ベリオロス×女ハンター

  ベリオロスの首根を突いた時、闘志みなぎる眸から光が失せるのを見た。弱々しい咆哮が、吹雪舞う白銀世界へ溶けて行く。白騎士は巨体をしならせ、鮮血の溜まりに沈み、漸く事切れた。
 砕けた琥珀の牙や、武器や防具の素材になる部位を持ち帰ろうと、まだ暖かいベリオロスの死体に寄り、腰のナイフに触れた時、小さな可愛らしい声が聞こえた。
 バギィやギィギのものではない。

 きゃう。

 ほら、また。
 辺りを見回すものの、生き物の気配はない。見えるのは、氷点下の中、死肉を食まれて尚腐乱することのないポポの死体だけだ。

 きゅう。

 今度は頭上から一際甲高い鳴き声がした。
 見上げれば、白い塊が此方目掛けて落ちてくるではないか。
 その場を離れようと七、八歩下がる。 雪玉だろうかと目を凝らすと、塊はぼすっとベリオロスの背中を弾み、私の足元に転がった。

「きゅうん、きゅあっ」

 なんだこれは。
  阿呆面で塊を見詰める。
 白くもこもことしたそれは、短い四肢をばたつかせもがいていた。垂れた耳に琥珀色の短い牙、ふわふわの真っ白な体毛と、ぶんぶん揺れる長い尻尾には小さな棘が並んでいる。

 ベリオロスの子どもだ。

 指先が一瞬にして冷えた。ホットドリンクの効果が切れたというだけではない。
 子どもは、二度と動かないベリオロスの顔に鼻を押し付けすんすん鳴いている。
 ぶるぶると身体を震わせて、丸い眸に怯えを浮かべ私を見ている。
 親の身体に隠れようとしている。
 この子どもの親は、今自分が殺してしまったベリオロスだ。
 ベリオロスの上げた最後の悲しいあの声は、この子に向けられたものだったのだ。

「……ごめん、ごめんね……」

 許しを乞うても、応えてくれるものはいない。
 ベリオロスの子どもは、桃色の舌を出して、親を呼び続けるだけだった。

「……それで、連れて帰ってきたのか」

「はい、どうしても、放っておけなくて」

 村長は煙管を燻らせると、此方に視線を寄越した。
 ハンターを疾うに引退したと言えども、この老人の眸にはまだ鋭敏さが漂っていて、怯みそうになる。
 結局、あの後私はベリオロスの子どもに眠り生肉を与え眠らせて、モガの村に連れて帰ってきてしまった。
 自分でも、なんて無謀なことをしたのだろうと思う。けれど、どうしても放っておけなかった。
 巣はずっと高くにあって、戻すのは先ず無理だった。かといって、厳しい環境の中、生きる術を知らない子どもをあの場に放置していたら、バギィ達に食い殺されてしまっていただろう。

「村長さん、私は、あのベリオロスを」
「ここは暖かいからな」
 村長は私の言葉を遮ると、紫煙を澄みきったモガの空に向け吐き出した。
「まだ小さいし、農場の洞窟に住みかを作ってやったらどうだ。氷結晶が大量にあれば、凍土の温度を再現できるだろう」
 村長は顎を撫でると「大型モンスターを育てるのは初めてだ」と、嬉しそうに笑った。

 氷水を張った桶の縁に顔を凭れたベリオロスが眠っている間に、留守番をさせていたチャチャとカヤンバを連れ、氷結晶を掘りに凍土へ向かった。
  最初はぶーぶーと文句を垂れていた奇面族の子どもだったが、段々と楽しくなってきたらしい。数え切れない程の氷結晶を採取してきてくれた(ご褒美に焼きたてのこんがり肉をあげた)。
 日が暮れ村に戻ると、村長の息子が、ベリオロスを桶ごと農場の片隅の洞窟へ運んでくれていた。
「アンタには本当に驚かされてばっかりだ」
「すみません。私も、まさかこんなことになるなんて……」
「いや、悪い意味で言ったんじゃない、謝らないでくれ。まぁ……アンタの……その、そういう所が好きだってことだ」
 微かに笑んだ彼の横顔を見詰めた時、後ろでチャチャとカヤンバが氷結晶を投げ合い、遊び始めた。
 騒がしさに気付いたか、ベリオロスが大きなあくびをし、目を覚ました。
 チャチャとカヤンバが興味津々で桶に駆け寄ると、ベリオロスは小さいながらもぐるぐると唸り、丸い牙を見せ威嚇をした。
「こっ、こいつ生意気っチャ!オレチャマ達がいっぱい氷結晶を採ってきてやったんだから、ありがたく思えっチャ!」
「ンバー!チャチャ!それ以上近付いたらデンジャラスっバ!」
 ぴょんぴょん跳び跳ねるチャチャ達を宥め、私は桶の前に片膝を突いた。
 ベリオロスは射るように私を見ている。
 親を殺したハンターを、見ている。
 浅く息を吸って、ベリオロスに手を伸ばす。思い切り咬まれるかもしれないが、その時はその時だ。
「……きゅん」
 ベリオロスは恐る恐る私の手のにおいを嗅いだ。時々ぴたりと動きを止め、瞬いて私を上目に見やる。
「……きゅ」
 ベリオロスは私の指を舐めた。
 前足でぎこちなく手を抱え込み、ぺろぺろと舐めている。

