テスカトリポカが吐き出した紫煙が、喫煙所の天井に向けて細く立ち昇っていくのをガラス越しに見詰めながら、壁に預けた身体が崩れないように身じろぎする。
一筋の煙は雲散して、また吐き出されては消えていった。そうやって、煙草を喫うだけの、広いとはいえないスペースには苦い煙が充満し、においが染み付いていくのだろう。
喫煙所の前を通り掛かった時、わたしの部屋に行く前に一本喫いたいと言うので、喫煙所の外で待つことにした。「先に部屋に行っていてくれ」とテスカトリポカは言ったが、なんとなく、煙草を喫う彼を見たかったのだ。
喫煙所の壁に寄り掛かって、彼はただ、ごくごく普通に煙草を喫っている。煙を吸い、吐き出し、指の間に挟んだ煙草の先で灰が落ちそうになると、彼は灰皿に手を伸ばす。黒い爪の先が紙軸を叩き、灰が落ちて、テスカトリポカは再び煙草を咥える。それの繰り返しだ。
それを眺めているだけなのに、どうして、飽きないんだろう。
ふと視線を僅かに上げると、テスカトリポカとガラス越しに目が合った。
サングラスのレンズの奥で、切れ長の目が細まる。テスカトリポカは、なんだか楽しそうに微笑んでいる。首を傾げると、彼は煙草を指に挟んだ。形のいい薄い唇がゆっくりと動く。
み と れ た か——見惚れたか?
聞こえないけれど、テスカトリポカの唇はそう動いていた。
ふっと笑みが漏れる。
——そうだね。見惚れてたよ。
顎を大きく引くと、テスカトリポカは白い歯を覗かせてにやりと笑った。
煙草の先で、赤々と火が瞬いている。