気が付けば目で追ってしまう。
それは対象が王だからであって、臣下として当たり前のことだ。
私は、兄者のことが、好きだ。
それは対象が兄だからであって、兄弟として当たり前のことだ。
目で追うのも、好きだという気持ちも、きっと揺るぎない忠誠心であり、慎ましやかな兄弟愛である――そう自分に言い聞かせてきたが、胸には、消えることのない焔が宿っている。
「兄者」
目を閉じて情熱のままに兄を呼べば、瞼の裏には己に微笑みかけてくれる兄の姿がありありと浮かび、胸の内側で焔が燃え盛った。
――私はどうしようもないくらい、兄者に焦がれている。
溜息を吐いて胸に手を添え、唇を引き結ぶ。
兄に対する気持ちは、忠誠心や兄弟愛以上のものであると認めてしまうと、不安が焔を吹き消そうとした。
実の兄に思慕の情を抱いてしまったことへの動揺と、拒絶されてしまったらどうしようという恐れがせめぎ合い、煩悶した。
気持ちを伝えるべきか否か、夜になるとひとり物思いに耽った。
暦を見ては、気持ちを抱えたまま時間を浪費するだけの毎日に焦慮した。
月が満ち、欠け、また満ちた或る晩、王の寝所へ向かった。
オウケンが生まれた時から、ずっと寄り添って生きてきた。
苦楽を共にし、信念と矜持を胸に、魂さえも共有して生きてきた。オウケンに対する愛情は深い。それは「兄弟愛」という型にはめるにはあまりにも大きすぎる愛情かもしれないが、己は誰よりも弟のことを愛している。
だから、或る晩、オウケンに愛を告げられても、正直なところ驚かなかった。
「私は、兄者のことを愛しています。弟としてではなく、王の剣としてでもなく、ひとりの男としてあなたを愛してしまいました」
己に向けられた熱烈な視線には、無垢な愛情が絡んでいた。気持ちを吐露し終わると、オウケンは泣き出した。
「兄弟愛以上の気持ちを抱いてしまった浅ましい私をどうか赦してください」
浅ましいとは思わなかった。
頭を撫で、背中を摩って、抱き締めてやった。
優しく、実直で、清廉な弟が唯一望んだものは、己と蜜月になることだった。
それならば、愛を与えてやらなくてはならない。兄弟間で情を交えることを禁じる法はない。地上では近親婚で代々血筋を繋いでいるという名家もある。
「お前が私を想ってくれるのなら、私もその気持ちに応えよう」
「ああ、兄者……お慕いしています」
指の付け根に口付けが落ちた。
密約に似た愛を交わしてから、オウケンとは夜な夜な逢瀬を重ねた。
子供のころのようにベッドに寝転んで談笑したり、添い寝をしたり、時々、甘い沈黙がシーツの上で弾けてキスをすることもある。
愛を育むのは、決まって夜のとばりが降りたあとだけだ。
「今日の評定会、ずっと話を聞いていましたが、私には政は難しいです」オウケンはヘッドボードに背中を預け、太い眉を寄せ、困ったように笑った。「兄者とデスパー兄の話がよく理解できませんでした」
「政は私に任せればいい」
きりがよかったので、読みかけの書物に栞を挟んで、ナイトテーブルに戻し、隣へ意識をやる。
オウケンは「私にも才があったら、任せてくれましたか?」首を傾げた。
「いいや。冥府騎士団の団長にそこまで背負わせはしない」
「兄者に負担を掛けてばかりです。私も兄者のお役に立ちたいのに」
「お前は十分やってくれている。頼りにしているぞ」
頬に掛かる髪が鬱陶しくて、一房指先で掬い取り、耳に掛けた。
「あ……」
一拍置いて、オウケンは弾かれたように毛布の上から股座を押さえた。
「オウケン? どうした?」
「兄者……」
オウケンの顔が紅潮している。耳まで真っ赤だ。
