明日への音色を君と

「レヴ、見て、これかっこいい」 
 先程まで隣を歩いていたパスファインダーの声がした方を向く。
 好奇心旺盛な彼の琴線に触れたらしい、幼い子供がやるように、パスファインダーは掌をガラスにびたりとつけて、骨董品店のショーウィンドウに張り付いていた。
 ディスプレイに飾られていたのは、小さなぜんまいのついた、木製のシンプルなオルゴール箱だった。横の色褪せたプライスには「白鳥の湖・情景」と書かれていた。
「クールだ……僕の家に飾りたい……」
「オルゴールか」
「オルゴールって、聴くと落ち着くって友達が言ってたよ。リラックスできるんだって。僕は持ってないけど……あ、いけない、メンテナンス用の潤滑油を買いに行くんだったよね。さあ、行こう!」
 パスファインダーはショーウィンドウから離れると鷹揚と歩き出した。
 彼のごちゃごちゃした倉庫に、掌サイズのオルゴールがひとつ増えたところで大きな変化はないだろう。けれど、どうしても、あのオルゴールを彼に贈ってやりたいと思ってしまった。パスファインダーが愛する宝の山に加えてほしかった。
 パスファインダーの背中を見据えて、いつあの店に戻ろうか考えた。

 今週レヴナントに会うのは二度目だ。この前は一緒に買い物に行った。
 今日は僕の家でその時買ったメンテンス用の潤滑油を使うんだけど、レヴナントはソファに座ったまま動かないし、おしゃべりしてくれない。
 ただ、僕のことをじっと見てくる。
「レヴ……? 一体どうしたの?」
 僕が隣に座ると、レヴナントは「慣れないことはするものではないな」唸り声を出力して、大きく排気した。それから、胸部のタクティカルポーチからなにか取り出して、僕に差し出した。
「あ!」
 この前僕が骨董品店で一目惚れしたオルゴールだった。
「僕にくれるの?」
「……使え」
 レヴナントは僕の方を見ないまま小さく頷いた。
「ありがとう! やった! 僕のオルゴールだ!」
 オルゴールを受け取って、早速ぜんまいを巻く。レヴナントが僕になにかをプレゼントしてくれたのははじめてだ。とっても嬉しい。  
 蓋を開けると、きれいな金属音に合わせて、箱の真ん中で首の長い白い鳥の人形が回りはじめた。
「鳥だ。可愛いね。あ、確か君もこんな感じの衣装を持ってるよね?」
「……死にたいのか? 一緒にするな。これは白鳥だ」
「白鳥? 僕、はじめて見た。ソラスにこの鳥はいる?」
 小さなジュークボックスから、きれいな音色がゆるやかに流れる。
 こういうの、きっと「幸せな時間」っていうんだよね!