼻先を掠める。
彼はグルグルと喉を鳴らして私の顔を舐めてきた。ざらついた舌は首にも絡んだ。ねっとりとした唾液にまみれながらも、私は彼からのスキンシップを喜んだ。
「あなたに会いたかった」
身体が少しずつ火照っていく。下腹部の辺りが疼く。情熱を滾らせた男女がそうするように、私は防具の留金を外し、下着をずらし、彼にすべてを晒した。
彼の舌は汗ばんだ白い肌を這った。豊かな胸も、うっすら筋の浮いた腹も、蜂のように括れた腰も、一度も男を受け容れたことのない女の部分でさえ、彼のものだった。
「はっ……ネル、ギガンテ……」
両足を折り曲げて、膝を引き寄せて見せ付ける。舐められただけで、そこはしとどに濡れていた。
ひくつく肉色の亀裂から愛液が溢れて、子種を求めてぬらぬらといやらしく照っている。
種族が異なるといえども、彼はそこがなんなのか理解したらしい。
突っ張った逞しい後ろ足の間で、ほめく陰茎が姿を現した。皮膚を割って現れたそれは私が得意とする武器の刃と同じくらいの長さだったが、男の腕よりも何倍も太く、人のものとは違って流線型をしていた。根元には短く小さな棘が密集している。陰茎の先端は細く、丸みを帯びていて、とろとろと無色の体液を溢れさせていた。
彼は四つん這いのまま、挿入しようと器用に腰を突き出した——が、一度では入らなかった。血管を浮かせそそりたつ雄が濡れた肉の上でぬるぬるとすべる。
ぬち、ぬち、と淫猥な音を弾ませて、性器が擦れる。そんな刺激すら、理性を打ち崩すのには十分だった。
彼が一歩後退りし、へその辺りにあった先端が雌穴に宛てがわれた。
はっとした次の瞬間、彼は閉ざされていた肉の門を押し広げ、一息に奥まで突き進んでいた。
陰茎の根元の丸っこい棘の数々が、肉襞と剥き出しの肉核を心地よく刺激する。
胎内を満たす圧倒的な熱量に声を出せないでいると、感触を確かめるように胎内に留まっていた彼が浅く腰を引いた。
みっちりと隙間を埋めた猛々しいものが抜け落ちそうなところで動きを止めたかと思うと、一拍置いて腰を振り始めた。
子種を受け入れるために降りてきた子宮の入口をこつこつと叩かれ、身体が強張る。
「ん、あ、あ、あっ!」
濡れた肉と肉がぶつかる弾ける音に嬌声が混ざる。
動きに合わせて胸が揺れる。つんと尖った乳首が、時々彼の柔らかい腹と擦れ、たまらなく気持ちが良い。
私たちの交尾を邪魔するものはいなかった。
「あ、あ、ぁ、好き、ネルギガンテッ……大好きぃ……!」
目が合った時から——否、一戦交えた時から焦がれていた。
生態系の頂点に君臨する威容に。
なんびとたりとも寄せ付けぬ高邁さに。
生きとし生けるものすべてを屠らんとする気魄に。
もう一度彼に会いたいと思った。
彼に己を捧げてもいいと思った。
「〜〜〜〜〜〜っ、あ、ぁ、……っ!!」
どちゅん、と大きく結合部が鳴った。みだらな摩擦は続き、彼から子種を搾り取ろうと胎内は収斂を繰り返す。
ネルギガンテは無性生殖だと聞く。
だから今胎内を行き来しているのは、生殖器というよりも排泄器官なのかもしれない。いや、もしかしたら、これも棘のひとつなのかもしれない。それでもこうして生身で交われるのは嬉しい。
味わったことのない快楽が脊髄をゆるやかに上っていく。
愛する彼を受け容れるという女としての悦びをはじめて知った。細胞のひとつまでもが彼を欲していた。
私の情熱を貪るように、彼は腰を揺すり続けた。
私が何度果てても、彼は腰を止めない。息も絶え絶えで、意識が飛びそうになっても、彼は容赦なく腰を打ち付けてくる。
不意に彼が吐息混じりに鳴いた。
そこで漸く腰が止まって、股座が隙間なく密着し、胎内に熱いものが注がれた。
弛緩した身体を痙攣させていると、下腹部がぼこりと膨れた。彼は最奥で子種を吐いたのだ。雌の身体に植え付けた子種を一滴も溢さぬように、根元の刺の膨らみが栓をする。
ネルギガンテは無性生殖ではなかったのか?
それとも彼は特殊な個体だから?
色々と可能性を考えてみるものの、真っ白になった頭の中にはなにも浮かばない。あるのはただ、彼の子を産みたいという強い思いだった。
雄としての役目を終え、ぬぽんと勢いよくまろび出た彼の性器は、体液で濡れていた。
物欲しそうに切なげに締まった雌穴からたっぷりと注がれた白濁が溢流し、尻を伝って地面に吸われた。
彼との愛の賜物が宿ることを祈って腹をさする。
この地に君臨する覇王は、慈しむように私を見て、聞いたことのない穏やかな声で鳴いた。