「兄者の今の仕草が艶っぽくて、その……」
「……まさか……勃ったのか?」
オウケンは俯いた。緘黙は愚直な肯定だった。
「すみません……」
「生理的なことだ、気にすることはない。だが、そのままというのもな……」
顎に手をやり、果てどうしたものかと思案する。ひとりで慰めてこいと言ったら、弟はどうするだろう。
「……あの、兄者」
オウケンらしくない小さな声を辿って視線をずらす。
燭台の燈に照らされた弟の眸が潤んでいた。
ヘッドボードから身体を起こしたオウケンが足に跨ってきた。距離が詰まって、頬に手が添えられ、唇を塞がれた。触れるだけの、けれど情熱的なキスだった。
ほうっと熱っぽく息を吐いた弟の股座で、若い性が寝衣の厚手の布地を押し上げて屹立している。
オウケンは己に欲情している。重たい劣情のとばりが、まとわりつくように降りていく。
「だ――抱けないだろう、オレのことなど」
「いいえ」
手を握られた。心地いい体温が伝わってくる。
「私は本気です」
それから、微かな震えも。
「私は、無垢なままではいられません」
オウケンの気迫に圧された。唸って、「わかった」吐息混じりに言う。
「オレを抱け」
寝衣の帯の結び目をほどく。肩口から寝衣がずれ落ちて、剥き出しになった身体がひんやりとした寝所の空気に晒された。
オウケンがごくりと喉を鳴らすのがわかった。
「オレだけ脱ぐのか?」
「あ、いえ……私も脱ぎます」
慌てたようにシーツに座り込むと、オウケンも寝衣を脱いだ。鍛え上げられた逞しい肉体が薄闇に馴染む。
下着を脱ごうとした時、白い手が伸びてきて、肩を押され、シーツに押し倒された。被さってきたオウケンの顔は翳っているが、興奮を抑えているのが微かな息遣いから伝わってくる。
弟の視線と指が身体を滑って、下着の縁に指先が引っ掛かった。腰を持ち上げる。脱がされた下着は、ベッドの外に放り出された。
「兄者……」
オウケンの唇が首筋に埋もれ、肌に吸い付いた。小さなリップ音が耳朶を打つ。
愛撫の合間に、オウケンは自分の下着を脱ぎ捨てた。
生まれた姿のまま抱き合った。盛り上がった胸部同士が重なる。
唇を食まれ、突き出した舌先を絡め、鋭い歯で傷つけないよう慎重にオウケンを口腔の深い場所まで迎え入れて吐息を交えた。
「私は色を知りません。なので、どうしていいのか、わからなくて……」
離れたあと、気恥ずかしそうに頬を紅潮させ、オウケンは言い淀んだ。
「そうか。なら、オレがやってみよう」
「えっ」
「オレも経験があるわけではない。期待はするな」
片手を突いて起き上がり、入れ替わるようにしてオウケンを横たわらせ、勃起している性器を背にして弟の腹に膝立ちで乗り上げる。
「なにを……?」
「……いいから」
口腔に指を二本突っ込み、唾液に塗れた指を後ろ手に回して尻の窪みに触れる。弟と同じく女を抱いたこともなければ男と交わったこともないが、手探りでやってみよう。受け容れるとしたら、男には孔がひとつしかないのだから、挿れるならここしかないだろう。
排泄器官は指を拒んだが、じっくりと時間を掛けて丹念に慣らしていき、オウケンを受け容れる準備を続けた。
ぬちぬちと粘っこい音を垂れ流し、強張った肛門は少しずつ柔らかさを得た。折り曲げた指をぐっと奥に突き入れると、媚肉はひくりと攣縮した。粘膜は確実にほぐれている。
「これでいいだろう」
大きく息を吐き、腰を持ち上げ、臀部に当たっていた肉杭の先に、中央の窄まりを宛がい、できるかぎり腹に力を入れないようにして腰を落としていく。肉杭の先端が孔の縁を抉り、自重で少しずつ下半身が沈んでいき、圧迫感と疼痛が波紋のように腹の内側に広がった。
