ダンス・ウィズ・ミー

 パスファインダーが骨董品店で買ってきたのは、二世紀ほど前の円盤式蓄音機だった。

 ボックス内のパーツが破損して動作しないため、元々インテリア用だったらしいが、レンチ娘に直してもらったそうだ。

「とっておきの曲を流すね」

 パスファインダーがレコードをターンテーブルにのせて針を下ろすと、弦楽器を基調とした優雅なクラシック曲がホーンを通して流れ出した。

「レヴナント、さあ、お手をどうぞ」

 振り返ったパスファインダーは、紳士が淑女にするように、恭しく手を差し伸べてきた。どうやら、とっ散らかった倉庫内で格式高い舞踏会を開くらしい。

「踊れるのか?」

「はじめてだけど、ちゃんとエスコートするよ」

 胸部ディスプレイを桃色に染め上げて、パスファインダーは期待でアイカメラを光らせた。

 期待に応えるために、彼の錆だらけの手を取った。一回り大きく厚い手に指先を包まれ、背中に空いた片手が回り、至近距離で向かい合った。

 曲に合わせて鋼鉄の身体を揺らし、パスファインダーに歩調を合わせた。コンクリートの床を、金属がかしゃりかしゃりと擦れる音が聴覚センサーを刺激する。

「わあ、レヴナント、上手だね。君って踊ったことあるの?」

 皮付き時代に、ターゲットを暗殺するために上流階級の社交場に潜入したことがあった。場に馴染むために踊ったが、これは三世紀以上前の忌々しい記憶だ。掘り起こさなくてもいいだろう。

「……ない。お前についていくのに必死だ」

「僕たちはじめてなのに息ピッタリだ! ねぇ、くるって回ってもいい?」

「いいぞ」

 腕を天井に伸ばしてパスファインダーの片腕を吊り上げてやると、彼は器用に身体を反転させてその場で回転した。

「僕これやってみたかったんだ!  ダンスって楽しいね」

 麗しく高雅な曲には不釣り合いなほど浮かれているが、それが彼らしかった。

「君と距離が近くてドキドキするよ」

 静かに動く蓄音器のそばで、二機(ふたり)だけの夜が過ぎていく。