重たい瞼をわずかに持ち上げると、白い光が視界を覆って、眩しかった。
眉を寄せ、霞む目を瞬かせるうちに徐々に明るさに慣れてきて、自室のベッドで熟睡していたことに気付いた。
寝起きでぼうっとした頭で、眠ってしまう前の記憶を辿ってみる。
香を焚いた。テスカトリポカからもらったコーパルの香——あれを焚くと、気持ちが安らぎ、リラックスしすぎてしまうのか、眠くなってしまう。
頭の中で立ち込める眠気の霧に意識が朦朧として、ベッドに寝転んだところまでは覚えている。
そこから記憶がないので、そのまま眠ってしまったのだろう。
身じろぎすると、足元になにかの気配を感じた。
「……ん?」
視軸を下げると、テスカトリポカがベッドに腰掛けていた。彼の姿を認識すると、意識は一気に覚醒した。
「テスカトリポカ?」
手を突いて身体を起こす。彼は首を巡らせた。
「起きたか、神官」
目が合うと、テスカトリポカは足を組んだ。
「わたしが、ですか?」
部屋に残る芳香を吸い込んで、テスカトリポカの隣に座る。
「香を焚くのは神官の勤めだからな」
「わたしはリラックスしたくて焚いただけなんですけど……」
「冗談だ。それでいいんだよ。そのためにおまえにやったんだ。好きな時に使え」
だが、とテスカトリポカは続けた。
「ハチドリがおまえのことを『わたしの神官』と呼ぶ心情がわかった。たしかに、そばに置いておきたくなる。もしかして、これが独占欲ってやつか?」
テスカトリポカはそう言って、懐から煙草の箱を取り出して、一本咥えた。
「それなら——」
箱をしまい、今度はオイルライターを取り出した彼の横顔を見詰める。
「なります。あなたの神官に」
ライターの蓋を親指の腹で押し上げ、テスカトリポカは一刹那動きを止めた。アイスブルーの双眸がわたしに向けられる。眸には、一握の情熱が浮かんでいた。
煙草の先に火が灯って、煙が一筋立ち昇った。
火口は明るい。
眩しいほどに。
テスカトリポカは煙草を指の間に挟むと、天井に向けて紫煙を吐き出した。
「ならなくていい。おまえはオレの神官ではない。オレにとっておまえは誇るべき戦士であり、共に戦うマスターだ」
煙は渦を巻いて、薄れて消えた。
「まぁ、今は花嫁みたいなものだがね」
「……はっ、はなっ……」動揺するあまり、言葉が途切れた。「花嫁、ですか……」
「なんだよ、そうだろ?」
「そ、そうなのかな……」
「顔が赤いぜ。そんなに照れることか?」
テスカトリポカは声を上げて笑った。顔が熱くなった。
部屋を満たす香りは、親愛のにおいがする。わたしは、このにおいが好きだ。