「あっ……あぁ……兄者……!」
少しずつ呑み込まれていく己のものを凝眸して、オウケンは身震いして口元を掌で覆った。
「んっ……ぐ」
ついにオウケンの下生えと尻が密着した。
「挿ったぞ」
腹の中を、別の生き物が身を捩らせてのたうっているようだった。腰をくねらせて前後に動くと、オウケンは切なげな、か細い悲鳴を上げた。
おそるおそる腰を持ち上げる。肉の詰まった硬い芯が敏感な肉壁を擦り上げ、味わったことのない刺激が腹の底から突き上げた。
ふっふと息を弾ませて、前のめりになってシーツに手を突いて身体を上下させ、抜き差しを繰り返す。潤滑油がいるな、と思った。
オウケンは「あっ」だの「んっ」だの、意味を成さない上擦った声を漏らし、はじめて経験する快楽に打ちのめされていた。
重量感のあるピストンに、分厚いマットレスが揺れる。湿った尻とオウケンの股座がぶつかるたびに、重々しく粘着質な音が鳴った。
「兄者ぁ……気持ちいい、です……」
「そうか」
曖昧に返事をして、規則的に、緩慢に腰を揺する。動きに合わせて肩口で髪が躍るように跳ねた。
不安定に傾いている身体を支えようとしてか、オウケンの両手が幅広の腰に伸びた。その手を取って、掌を合わせ、指を互い違いに組み、オウケンの腕に体重を掛けて尻を持ち上げて打ち付けると、弟は一際大きく喘いだ。
少し、いじめたくなってきた。
ピストンを止め、性器が抜け落ちそうなところまで腰を上げて一気に落とすと、オウケンは太い首を仰け反らせて呻いた。長いストロークで何度も抽挿を繰り返して、また浅い動きに切り替える。
オウケンが腹の奥にあたると、未知なる快感が鳩尾の辺りまで噴き上がった。薄く開いた唇の隙間から、意図せず熱を孕んだ吐息が漏れる。あるはずの余裕が削り取られていく。
腰を一層深く落としてオウケンの昂りを根元まで呑み込んで尻を押し付けると、オウケンは「それ、ダメですっ……!」情けない声を上げた。
「ぐっ……んっ、ぁ、なにか、きますっ……」
「このまま出せ」
四方から締め付けられて、オウケンの張り詰めた昂りは限界だったらしい。
「……あ、う……」
オウケンは泣くのを堪えるような表情をしていた。
腹の奥で性器がどくどくと脈打つ感覚がした。放たれた灼熱が、じんわりと腹の内側を熱くさせる。
腰を上げると、尻の間から萎えた一物が抜け落ちた。
乱れた前髪をかきあげ、息を吐き、オウケンの隣に身体を横たえる。オウケンは――放心していた。
「満足か?」
オウケンは肘を突いて身体を起こすと、首に抱き付いてきた。
「気持ちよかったです……」
弟の火照った身体を抱き留める。
腹に、硬いものがあたっている。
不思議に思って視線をふたりの腹の間に向けると、射精を終えたばかりの性器が角度を付けていた。若い弟にとってはじめての――己にとってもそうだが――情事なのだ。一度で済むわけもない。
「まだ、したいです」
弟の囁きに、尻が疼く。
「どこに挿れるかわかっただろう? 今度はできるな?」
「はい」
オウケンが身体をもたげた。折り曲げて引き寄せた足の間に、生き生きとした肉体が割り入る。
「あ……」
「どうした?」
「中のものが、溢れて出てきています」
「構うな。挿れろ」
「わかりました」
オウケンは自身の性器握ると、ぐっと腰を突き出した。先端がぬかるんだ孔に宛てがわれ、ぬめる勢いのまま、突き出た出っ張りが孔の縁を押し広げていく。
「痛くはないですか?」
弟の問い掛けに「平気だ」と言いつつも、奥歯を噛み締めて目を細める。
「う、んっ……」
