※事後描写あるためR18
愛の営みのあとに訪れた快楽の重い余韻に浸りながら、デイビットの剥き出しの胸に残る傷跡を見詰めていると、ふと、雨の日は傷が疼くという話を思い出した。
確か、そう零したのは、身体に数多の戦いの痕を残したサーヴァントだ。彼は、傷は男の勲章だと笑っていたっけ。
今日調査した微小特異点は雨が降り続いていた。もしかしたら、デイビットはずっと疼痛を感じていたかもしれない。
デイビットの肉体は、テスカトリポカによって心臓の移植が行われた胸の真ん中だけが歪に肉がもじれている。傷口はしっかりと塞がっているとはいえ、見ていて痛々しい。
「ねえ、傷痕、痛くない?」
上目にデイビットを窺う。彼はゆっくりと瞬きをした。「何故そんなことを訊く?」
「雨の日は傷が疼くって聞いたことがあるから心配なの。今日行った特異点、雨がずっと降ってたでしょ?」
「ああ」デイビットは目を細めた。「平気だ」
「そう。よかった。本当に、痛くないんだね?」
おそるおそる傷痕に触れる。白い身体は、胸元だけ皮膚の色が薄い肉色だ。癒えたばかりの新しい傷である証拠だった。熟れた柘榴のように口を開けた傷口を想像してしまって、泣きそうになる。
「藤丸は、優しいな」
デイビットが身じろぎした。背中から抱き寄せられて、ほめく身体が隙間なくくっついて、足が絡まる。ふたりの間で、デイビットの厚い胸板に当たった弾力のある乳房が生き生きと潰れる。
「ふたりきりの時は、名前で呼ぶ約束だよ」
尖らせた唇でデイビットの下唇に触れる。リップ音が弾けて、甘い静寂に官能の気配が滲んだ。事後に押し寄せた心地いい疲労感は眠気を連れてきたが、まだ眠りたくはない。もっと彼とこうしていたい。
「そうだったな」
頬に温い手が添えられ、優しい口付けが落ちる。柔らかな舌が隙間から入り込んできてくねった。互いの息遣いは余裕がなかった。舌先を吸われると、下腹部が熱くなった。
「立香」
起き上がったデイビットの鍛え上げられた肉体が被さってくる。上と下で視線が交わった。長い金色の睫毛に囲われた双眸に、手に負えない熱情を見た。
「デイビット」
わたしたちは互いを想い合う男と女だ。これ以上言葉は必要ない。両腕を伸ばして、デイビットの広い背中に指を引っ掛けると、昂揚した肉体が引き合った。
彼が感じる痛みも、疼きも、すべて共有したいと強く思ってしまう。彼の燃え盛る信念も色褪せた孤独も、今度は全部受け容れてみせよう。これからは同じ歩幅で、同じ方向を向いて歩いていくのだ。
立香、と確かめるように名前を呼ばれた。穏やかな声だ。
愛を知った心臓を重ねて、潜熱に浮かされた身を夜に委ねた。