覆い被さってきたテスカトリポカの唇が首筋に寄って、肩口を咬まれた。
いつもの甘咬みだ。
部屋でふたりきりの時、彼はわたしに咬み付いてくる。服を着ている時は首筋や指先に、今みたいにベッドの上で裸の時は、あちこちに歯を立ててくる。
歯型が残るほど強く咬まれたことはない。
でも、時々痛みを感じる時がある。その時は、テスカトリポカも強く咬んだという自覚があるのか、「悪い」と謝ってくる。
咬むという行為も愛撫の一種だと思う。
だから、テスカトリポカに咬まれるのは嫌いではない。
けれど、もっと咬んでほしいとねだったことはない。
ナイトテーブルのランプの燈に照らされながら、息を乱し、汗ばんだ肌を重ね、求め合った。
ぬかるんだ女の部分に男の本能が突き立てられ、揺さぶられる。テスカトリポカの背中に指の先を深く食い込ませて、すべてを受け容れた。胎の中に吐き出された熱い精液が広がる感覚に、一握の背徳感を感じてぞくぞくした。
事後、シャワーを浴びようとベッドを出ようとして起き上がると、手首を掴まれてブランケットに引きずり込まれた。
「わ」
ぼすっと枕に頭が沈む。テスカトリポカはわたしと入れ替わるように起き上がった。彼の背中をブランケットと上掛けが滑り落ちていって、生き生きと躍動するしなやかな筋肉の詰まった身体がおぼろな燈に暴かれる。
「どうしたんです?」
「咬み付きたくなった」
薄い眉の下で、切れ長の目が光る。餓えた肉食獣みたいだ。
線の細い鼻梁が首の側面に埋まって、湿った吐息が鎖骨に掛かって、テスカトリポカはわたしの首にがぶりと咬み付いた。
官能の気配を再び感じて、薄く開いた口から熱っぽい吐息が漏れた。
太腿の内側を伝い落ちる溢流した白濁は、事後のふわふわした意識をベッドに繋ぎ止めた。
わたしの胎の中に二度射精した彼は、ジーンズだけ穿いて、ヘッドボードに寄り掛かって煙草を吹かしている。
今日はたくさん咬まれた。ちょっと痛かった。
「ねえ」
うつ伏せになって、片方突いた頬杖に頭を預けてテスカトリポカを上目に見詰める。彼が咥えている煙草の先から白い煙が天井に向けて伸びている。
「どうして、いつもわたしを咬むんですか?」
ずっと胸にあった疑問をなにげなくぶつけてみる。
「ああ、なんだ、そのことか」
テスカトリポカは曖昧に頷いた。それから気怠そうにに唇の間から紫煙を噴き出し、指の間に煙草を挟んで唇から離して、緩慢にナイトテーブルの隅に置いた灰皿の上で灰を落とした。
「オマエを見ていると、本能をくすぐられる。衝動的に咬み付きたくなるんだよ」
「それって……キュートアグレッションじゃないですか……?」
わたしは、いつか本当に、衝動的に食べられちゃうかもしれない。
「お返しです」
シーツの上のテスカトリポカの手を取り、美しい指の先に咬み付いた。彼はにやりと笑って、わたしの舌を撫でた。