私は夜が好きだ。
一日の終わりを感じるからかもしれない。はたまた、夜と風の神であるテスカトリポカの影響かもしれない。いいや、落日が地平線に沈んでから彼とふたりきりで過ごす時間が私にとって大切だからかもしれない。
なんにせよ、私は夜が好きだ。
「なにを考えている」
首筋に熱っぽく湿った吐息がかかり、見慣れた天井に張り付いていた意識が、私に覆い被さるテスカトリポカの美しい金髪に落ちる。
視軸を少しばかり胸元にずらせば、彼は埋めていた私の乳房の間から顔を上げた。私を見据えるアイスブルーの双眸は、腹を空かせたジャガーのようにギラギラしている。
「なにも考えていません。ただ、夜が、好きだなって」
ふっと笑ってみれば、テスカトリポカは切れ長の目を細めて「あん? ついにオレ色に染まったのか?」喉の奥でくつくつと笑った。
「そうかもしれません」
色の白いテスカトリポカの頬に触れると、ふたりの間に漂っていた官能の芳香が強くなった。
私の胸元から口元へ顔を寄せたテスカトリポカと唇が重なり、舌が絡んで、微かに息遣いが乱れる。
幾度身体を重ねようとも、剥き出しの肉体に与えられる彼からの愛撫は、すべてが新鮮で、生き生きとして、愛おしい。
テスカトリポカの唇が、舌が、指が、彼を知ったばかりの肉体に快感を刻んでいく。拓かれた腹の内側は熱く蕩け、亀裂から蜜を垂れ流してテスカトリポカを求めている。
「きて、ください」
下腹部の疼きを堪えられずにねだれば、膝の裏を掴まれ、テスカトリポカの身体の幅だけ広げていた足が更に大きく開かれた。
「おねだり上手になったじゃないか」
薄い唇を舐めずって、テスカトリポカはほくそ笑んだ。彼の足の間では、男の本能が血管を浮かせて膨らんでいた。その大きさに慄いて、身震いする。あの凶悪な肉の槍で胎の奥の奥まで突かれる——それを自覚すると、甘い期待が下腹部で渦巻き、歓喜に似た灼熱が背骨を駆け上がった。
いよいよ張り詰めた男の本能がしとどに濡れた肉の門に押し当てられた。テスカトリポカが腰を突き出すと、肉の門は一気に押し開かれた。
「ん、っ……ぁ」
反らした手首で枕カバーの端を掴むと、身体が強張った。テスカトリポカのしなやかな引き締まった両腕が胸の横で突っ張って、緩やかな、しかし、深いところを抉るような抜き差しがはじまる。動きに合わせて乳房が揺れ、わずかに開いた口唇からは艶を帯びた声が漏れる。
抽挿は容赦がない。テスカトリポカが胎の奥に当たると、強烈な快感に襲われた。快楽は怒涛となって押し寄せ、理性も思考も攫っていく。
濡れた粘膜と粘膜が潤滑よく擦れ、肉体の境界線が重なるたびに、粘着質なみだらな音が鳴った。テスカトリポカの腰だけが動いている。
苦しいほどに気持ちがいい。身体が熱い。
「あ、ぁ……! テス、カ、んっ、だめ、気持ち、いい……」
テスカトリポカを迎えるために下がってきた子宮口を突かれ、頭の中で火花が散って、総身が痙攣する。受け止めきれないほどのエクスタシーから逃れようと身を捩るが「好きだろ、これ」テスカトリポカは身を乗り出し、股座が密着するほど深々と肉の槍を突き立ててきた。
「あっ、あっ、ぅ、ん、……っ、〜〜〜〜〜っっっ!」
重たい刺激が胎の底に響いて、オルガスムスを迎える。目に生理的な涙が湧き、声が出なくなる。
「今、イっただろ?」
テスカトリポカは私の足首を掴み取り、上から押し潰すようにのしかかってきた。背骨が丸まって尻が持ち上がり、ぬかるんだ結合部が丸見えになる。
「や、やだ、恥ずかしいっ」
「その割には締め付けてくるぞ」
肉と肉が激しくぶつかり、ばちゅん、どちゅんと生々しい音が弾ける。耐え難いほどの快楽の波に断続的に攻め立てられ、二度目の絶頂に呑み込まれる。息も絶え絶えだった。
「気をやるなよ」
テスカトリポカの腰がラストスパートをかけたものに切り替わり、男の本能が荒々しく胎内を行き来する。抜け落ちそうなところまで引き、押し込まれたかと思えば、強弱を付けてぶつかっては離れる。シワだらけのシーツの上で肌が汗ばんだ。泣きそうなほど気持ちがいい。胎を拓かれ、交わるうちに、泣きどころを覚えられてしまった。
ランプの燈に照らし出されたふたりの影が白い壁に張り付いて、大きな怪物のように傾いている。
「出すぞ」
不意にベッドが軋む音にテスカトリポカの静かな声が被さった。
頭の中で形を成さない狂熱が爆発しそうになった時、テスカトリポカが動きを止めた。一刹那大きく息を継ぐと、胎の中に熱いものが注がれる感覚がした。肺腑から体温の溶けた吐息が漏れる。
持ち上がっていた尻がシーツに下され、テスカトリポカの腰がゆるゆると前後する。彼はいつも、引き抜く前にこうして注いだ精液を更に奥へ塗り広げるように腰を揺する。
ぐちょぐちょになった女の部分からテスカトリポカが去って、中に出された情欲の名残が逆流して溢れ出し、シーツに伝い落ちる。
夜の帷のように重たい情欲が弾けて、天井から倦怠感が室内に転がり落ちてきた。
夜が快楽を塗り潰していく。ナイトテーブルの上のランプに灯る燈だけが粘っこい小夜を割いて、私たちを暴いた。
タイトル元:garnet