愛の欠片を噛み砕け

 食堂で立香を見掛けた。焼菓子を美味そうに食っていた。

 激しい戦闘を終えて間もないというのに、甘いものひとつでああもゴキゲンになるとは、やはり立香も若い娘だ。立香自身、甘いものが好きだと言っていた通り、砂糖菓子をやれば目を爛々と輝かせる。あんまりにも美味そうに食うものだから、最近ついつい与えがちだ。糖分は脳のエネルギー源になるが、摂り過ぎはよくない。

――甘やかし過ぎか。

 自嘲して、隣を歩く立香に視線を移す。先程から、コイツは口をもごもごとさせている。

「なにを食っている?」

「エウロペさんからもらった飴です」

「美味いか?」

立香は「うん」頷いて、満足そうに微笑んだ。

 他愛のない話をしながら廊下を進み、立香の部屋に入る。入ってすぐに、立香は携えていたタブレット端末の画面をタップし、ベッドに腰掛け、オレを見上げた。

「さっきの戦闘データを見てくれますか? 新しい礼装の効果を、前のものと比較してもらったんです」

「どれ、見せてみろ」立香の隣に腰を下ろすと、微かにフルーティーな甘い香りが鼻先を掠めた。飴のにおいだ。

「……立香」

 礼装の効果について説明をしていたマスターは、言葉を切ってオレを見た。上と下で眸がぶつかる。飴のにおいが漂っている。

 立香の顎を親指の腹で持ち上げ、距離を詰めて唇を塞いだ。舌を差し込んでも抵抗はない。口腔は甘ったるかった。頬の内側にあった飴を舌で絡め取り、自分の方へ転がす。離れると、立香の顔はほんのりと赤くなっていた。

 舌の上にのった飴が歯に当たって、からんと、くぐもった固い音が鳴った。噛み砕いてさっさと飲み込むと、立香は「わたしの飴……」捨てられた犬コロのような顔をした。

「別のをくれてやる」

 懐から用意していた砂糖菓子を引っ張り出すと、立香は喜んだ。

 ああ、オレはどうしてもコイツを甘やかしてしまうらしい。