「ミツマタ」
低く滑らかな声のあと、熱を帯びた掌が額から尾にかけてゆっくりと滑っていった。ベビン様に撫でられるのは嬉しい。
べビン様の指の腹が私の千切れた尾の先端を摘む。尾の先で指を引き寄せると、べビン様は喉の奥で笑った。目尻には笑い皺が浮かんでいる。私の前でだけ見せてくれる穏やかな表情だ。
私はべビン様が笑ってくれるのが嬉しい。
私はべビン様が大好きだから。
「こうすると、まるで指切りをしているようだな」
絡み合った指と尾を見詰めて、べビン様が言った。
「指切り、ですか」
私には指はないが、指切りという行為を知っている。人間が小指同士を交える一種の誓いだ。誓いは立てたら破ってはいけない。
「ではべビン様、このまま指切りをしましょう」
「なにを約束するんだ?」
「そうですね……」
舌を出し入れさせて一考する。
べビン様と交わしたい約束。なんだろう……いつまでもおそばに……いや、これではまるで伴侶の誓いになってしまう。
ああ、そうだ。
「なにがあっても必ず私の元に戻ると約束してください」
切望を口にして、べビン様の指を緩く締める。
「私にはあなたが必要なのです。死が二人を分かつまで、私はあなたと共にいたい。あなたがいない世界など考えられないのですから」
べビン様は尾を握り返してくれた。
「ミツマタ、お前は俺のことが好きだな」
「はい、お慕いしております」
「ハハ……即答か」
べビン様は口の端を片方持ち上げた。
「約束しよう。俺は必ずお前の元に戻る。お前のそばにいるよ」
甘い沈黙が漂う。交わった指と尾が、ひとつに溶け合った。