その夜、先に眠ったのは立香だった。
カーテンの隙間から差す月明かりに照らされた寝顔を眺めていると、彼女はむにゃむにゃ言いながら寝返りを打って背中を向けた。
夢でも見ているのか、「んん」と鼻息混じりの声を漏らしたが、起きることはなく、微かな寝息に合わせてゆっくりと規則的に丸い肩が上下するだけだった。
手を伸ばし、うなじから背中を指で撫でるようになぞっていく。キャミソール越しに、張りのある瑞々しい皮下から体温が伝わってくる。華奢な身体を形成している背骨の凹凸さえも愛おしい。
不意に、烟る月光が彼女の輪郭を捉えた。瞬きひとつの間に立香を攫われてしまいそうだった。
それは——だめだ。彼女はオレのものだから。
ディビットはふっと吐息をついた。それから身を乗り出してカーテンの端を掴んで、一切の隙間もなく締めた。途端に、仄燈が差していた室内は完全な闇に包まれた。聞こえるのは、乱れることのない寝息だけだった。
起こさないように慎重に立香を抱き寄せて、薄い腹に手を回し、瞼を下ろす。シャンプーの甘い香りが鼻先をくすぐった。
もうすぐ日付が変わる。この満たされた記憶だけは明日へ引き継ぎたい……意識が溶けはじめ、立香との身体の境界線が曖昧になる。深い眠りの淵に腰掛けて、今夜も淘汰した記憶の破片を濁す……目が覚めたら、新しい一日がはじまる。輝かしい愛に満ちた、彼女との一日が。