※神×シスターのパロディ。あくまでぐ♀は敬虔なシスターという設定であり、こちらの二次創作はフィクション、ならびにパロディです。特定の宗教に対する冒涜や不貞を肯定する物ではありません。予めご了承ください。ぐ♀→ポカ→モブ神父と視点が変わります。ポカに想いを寄せているぐ♀がいる。なんでもゆるせる方向け。
孤児院での慈善ボランティアを終えて教会に着いた時には、太陽は傾いて、空には夜の気配が滲んでいた。
司祭館へ向かう神父と別れ、パンがなくなってすっかり軽くなった籠を提げて教会に入ると、人の気配がした。
思わず固まった。祭壇の前に並んだ蝋燭に灯る火に照らし出された仄明るい聖堂の中へ、視線を左へ右へと滑らせる。
左の最前列のチャーチチェアに、髪の長い人物が座っていた。
「こんな時刻に、どうなさったのですか」
背後で閉まるドアの音に背中を押されて歩き出す。靴音が反響する。
「教会というのは、静かでいい」
低い、落ち着いた、耳に馴染む滑らかな男の声だった。
傍で歩みを止めて訪問者をまじまじと見詰める。長い金髪に、褐色のサングラス。黒いロングコートの下では、割れた腹が丈の短いシャツから覗いている。
「考えごとをするのはちょうどいいな」
ジーンズを穿いた長い足を悠々と組んで、男は椅子の背凭れに片腕を載せ、首飾りを指先で弄って、長い吐息をついた。ブーツの先が、火の色を吸って艶やかに照っている。
「実際、色々考えていたところだ」
男はそう言ってこちらに顔を巡らせて薄く笑った。端正な顔が火に濡れて、くっきりとした陰影が浮かび上がる。翳る男の顔は、何故か死神を連想させた。
見たことのない男だった。迷える子羊には見えない。
「ご用件は?」
「ずいぶん冷たいな。おまえさんとはもう何度もここで会っているんだがね」
男は微苦笑して組んでいた足をほどいた。
「何度も? そんなはずは……」
「いいや、会っている。何度も話をした。何度も。思い出せ」
男の顔を凝眸し、瞬きを繰り返し、記憶の糸を辿る。
「あ……」
彼は一昨日のミサに来ていた。その前の週のミサにも。それからもっと前にも――記憶の洪水が怒涛となって押し寄せる。
男の言う通りだった。彼とは一年ほど前にここで出会っていた。シスターになって間もなくして出会ったのだ。生まれ育った故郷を離れ、慣れない異国で心細い毎日の中で、彼と話すのが楽しかった。唯一の楽しみだった。
いつしか、いけないことなのに、わたしは彼に惹かれていた。優しい眼差しを向けられるのが嬉しかった。隣にいたいと願ってしまった。彼の傍で鼓動は高鳴った。決して許されない、禁じられた想いだった。
何故、こんな大切なことを忘れていたのだろう。いいや、それなら、どうして彼の名前を思い出せないのだろう。彼は一体何者なのか――。
「立香」
柔らかな声音に名前を呼ばれ、思考が弾けた。顔を上げると、男と目が合った。心臓が早鐘を打つ。辺りには甘い香りと煙が漂っている。嗅いだことのある、どこか懐かしいにおいだった。
「オレにはどうしてもほしいものがある」
男はそういって、ジーンズのポケットに片手を突っ込んだ。
「おっと、その前に告解するべきだな」
「……どんな罪を犯したのですか?」
「まだ犯していない。これから犯す」
風もないのに、祭壇の蝋燭の火が一斉に揺れた。床に貼り付いたふたりの影が傾いた。
「オレがほしいのはおまえさんだ。神からシスターを奪うなんて、罪深いだろう?」
男はそう言って、蛇のように音もなく近付いてわたしの前に立った。サングラスのレンズの下で、双眸が光る。
「オレのために高鳴るその甘い心臓がほしいんだ」
天井からぶら下がった電球の燈は頼りなかった。
