儀式から戻ったネメシスは、生存者の死体を引きずっていた。彼はそのズタボロになった肉の塊を持ち上げて「S.T.A.R.S.」と言ったが、残念なことに、それは彼が執着している人間の亡骸ではなかった。
「それはS.T.A.R.S.の人間じゃない」
一言そう告げると、ネメシスは途端に興味をなくしたらしく、死体を投げ捨てた。湿った音がして、人間だったものは無造作に転がった。そこへドレッジが目を爛々と輝かせて覆い被さり、血と臓物の詰まった肉袋を飲み込んで一瞬で平らげた。
「S.T.A.R.S….」
ネメシスは譫言のように繰り返し、踵を返して、霧の中へ消えてしまった。ドレッジもまた、もっと餌をもらおうと、彼の後をついて行ってしまった。
人ならざる者である同胞の扱いにはも慣れたつもり――少なくとも彼らには知性がある。理性も多少なりともあるかもしれない――だが、やはり、相手をするのは難しい。
ネメシスは儀式から戻るたびに死体を見せてくるし、デモゴルゴンは最近すっかり自分に懐いて、そばで眠るようになった。ドレッジは甘えてくる。今もネメシスがくるまで隣で大人していた。
まるで犬猫でも飼ったような気分だ。
うしろから甲高い鳴き声がして、振り返ると、いつの間にかデモゴルゴンがいて、ぐるぐると喉を鳴らして、のろのろと座り込んでいた。
仮面の下で鼻息を吐き、デモゴルゴンに背中を見せたままトラバサミの手入れを再開する。
腹を空かせたデモゴルゴンが餌をくれとねだってくるまでに、四つほど油をさせそうだ。