冬と珈琲

「あー寒ィな、冬は嫌だぜ、オレの腕が凍っちまう」
 ヒューズはそう言ってどっかりとソファに腰を下ろした。首を亀のように縮こませて肩を窄めてがたがたと震えながら窓の外の雪景色を見て、うんざりしたように溜息をつき、「なあ、コーヒー俺にも少しくれよ」物欲しそうにこちらを見た。
「自分で淹れてこい」 
「かぁー、キッチンは寒いじゃねーか」
 ぶつくさと文句を垂れながら、ヒューズは立ち上がり、暖房の効いた居間からキッチンに行った。そしてしばらくして、マグカップ(また私のものを勝手に使っている!)を片手に携えて戻ってきた。
「はー、あったけえ」
 この時ばかりは、この男が寒さに震える年寄りに見えた。実際のところ、年寄りなのだが。
「お前は寒いのは平気なのか?」
「ああ。冬の季節は好きなんだ……すべてが死に絶えるからな」
 マグカップを口元で傾け、少し冷めたコーヒーを啜る。
「俺ぁ冬は嫌いだけどよ」ヒューズは鼻を啜って、コーヒーを一口飲んだ。「お前とこうしてコーヒー飲むのは好きだぜ」
「それではいつもと変わらないだろう」
「いいや、冬だからこそ、自分で淹れた不味いコーヒーでも美味く感じるのさ」ヒューズはそう言ってまたマグカップを唇に寄せた。「苦ぇ、お前みたいにうまく淹れられねぇ」それから顔を顰めた。
「寒ィよ、ミハイル」
 ヒューズはマグカップをテーブルに置くと距離を詰めてきた。腰に回った手を引っ叩く。「あいてっ」
 窓の外では、しんしんと静かに雪が降り続いている。