「なつかれたじゃないか、よかったな」
 村長の息子に肩を叩かれ、緊張が抜けた。

 氷結晶を敷き詰めた洞窟内の片隅が気に入ったらしい、ベリオロスは長い尾を振り、私の足に擦り寄ってきて、きゃうんと大きく鳴いた。生肉を置いてやれば、夢中になって食べる。
 濃い闇に辺りが包まれた頃、帰宅しようとすると、ベリオロスは鼻をすぴすぴと鳴らし、足にしがみついた。
 渋々、ホットドリンクを持ちこんで、毛布にくるまって最初の晩を明かした。
 ベリオロスの体毛は柔らかく、抱き締めると、とても心地好かった。

 その日から、私はしょっちゅう農場を訪れるようになった。

 私の足音を聞き付けては、ベリオロスは洞窟の外に飛び出し、嬉しそうに鳴き、農作業をするアイルー達を驚かせた。
 多少なら南国の日差しの下でも行動出来るらしく、餌の捕り方を教える為に農場にアプトノスを放ち、捕食させたこともあった。
 それでもやはり、ベリオロスは凍土に生きるモンスターだ。
 氷結晶では補えなくなってきた。
 何よりも、成長が早い。一年半もすると、流石にここは窮屈だと思えてきた。雄の成体となった今、牙は太く伸び、翼や四肢は見事に発達し、胸が逞しく分厚くなって、実に雄々しかった。
 餌も腹が減ったら森へ取りに行くし(短時間ではあるが)、他の大型モンスターと戦って、白い毛を血で汚し帰ってきたこともある(私には土産にか、ガノトトスの頭部を運んできたことがあった)。

(そろそろ、潮時かもしれない)

 甘えてくるベリオロスの頭を撫でてやり、私は溜息を零した。

 皆が寝静まった深夜――寝相の悪いチャチャを押し退けて――松明片手に洞窟へ向かった。
 ベリオロスは、起きていた。
 静かに唸って、歩み寄った私の手を、いつもするように舐めた。
「いい子だね、お前は」
  首に顔を埋めて、囁いた。
 目の前が水っぽく歪む。
 唇が震え、言葉が出ない。
 明日、ベリオロスを連れ凍土に行こうと決めた筈なのに、ベリオロスに触れた途端、胸が苦しくなった。
 あの日が遠く感じた。
 地面に腰を下ろして、ベリオロスに凭れ掛かると、ベリオロスは喉を鳴らし、尾を軽く振った。暖かさと柔らかさに安心してうつらうつらし始めた時、ベリオロスが起き上がった。
 水でも飲むのかと思ったが、違うようで、ベリオロスは私を小突くようにして地面に倒し、そのまま覆い被さり――腰を私の下半身に擦り付け乍、聞いたこともないような鳴き声を上げた。

