スカルタウンの荒野に横たわる、巨獣の湾曲した背骨の一番高い場所に射出されたパスファインダーのジップラインのアンカーは、真っ直ぐに飛んで、狙い通りの位置に突き刺さった。
「さぁ。こっちに行こう!」
意気揚々と張ったラインに飛び移った彼のあとに続き、風を切って上昇する。
二機の影が、はるか下に広がる砂地を滑っていく。
冷えた空気に晒された骨の上に着地すると、夜のとばりに引っ掛かっている白銀の月が目の前にあった。振り返って来た方向を一瞥すると、スラムレイクの密集した建物や、マーケットの乏しい燈が遠くに見えた。ここに来るまでに五部隊片付けた。リングはまだ広い。この範囲内に八部隊残っている……。
「この場所は僕の特等席だ。ここに君を連れてくることができて嬉しいよ。見て、ほら、月がすぐそこにあるみたいでしょ」
月明かりに照らされた青白い腕を突き出して、パスファインダーは言った。空中を漂う埃や砂塵が、彼の指の間を落ちていく。
「いい場所だ。ここからなら、遠くにいる皮付きの頭を射抜ける」
「気に入ってくれたならよかった。リング縮小までまだ時間はあるから、ここで少しだけ月を見ない? うしろは骨で隠れてるし、前も横も崖だから、僕たちを狙える敵もいない。ジップラインで上ってきたとしても音でわかる」
パスファインダーの言う通りだった。ここで残りの物資を確認するのもいいかもしれない。
面に作られた鼻孔にあたる疑似感覚器から夜気を吸う。奥にある嗅覚センサーは、隣に立つパスファインダーから微かに漂うオイルの臭気を拾った。嗅ぎ慣れた彼のにおいだ。昨晩メンテンスをしたばかりだから、明日の朝まで消えないだろう。
「レヴナント、もう少しそばに行ってもいい?」
アイセンサーを隣に向ける。彼との距離はセンチネル一挺分だ。
「……来い」
パスファインダーの胸部ディスプレイがけばけばしいピンク色に光った。
金属が擦れる音が骨の上を滑って、距離が縮んで、指先を握られた。彼からの拙くも純粋な愛情表現は、不快ではない。
「月がきれいだね」
ひゅるりと風が吹き抜ける。
「いい夜だ」
朽ちた屍の上には、機体が二機、並んでいる。