玉座の間に引き立てられたのは、前王サトゥンの側近たちだった。
前王が討たれ、革命が成し遂げられて玉座に兄が座す今、サトゥン派である彼らは罪人だ。垢塗れのローブや蓬髪と伸び放題の髭でみすぼらしいが、皆目には力強い意思があり、態度は毅然としていた。
「私に忠誠を誓うのであれば投獄はしない」
王が王笏で床を叩いた。甲高い金属音が玉座の間に響いた。三人の文官たちは一瞬目配せしてお互いの顔を見やった。
「デスハー王に忠誠を誓います」
ひとりが嗄れた声で言った。背中の丸まった老いた学匠だった。彼は政に明るい。冥府の再建に尽力してくれるのは頼もしい。
「デスハー王に忠誠を誓います。我が才を存分にお使いください」
中央に立つ文官が跪き、こうべを垂れた。
沈黙が玉座の間に降り注ぐ。
「内股膏薬も甚だしい連中だ。貴様らには忠誠心というものがないのか」
沈黙を破ったのは最後のひとりだった。
「我が主君はサトゥン王である。親殺しという非道な行いをしたあなたは王の器ではない。人面獣心とはあなたのことをいうのだ。その王冠も飾りに過ぎまい。あなたになにができるというのか、哀れな デスハー王子」
王に対する侮蔑の言葉に、まるで地獄の門から噴き出る炎のように、腹の底から怒りが沸き上がった。
「サトゥン王は偉大である。あの方の研究とその成果は素晴らしいものだった。不死は存在する」
気が付けば剣の鯉口を切っていた。剣を斜め下に構えて駆けだす。
「よせ、オウケ――」己を止める王の声がした気がした。
そこからすべてが止まって見えた。父の愚かな行いを称えた文官ははっとしたようにこちらを見た。見開かれた目と視線が重なった。
「貴様風情が不死を語るなっ!」
剥き出しの首目掛けて剣を勢いよく振り上げて、平行に刃を叩き込む。肉と骨を断つ確かな感触が伝わってくる。首が勢いよく舞った。残されたふたりが「ひいいいっ」と情けない声を上げて慄き、腰を抜かした。
頭を失くした胴体がよろめき、うしろ向きに倒れた。おびただしい量の血が断面から溢れ出し、敷かれた絨毯に溜まりを作る。
濃い血の臭気が鼻先を掠めた。
「オレの前で王への悪罵は許さない」
剣をおさめる。血腥い沈黙が玉座の間を満たした。
転がる首が勢いを失くし、隊列した騎士団員たちの前で止まった。
文官の死体が運び出されたあと、王は私をそばに呼び寄せた。
「いいか、オウケン。気が短いのはよくないことだ。怒りは判断を鈍らせる。冷静になれ。先のお前の行動は、あまりにも軽率だ」
「申し訳ありません。王への侮蔑がどうしても許せず……」
「お前は私のことになると周りが見えなくなることがあるな。私に対する忠誠心故の行動なのはよくわかるが、力で制することがすべてではない。あれではなんの解決にもならない。慎重に話し合うことこそが肝心だ」
「……善処します」
「わかればいい。お前の成長を楽しみにしている」
王の教えを胸に刻み、軽はずみな行いを少しだけ反省して――正直あの文官は死んで当然だと思っているので後悔はない――背筋を伸ばし、マントを翻す。
視線の先で、歪な形をした血の染みが絨毯に広がっていた。あれを落とすのは苦労するだろう。召使いたちには申し訳ないことをした……そんなことを冷えた頭で考えながら、深く息を吸って、怒りの残滓を吐き出すように、ゆっくりと肺腑の中にこもった空気を吐いた。