罪の告白が繰り返されてきた狭い陰湿な箱の中で、主にすべてを捧げ、純潔を守り通してきた立香を抱いた。
仕切りの向こうには告白に耳を傾ける神父はいないが、修道服をたくし上げ、うしろから抱きかかえて、結合部がよく見えるように足を開かせて交わった。
どうしても立香がほしかった。一年間傍にいた。
立香は、年に似合わぬほど老成していた。運命に翻弄され、数多の受難を乗り越えてきたのか、魂は傷付いていた。熱く脈打つ心臓は魅惑的で、戦士の心臓を思い出させた。
神に祈り、歌い、哀れな仔羊たちを慈しむ、献身的な女を奪ってしまいたかった。だから今夜、奪うことにした。魔術によって記憶が失われていたのが気に入らないが、誰がそうしたのかはわかっている。
「あ、あ、ぅ、っあ……!」
濡れた肉が擦れる音と、はじめての快楽に揺さぶられる立香の声が罪深く告解部屋にこもる。肌は汗ばみ、互いの息遣いは熱っぽい。夜の帷が世界を覆うように、本能のままに貪り合った。
「ん、ぁ、わたし、これいじょ、だめぇ……!」
ピストンを止めて、奥に留まったまま、片手を立香の胸元に這わせる。ホックを外してずらした下着から零れた柔らかい乳房を揉みしだき、つんと硬く尖った先端を指の腹で摘み上げる。それだけで、さっきまで処女だった肉体は反応した。
「オレのことを思い出したか?」
立香の首元に鼻先を埋める。コーパルのにおいが沁みている。
「思い出せない、思い出せないよぉ」
「オレの名前をまだ思い出せないか」
膝裏に回した手に力を込め、緩やかに抜き差しを再開し、腰を下から押し付ける。肉の詰まった胎内はもうオレの形だ。胎の最奥をつつき、快楽をじっくりと叩き込む。
「立香」
前にしてやったように、耳元で名前を囁くと胎内が締まった。
「あ、あ、なにかくる、やだ、怖いっ……! ん、っ、~~~~~~っ!」
立香の総身が震え、強張り、足が痙攣し、つま先が壁に当たった。愛液を垂れ流す媚肉が絡みついてナニを締め上げる。
「おまえはオレに言った」
エクスタシーに善がる肉体を容赦なく突き上げる。
「あなたは神様のようですね、とな」
尻の下で動きに合わせて椅子が軋んだ。
「実際、そうなんだよ」
ベールを外して剥き出しになった立香の火のような色をした髪が愛おしくなった。
「テス――」立香が喉を反らした。「テスカトリポカ」
「……やっと思い出したか」笑みが漏れた。「いい子だ」
「うん……あなたは、わたしの、大切な人……」
ゆっくりと腰を引き、立香に立つよう促した。うしろから覆い被さり、肉厚な白い尻に手を置く。仕切りに手を突いた立香は、また「テスカトリポカ」言った。「きて、ください」
立香は後ろ手に、ぬかるんだ女の部分を指先で左右に広げた。肉色の粘膜が剥き出しになって、ぬらぬらといやらしく照っている。愛液にまみれて媚肉に張りついた陰毛がそそる。淫らな光景を前に舌なめずりをする。
割れ目をなぞり、ゆっくりと挿入し、長いストロークで下がってきた子宮口からぱっくりと開いた入口を往復する。どちゅん、ばちゅんと、何度も生々しい破裂音が響いた。
「なあ、オレの妻になる気はないか?」
ふっと息をついて、胎の奥を抉る。
「う、ぁ、なります、テスカトリポカのっ、お嫁さんになりますっ」
「従順だな。おまえの神に誓えるか、シスター?」
「誓います、わ、わたしは、もうあなたのものですっ」
「よし。愛し合う男と女の新婚初夜といえば子作りだよな。ああ、ハネムーンはどこがいい? ここから遠いが、ピンクラグーンなんかどうだ? テキーラをあおりながら見る景色は最高だと思うんだが?」
「っ、あ、うぅ……あ、だめ、やだ、またイく、イっちゃう……!」
立香の薄い腹を抱きかかえ、腰を押し付けて隙間なく密着する。