圧迫感が腹を穿った。呼吸に意識を集中させるが、うまくできない。
「ぐ……」
浅い呼気ばかりが続く。息を吸おうとすると、喉の奥で詰まった。
膝裏を掴み取り、オウケンは腰を前後させはじめた。
「兄者の中、あたたかくて、ぬるぬるしています」
オウケンは夢中で腰を振っている。腹の中を突かれると、押し出されるようにして反射的に声が出た。反った男根に上壁を削られるように擦られ、鈍い痺れが脳天に肉薄する。
「気持ちいい、ですか?」
「オレのことは構わず、好きにするといい」
オウケンは小さく首を振った。
「イヤです、私は兄者にも気持ち良くなってもらいたいんです」
弟はどこまでも健気だった。
「こい」
両腕を広げて、のしかかってきたオウケンを抱き締める。甘えるように胸元に頬を押し付けて、オウケンは、兄者兄者と何度も口にした。
みだらな摩擦の回数が増え、血の通った肉と肉がぶつかり合って、生々しい音が弾き出される。不随意な快楽は、確実に肉体をがんじがらめにしている。息を継ぐだけで精いっぱいだった。
「……っ、う、ぐっ」
ごりごりと体内を抉られ、太腿が痙攣する。
「ここ、よかったですか?」
オウケンは大きく腰を引き、狙いを定めたように一突きした。
「…………! うっ……」
重く強い刺激に瞠目する。閃光を見たように目の前が真っ白になって、視界がじわじわと水っぽく歪む。たまらず手の甲で顔を覆った。瞼を閉じると、赤色や緑色の斑な影が暗い視界を舞った。
「隠さないでください」
「み、見るなっ、オレの顔など……」
「兄者の顔が見たいんです」
手はすぐに剥がされ、シーツに縫い付けられた。上と下で見詰め合う。見慣れた弟の精悍な、けれど懐っこい愛嬌のある顔は、情欲に煽られて、すっかり苦み走った男の色香に染まっていた。
「っ、う、ぅ……」
オウケンの腰が円を描くように動きはじめ、狭い肉壁の間を行き来する回数が増えて、苦しいだけではなくなった。腹の隙間をみっちりと埋める圧迫感が抜け出る感覚は排泄感に似ていた。原始的な感覚であるはずなのに、気持ちがよかった。肉の輪はオウケンの形を覚えようとでもするように収斂を繰り返す。
腹の上で、動きに合わせて揺れていた自身のものが芯を持って膨らんだ。
オウケンは手に余る量感のそれを片手で握ると、上下に扱きはじめた。肉厚な手は、根本まで滑ると緩やかに先端まで戻った。
手は何度も往復していたが、不意に肉色の幹の半ばで止まった。雁首の段差に、オウケンの親指の腹にある硬い剣胼胝があたる。敏感な括れ部分をなぞるように詰られた。
「……っ……!」
痺れに似た得体の知れない快感が下腹部を熱くさせる。尖端から滲み出た体液をまぶすように、オウケンの長い指が張った傘に軟体動物の如く絡みつく。
内側と外側を同時に攻め立てられて、息ができなくなった。
「……ぐっ……ん……、~~~~~っ!」
手に負えない潜熱に神経を削り取られ、オウケンの手の中で達する。射精感に打ち震えながらも必死に肺に酸素を取り込み、喘いだ。
いつの間にか、動いていた弟の腰が止まっていた。鼻を啜り、生理的な涙で滲んだ視界でオウケンを見る。赤い舌が、指の股についた精液を舐め取っていた。
「舐めるな、そんなもの」
息も絶え絶えに言ったが、オウケンはなにも答えず、白濁を丁寧に舐め取り、舌の先で唇をなぞった。どこか耽美な仕草に息を呑む。
「兄者」止まっていた腰が動いて、オウケンが内側へ沈んだ。「あなたが感じるところは覚えました。気持ちよくなってください」
足首を掴まれた。背骨が丸まり、尻が持ち上がって、いやでも結合部が丸見えになる。
「待て、オウケ――」