 そういえばここ最近、背中を向けると、それこそ飛び掛かるようにして私にしがみつくことがあった。てっきり甘えているのかとばかり思っていたが。
「もしかして……まさか……え? 発情期……?」
 ごくっと唾を飲み込んで、息を荒くするベリオロスを見詰める。
 下肢を見てみれば、体毛を割ってそそり勃つペニスが見えた。寝巻き一枚しか身に纏っていないから、押し付けられたペニスの感触に、かっと身体が熱くなり、下腹部が疼く。
 ペニスが触れた太股の辺りが、体液でべっとり濡れているのがわかった。
 仰向けになったベリオロスの腹を撫でてやるのは慣れていたが、剥き出しになった性器に触るのは初めてだ。
 性器はまるで別の生き物のようだった。長く硬く、浮かんだ太い筋が、根本で脈打っている。
「折角だから、気持ちよくしたいでしょう?」
 寝巻きを脱いで裸になり、ベリオロスの腹に四つん這いになって、肉棒をしゃぶった。先端をちろちろと舐めると、小さな丸い突起物がいくつもあった。少しだけちくちくとしている。
 唾液を絡ませ、根本まで咥えてやる。喉の奥で、ねっとりとした体液が溢れた。ベリオロスはだらしなく開いた足を痙攣させている。傘下で脈打つ筋をなぞり、並んだ膨らみを舌で転がし、執拗にねぶる。

 先端を指先で刺激し、ちゅるちゅると唾液ごと吸う。それだけで、ベリオロスは射精した。
 口腔に放たれた粘っこい精液を飲み込むと、真下でベリオロスの胸が大きく上下した。

「人間はこういうことをするの……」
 風が吹いて、松明の炎が揺れ、一人と一頭の影が大きく歪む。

 胸から降りて寝巻きを敷いた地面に足を開いて横たわれば、ベリオロスは湿った舌で私の身体を愛撫し始める。
 体毛がくすぐったい。
 すっかり硬く勃った乳首を自分で刺激し、情欲に喉を反らせる。
 ベリオロスは私のそこをむちゃくちゃに舐め回した。肉芽に牙が押し当てられる。
「あっ、や、気持ちいいっ……」
 生暖かい息が掛かる蜜壷は、唾液と愛液がぐちゅぐちゅと合わさって、少しずつ解れていった。
 声を堪えているとベリオロスが顔を上げ、短く吠えた。
 私は力の入らない身体をなんとか起こし、尻をベリオロスの方へ高く上げて、横に揺らした。
 二本の牙が目の前に降り、背中に波打つ腹が当たり、雄が挿入された。
 ベリオロスが腰を打ち付け、理性が溶けていく。
 じんじんとした痛みが内臓ごと貫くようだった。先程見た先端の突起物によって胎内が掻き回されているのか。
「きもち、いっ、や……ベリ……んっ!」
 大きくゆっくりとした律動が、やがて早く小刻みになり、肉が重なる音が徐々に早くなった。
 乳房が軟体生物のように揺れ、息も出来なくなる。
 ベリオロスは顎から唾液を滴らせている。
「いっ、イっちゃう……、ベ、べりおろすっ……!」
 涙がぽたぽたと落ち、寝巻きに吸われた。胎内でベリオロスが弾ける。精液が蜜壷に注がれ、溢れ、太股をぐっしょりと濡らした。
 振り向けば、引き抜かれた肉棒はまだしなっている。
「たくさん、したいよね?」
 淫らにひくつく肉壁は、何度もベリオロスを受け入れ、逆流した白濁を滴らせる。時々淫媚なにおいを嗅ぐように、ベリオロスは私の下肢に顔を押し付け、舌で蜜壷を犯した。
 頭の芯を痺れさせる快感に、びゅくびゅくと潮を噴き、喘いだ。
 再びペニスが宛がわれる。

「ホントは、もっと一緒にいたいの……っ……でもぉ……もうお別れなの、私っ、凄くっ、悪いこと、したのっ…に、あなたが、な……あぁっ……!壊れちゃう……」
 精を吐きながら、ベリオロスは私を攻め立てる。
「べりおろすぅ……ごめんね……でも、だい、すきっ……」
「………グウ、グルル……」
 ベリオロスは低く鳴いた。
「私のこと、わすれ……ないでねっ」
 突っ張った両腕から力が抜け、肘で身体を支えようにも――意識が――。

 小鳥の囀ずりで、ふと意識が浮上した。
 全裸なのはすぐ解った。
 ベリオロスが被さるように、暖めてくれていた。引き締まった胸が規則正しく膨らみ、へこむと、鼻息が頬を掠めた。

「ンバー!子分がミッシングっバー!」
「あいつがいないとオレチャマ達の朝御飯はオアズケっチャー!」
 ベッドにいないことを心配したらしい(そう思いたい)チャチャとカヤンバの甲高い声に、ベリオロスがうっすら目を開けた。
 私が微笑み掛けると、ベリオロスは私の顔を舐め上げ、頬を擦り寄せた。

 もう暫くだけ、心地好いここに隠れていようと思った。