「ハネムーンの行先はあとで考えよう」
熱い胎内がうねり、四方からナニに吸い付いた。肉付きのいい尻が小さく跳ねて、イったのだとすぐにわかった。
色欲に堕落した女を、電球の緋色の燈が照らし出している。
司祭館を出ると、冷たい闇が聖堂を覆っていた。冬は夜の訪れが早い。今夜は月が美しかった。近くのモミの木で、梟が物悲しげに鳴いた。梟というのは、冥界の遣いだという。どこか不吉だ。
聖堂のドアを開けると、蝋燭の燈が灯る祭壇の前に人影があった。
月明りを通したステンドグラスの下に立つ人物は、極彩色の光を背に立っている。まるで主が現れたような厳かな光景に、一瞬足が止まる。
「こんな時刻に、どうされましたか」
動揺したが、できる限り平静を装う。背後でドアが閉まると、途端に聖堂の空気が張り詰めた。
「神父、悪いが今からオレの告白を聞いてくれないか?」
低い、穏やかな、粛々とした夜に合う男の声だった。知っている男の声だった。直接言葉を交わしたことはないが、この男は、或るシスターとよくやりとりをしているのを知っている。
「懺悔ですか。構いませんよ。では、告解部屋へ参りましょうか」
ふたり分の靴音が聖堂に反響する。祭壇の蝋燭が弱々しく瞬いた。
重苦しい空気が満ちた告解部屋へ入ると、仕切りの向こうで、男が椅子に座る音がした。
プライバシーは守ることと、秘密は厳守する旨を伝えると、男は「そりゃあいい。レンガ・ラルガ(スペイン語で「口が軽い奴」の意)は命を落とすというからな」諧謔混じりに言った。どうやら、男はスペイン語も話せるらしい。
「さて、オレの罪を告白しよう」
俯いて、男の囁き声に耳を傾ける。
「或る敬虔なシスターを寝取った」
男は静かに、淡々と続けた。
「髪の色と同じく、火のような強い意志を持つ女だったが、魂は傷付いていた。まるで歴戦の戦士のようにな。心臓の鼓動も聞いていて心地よかった。正直甘すぎてオレ好みの心臓ではないが、オレのために期待で高鳴るのが初々しくて愛らしくてね。どうしてもソイツのことがほしくなって、様子を窺いながら一年傍にいた」
頭上で電球が明滅した。この電球は半月前に変えたばかりだ。
「ヒトの愛情というものはオレにはわからん。興味もないが、あの女が最期を迎える時まで傍にいてやろうと思った。ヒトはそれを愛と呼ぶのか? ……まあいい。で、或る夜ついに抑えられず、奪いに行った。すると誰かがアイツの記憶を封じていた。オレからすればお粗末な魔術だが、自力で解かせたよ」
瞼の裏に、一週間前にここを去ったシスターの顔が浮かんだ。彼女からこの男の存在を封じたのは私だった。
「今夜みたいに冷えた夜だった。狭く暗い場所で抱いたんだ。それで、オレの女になることを誓わせた。神の前でな」
「それは」唇から漏れた声は震えていた。「なんという」冒涜だ、という言葉をなんとか飲み込んだ。
「オレは愛情を注ぐとそっぽを向かれるんだが、アイツはそんなことはしないと言った。健気だろう?」
「……彼女は、今、どこにいるのですか」
リンゴ飴を贈ると、彼女が嬉しそうに笑っていたのを思い出した。愛らしい私たちのシスター。シスター・リツカ……。
「オレの元にいるさ。もうオレのものだからな」
男は忍び笑いをした。
「あなたは、何者なのですか?」
気が付けば立ち上がっていた。仕切り窓を開けてしまいそうになって、必死に堪えた。息が乱れていた。
長い沈黙のあと、男が身じろぎする気配があった。
「さあ。悪魔かもな」
男のいる告解部屋のドアが開く音がした。
慌てて外に飛び出す。
薄暗い聖堂には誰もいなかった。濃い黒い煙だけが、聖堂の中に渦巻いていた。
イヴを唆した蛇のような男は、シスター・リツカと同じく、二度と現れることはなかった。