若さというものは、人を大胆にさせる。
俺も若いころはそうだった。恐れを知らず、自信過剰で、世間知らずで、生き生きとした好奇心に満ち溢れていた。憧れであった親父に褒められれば嬉しかったし、叱られればやさぐれたりもした。
選択には責任が伴うことを学んでからは深く考えて慎重に行動するようになった。そうやって成功と失敗を繰り返しながら経験を積んで大人になり、酸いも甘いも噛み分けてきた。
だからきっと、いずれこのガキもそうなるんだろう。未熟で生意気で、素直なヒヨッコ、フランク・モリソン。
「なぁ、じいさん、俺にもその銃貸してくれよ」
「小僧、俺はジジイじゃねえって言ってんだろ」
補助器具のついた左足に負荷をかけないよう、テーブルに手を突いて、慎重に椅子に腰を下ろす。無意識に「よっこらせ」と出てしまった。
「やっぱジジイじゃん」
向かいで小僧が頬杖を突いたまま言った。
この酒場は俺のものなのに、こいつは事あるごとにここにやってきては「西部開拓時代ってかっけーな!」とわけのわからないことを言って呑気にはしゃいでいる。
ウイスキーのボトルを開け、グラスに半分ほど注ぎ、一口飲んだ。美味い。飲み慣れた味だ。
「お前、銃を撃ったことあるのか?」
「ない」
小僧はそう言って俺のウイスキーのボトルを手に取り、それから白い仮面の顎の部分を摘まんで持ち上げて、隙間から瓶口を突っ込み、頭を反らして中身をあおった。刺青の入った喉元で、喉仏が景気よく上下している。
ボトルがテーブルに戻った。中身はまだ半分以上あるが、時間が経てば開封前の状態に戻るだろう。
不思議なことに、俺を夜のとばりが降りた霧の森に呼んだ主――敬虔な女司祭サマは、霧の森の主は神だという――のおかげで、酒はいくら飲んでもなくならない。何本開けようが、まるで時間を巻き戻したように、時間が経てば中身が戻っている。葉巻も同じだ。
仕組みはわからないが、濃霧が立ち込める明けない夜から逃れられないことは確かだ。まあ、こんな楽しい世界から逃げたいとは思わないが。
「なあ、引金を引いた時、最初に感じるのはなんだと思う?」
身じろぎして椅子にふんぞり返って問う。酒臭い沈黙が、荒野に吹きすさぶ風に運ばれる回転草のように転がっていった。
「快感?」
「違う」
「達成感?」
「違う」
「罪悪感?」
「違う」
「……わかんねえ、降参」
俺が生きた時代よりも一世紀以上あとに産まれた若造は、そう言って控えめに両手を上げて肩を竦めた。
「答えは、反動だ」
喉の奥でくつくつと笑い、口の端を持ち上げる。
「そんなのありかよ」
「お前には銃はまだ早い」
帽子を深く被り直すと、足元に霧が立ち込めはじめた。儀式の時間だ。どうやら、今日は俺が選ばれたらしい。
「さて、ネズミ共を追いかけてくるか」
残っていたウイスキーを飲み干して鷹揚と立ち上がる。
「頑張れよじいさん」
「誰に言ってんだ、ヒヨッコ」
ふっと笑って、スピアガンを肩に担ぐ。箱庭の主の囁きが聞こえる。儀式がはじまる。