第三ラウンドでリングが縮小をはじめた時、最後の一部隊をついに見付けた。
彼らは五十ヤードも離れていない場所にいた。こちらにはまだ気付いていないようだった。
無防備な頭に一発見舞ってやろうと、岩陰から頭を傾けてライフルのスコープを覗き込み、引き金に指を掛ける。乾いた銃声が轟いて、遠くで音もなく敵が倒れた。
「一気に詰めるぞ! ブラジー、ポータルをたのむ。俺とシェでお前を援護する」
「任せて」ウィングマンをホルスターに戻すと、レイスが飛び出した。「ポータルを引くわ」
彼女が撃たれないよう射撃で敵部隊を牽制する。
開いた空間の裂け目に飛び込んですぐに撃ち合いがはじまった。次のリング縮小を告げるアナウンスが流れた時には仲間は倒れてしまっていたが、それは相手も同じだった。残すはひとりだけだ。キルリーダーのあの男。
アドレナリンが全身を巡って、今はもう撃ち抜かれた腹や肩に痛みはなかった。
再装填する。次で決めるしかない。
物陰から飛び出そうとした時、からんと硬い音がして、足元になにかが転がった。それは見覚えのある特殊なグレネードだった。
「しま――」
身を翻そうとした一刹那、圧が抜ける音がして、辺りにガスがまき散らされた。瞬く間に空気が汚され、呼吸ができなくなり、激しく咳込んだ。
「がッ……はぁ……クソッ!」
研ぎ澄まされた神経が毒で削られていく。いくら酸素を取り込んでも、肺が満たされることはなかった。視界が霞んで、心臓の動きが鈍くなっていく。本能が警鐘を鳴らすが、どうにもできない。細胞が壊されていく。
「素晴らしい結果だ」
最期に見たのは、立ち込めるガスの向こうに立つ死神の姿だった。
その夜、彼はいたく機嫌が良かった。
昼間行われたApexゲームでキルリーダーになったからか、チャンピオンに輝いたからか、はたまた、毒ガスでこの俺を仕留めたからか。それともそのすべてか――なんであれ理由はなんでもいい。昂って、自分から跨って腰を振ってくれているのだから、理由なんてどうだっていい。
「最後の部隊の生き残りであるお前に手を掛けた時、色濃い死の気配を感じて私の胸は踊ったよ」
動きに合わせてベッドの足がぎしりぎしりと耳障りな音を立てて、互いの乱れる息遣いに重なった。
「ああ……ウォルター、お前の苦しげな喘ぎが耳から離れない」
「お前のご自慢の有毒ガス、えげつねぇな。苦しかったぜ」
ガスマスク越しにくぐもった笑い声が返ってきた。
肉厚な尻が打ち付けられて、粘着質な破裂音が弾む。この男が興奮を飼い慣らせず、髪を振り乱して煮えたぎる情欲に身を任せるのだから、よほどだろう。
「また聞かせてくれ、最後のッ、呼吸を……!」
言い終えると、喉を反らして、ケツでナニを根元まで咥えて、切なげな吐息を漏らした。一物の先から溢れ出した勢いのない精液が伝い落ちて、俺の腹に滴り落ちた。どうやらイったらしい。俺はまだイきそうにない。
「そんなに俺の死に様に興奮したか。可愛いなぁお前は」
横から尻を引っ叩き、下腹部にのしかかる重さに逆らうようにして腰を突き上げる。
「私の許可なく、動く、な」
「なら気張ってもっと腰振んな。そしたら俺はまた苦しそうに喘ぐかもしれねぇぞ」
こちらを見下ろす物言いたげな眸は生理的な涙で潤んでいた。
手に負えない淫猥な滾りの手綱をしっかりと握る。形勢逆転して容赦なく攻め立ててもいいが、こんな大胆な彼ははじめてだ。今夜はじっくり痴態を拝んでいたい。
「美しいな」
ぽつりと呟くと、彼は怪訝そうに眉を寄せた。本人は気付いていないが、彼の白い肌は、情事の際に首元から胸元に掛けてほんのりと上気する。その様がたまらなく淫靡だ。
「少し、待て」
彼はふっふと息を乱し、丸めていた背筋を伸ばして腰を押し付けるように前後させた。肉と肉が擦れ、結合部からぬちぬちと粘っこい音が跳ねた。