言い終わる前に、上から圧し潰すピストンがはじまった。
「……ぁっ」
慄いて、手首を反らして枕の端を掴み取る。
腹の奥にオウケンが蒔いた子種が肉色の亀裂から零れていたが、突き立てられた肉杭によって押し戻され、体内でぐちゃぐちゃに掻き混ぜられていく。
「……っ! ん、ぁ、あ」
尻たぶに睾丸が叩き付けられる度に、どちゅんどちゅんと生々しい音が弾け、ねっとりと白い糸が引いた。
猶猶深く腰を沈めたオウケンの若い滾りが、臓腑の隙間を抉じ開け、狭まった肉管の奥を穿った。肉襞に逆らった一突きだった。
「……あっ…… 」
真っ白な雷が意識を裂き、強烈な法悦が全身を貫いた。得も言われぬ極致感に総身が強張り、弛緩し、また強張った。オウケンは腹の奥に留まったまま、短いストロークを重ねて内側を捏ねくりまわす。
「それはっ、よせ……ぅ、んっ」
臓腑の窄まりを挽き潰されるような感覚に、また目に涙が湧いた。
天井を向いた爪先が丸まる。
「兄者、兄者っ」
オウケンは容赦なく責め立ててきた。
ぶつかり合う肉体の境目がわからなくなる。
「~~~~~~っ、っ……!」
喉が引き攣れて声が出なかった。
抜け落ちそうなところまで引いた高く張った雁首が、浅い部分を何度も擦る。そして、一息に奥まで肉壁を割った。
「っはぁ……ぐ……っ」
オウケンの形に慣らされた体内は、悦ぶようにオウケンを締め付けて離さない。
「感じてくれているんですね……嬉しいです」
「ぐ、う……!」
快楽の波が押し寄せては引き、また押し寄せる。
ついに怒涛に呑み込まれた。受け容れすぎた快楽は苦しみに変わった。
苦しい。
気持ちがいい。
身体が熱い。
助けてほしい。
のしかかるオウケンの背中に、助けを乞うようにしがみついた。肩甲骨の窪みに指を引っかける。
弟の肌は汗ばんでいた。
どろどろに溶けて煮詰まった法悦は、腹の底から心臓の辺りまで滴り、溜まりを作っている。掴みどころのない熱く甘い魅惑を掻き集めようと、拓かれた身体はオウケンを求めた。
臓腑の奥を抉られる苦しみが、強烈な陶酔感に塗り潰されていく。
「オウ、ケン」
体内にこもった熱を吐き出して、弟を抱き寄せる。
「兄者、愛しています。誰よりも、あなたのことを愛していますっ」
情熱を打ち付けるような、ラストスパートをかけた腰使いに変じた。
「っ、は、オウ、ケ……ぁ、あ、あぁ……っ!」
濁った声はもう止まらなくなっていた。
オウケンの動きに、マットレスが大きく上下する。天井を向いたままの足を攣りそうだった。
官能は爛熟し、熟れて盪くした果実のような、噎せ返るほどの甘ったるい芳香を放っている。
初々しい濃厚な愛の営みは続き、ついに沸点に達したオウケンが奥深くで爆発した。
性器が脈打ち、間歇的に熱い子種が腹の中に注がれていく。オウケンは蒔いた種を肉壁に塗り込むように小刻みに腰を叩き付けた。そんなことをしても、孕むわけがないというのに。
持ち上がっていた下肢がゆっくりとシーツに戻される。
栓が抜けて、吐き出されたものが逆流して、体外へ溢流する感覚に身震いする。孔の縁で泡立った濃い精液はシーツを汚した。
隣に身体を横たえたオウケンの胸が膨らみ、へこむ。呼吸が落ち着くまで、互いになにも言わなかった。
先におもむろにオウケンが起き上がり、遠慮がちに身体を寄せてきた。汗でしっとりと濡れた肌が密着する。男ふたり分の体重を受けたマットレスが微かに振動した。
劣情のとばりが上がり、今度は事後の倦怠感がどこからともなく現れた。それはシーツの上で飛び跳ねると、優雅にくるりと回って丁寧に一揖し、色に染まった夜の手を取った。