「お前にもユーモアってもんがあるんだな」
もう一体のレヴナントが征服している影の世界から戻って間も無くして、ヒューズが思い出したようにぽつりと呟いた。
意識を隣に向けると、なにかを企んでいるようにニヤニヤしながら顎を摩るヒューズと視線がぶつかった。
「トリック・オア・トリック、だったよな」
「……忘れろ」
随分とめんどうなことを覚えているものだ。
顔を顰めて視線を逸らすと、ヒューズはくつくつと喉の奥で笑った。
「俺に悪戯してみてくれよ、ミーシャ」
ほうら、とわざとらしくヒューズは両手を広げた。
「無益なことを望むな。それより私の実験の被験者なったらどうだ? それならいくらでももてなしてやるぞ」
「おいおい可愛げがねぇなぁ、こういう時は、キスのひとつくらいしてくれてもいいだろ」
「それではトリートになってしまうだろう」
「お、自覚があんのか。可愛いトコあるじゃねぇか」
「…………!」
ヒューズは楽しげに肩を揺らした。軽率な発言によって墓穴を掘ってしまったことを後悔し、同時に羞恥心に駆られた。
「さあて……トリック・オア・トリートだ。どうする? キスしてくれなきゃ悪戯しちまうぞ」
「子供か、貴様は」
溜息を吐いて、ヒューズのジャケットの襟元を掴み取って引き寄せる。驚いたように目を瞠るヒューズの褐色の眸が目の前で瞬いた。
「ミ——」
名前は最後まで呼ばせなかった。
「……これで満足か?」
ヒューズはぽかんとしたあと、生身の指先で確かめるように唇に触れた。
「ハハ、ごちそーさん。お前はたまに大胆なことをするよな」
ニヤケ面のあと、ヒューズは下唇を舌先で舐め上げ、満足そうに鼻息を吐いた。