その日ミツマタの巣を訪れると、すぐには出てこなかった。しゃがみこんで頭を傾けて巣穴を覗き込むが、奥は暗くてよく見えない。鍛練の休憩中に戯れようと思っていたが、いないのであれば仕方がない。
立ち上がって踵を返した時、すぐそばで
「べビン様」
ミツマタの声がした。首を巡らせると、巣穴の横の茂みから、見慣れた双頭がにゅっと顔を覗かせていた。
「申し訳ありません、食事をしていました」
「食事中だったのか、すまん」
歩み寄ろうとすると、ミツマタは慌てたように「お、お待ちください」言った。
言われた通りに立ち止まる。
「ミツマタ?」
「今は、あまり動けないのです。その、少し食べすぎてしまって」「そんなことか。気にするな、抱き上げてやるよ」
「あっ……」
茂みを覗き込むと、そこにはまるまるとしたミツマタがいた。太く長い蛇身は獲物を丸呑みしたことによって幅広に膨らんでおり、蛇というよりも、別の生き物のようだった。
「なにを食ったんだ?」
「ウサギの親子を」ミツマタはそう言いながら重たそうな蛇身を蠕動させてとぐろを巻こうとしたが、腹が引っかかって中途半端にU字型に丸まっただけだった。
「わ、私を見ないでください……こんな姿をべビン様に見られるなんて、恥ずかしすぎます」
まるで乙女のようにミツマタは恥じらった。その様子がなんとも愛らしい。今の姿を恥じている彼にはそんなこと言えないが。
「わかった。明日また来る」
「はい、明日なら、ご一緒できます」
ミツマタは頭を擡げた。そして重たくなった身体を引きずって巣穴に移動し、開き直ったようにこちらを向いた。
「……通れるのか?」
「大丈夫です、以前はアヒルを飲み込んで戻ったことがありますので」
「そうか。じゃあ、また明日な」
ひらりと手を振ってゆっくりと背中を向ける。
ミツマタの柔らかな視線を感じながらその場をあとにし、鍛錬に戻ることにした。