硬く膨れたナニを貪欲に締め上げる腹の中は柔らかく、あたたかく、湿っている。極上の味わいだ。
「う、ぐ……」
「気持ちよくてもう動けねぇか? 代わってやろうか」
「黙れ……」
弱々しい声だった。声と同じく、股座で萎んだ男の象徴を生身の掌で包み込んでしごいてやる。
「……触る、な……!」
泣き所に触れると、腹にのった肉体が強張ったのを感じた。
「どこなら触っていいんだ?」
ほどよく脂肪ののった胸部が引き攣れるように揺れたのを見て、義手を伸ばして揉みしだき、尖った薄桃色の乳首を指の腹で詰った。ここも可愛がるようになってから、ずいぶん敏感になったものだ。
「ぐ、ぅ、フィッツロイ……!」
快楽に抗えなくなったのか、恥辱に耳を赤くさせて前のめりになり、シーツに突いた両腕を曲げて倒れ込んできた。体格差など構わないが、これには胸部が圧迫されて一瞬息が詰まった。
「……代われ」
囁きは息も絶え絶えだった。首筋にあたたかい吐息がかかって、たまらず頬が崩れる。
「いいぜぇ」
厚い背中をぽんぽんと叩いて、乱れた前髪が張り付いた額に軽く口付ける。被さっていた重さが去る。離れるのが名残惜しかったが、入れ替わるように起き上がり、横たわる彼のうしろに回った。片膝の裏に手を差し込んで持ち上げ、物欲しそうにひくつくケツに一気にぶちこんだ。
緩やかな抜き差しをはじめると、彼は太い嬌声を垂れ流して善がった。肩口に歯を立て、込み上げる肉欲をぶつけた。緩急を付けて腹の内側に猛る本能を叩き込むと、抑え込めない征服欲が鎌首を擡げた。
「バックでハメてぇ」
「……獣のようにか」
「嫌か?」
彼はなにも言わなかった。
沈黙を肯定と受け取った。
奥に留まっていたものをずるりと引き抜き、膝立ちになって、のろのろと四つん這いになった彼の尻を摩り、挿入する前に、硬く勃った竿で豊満な尻を軽く叩いた。
「……そそるな」
尻に手を置いて、ひくついている孔に先端を宛がい、腰を突き出す。雁首の出っ張りで引っ掛かったが、力任せに押し込んだ。
「……んッ」
「クセになりそうだ。吸い付いて俺のナニを離そうとしねぇ」
直腸の攣縮にほっと熱い息を吐く。浅い部分を擦り上げる動きからはじめる。次第に奥を突く動きに切り替えると、結合部が激しく鳴った。
衝突と同時に強烈な刺激が背骨を伝い上がって脳髄を貫く。孔の縁を擦り上げて肉管に沿って体内を押し開き、最奥の壁にぶち当たった。たまらなく気持ちがいい。
息遣いが徐々に荒くなった。熱を帯びた手を年相応にやや弛んだ下腹部に這わせて抱え込んだ。若い頃に鍛えていたらしい名残で壮年手前でも大柄な肉体には筋肉が詰まっているが、抗えぬ老いとデスクワークのせいか、腰から腹(それと魅力的な胸部!)にかけては柔らかい。
彼はがくがくと膝を震わせ、健気にも押し寄せる怒涛に打ち負けまいとしていた。
最後の砦を崩してやりたくて、腰を引き、狙いを定めて一突きして、ぐりぐりと押し付けた。臓腑の窄まりをひき潰す硬く滑らかな確かな感触が、腰回りを重くさせる。
「ッ、……ぅ……、んッ……!」
枕に突っ伏し、全身を強張らせて、彼は二度目の沸点に達した。火照る肌から手に負えない狂熱が伝わってくる。足の間では、押し出された精液が糸を引いてシーツに滴り落ちていた。
「一発くれてやるよ」
ナニをきゅうきゅうと締め上げられ、最奥で爆発した。スキンの薄膜の隔たりをなくして、中に直接射精できたらどんなにいいだろう。彼が厭がることはしたくないが、時折、そんな手の施しようのない欲に駆られる。
「…………! ~~~~ッ!」
彼は声も出せないようだった。上半身をシワだらけのシーツに沈め、抱え込んだ枕に額をうずめ、絶頂の余韻に浸っていた。先ほどまでの可愛らしい小生意気な態度はもう取れないようだった。
「俺たちはホントに相性がいいな」
淫猥な倦怠感が纏わりついてくる。
瑞々しい夜の息吹が、乱れたシーツに吹きかかった。