呼んで触れて抱き締める

「カーター、いるか?」
 聞き間違えることのない声がして、まどろみの淵に座していた意識が腰を上げた。
 目を開けると、書斎の入口に背の高い女が立っているのが見えた。声は確かにアディリスのものだったが、女の服は赤い。視界は寝起きでぼやけているし、一瞬寝ぼけているのかと思ったが、名前を呼んだのは確かにアディリスだ。

「すまない、眠っていたのか」
「ああ、少しうとうとしてしまったようです」
 開瞼器で固定されていない瞼をもう一度閉じ、眉間を揉む。目を開けると視界がクリアになって、いつものシルクのローブではなく、深紅の――そう、いつも以上に装飾が細かく、露出が多く、いつものように華奢な身体に沿う――ローブを纏ったアディリスが目の前に立っていた。
「疲れているのか?」
 アディリスの問い掛けは耳を抜けて床に転がり落ちた。口を半開きにしたまま、曖昧な返事をして立ち上がる。剥き出しになった彼女の細く括れた腰に視線が釘付けになってしまった。
「はじめて見る衣装……ですね」
 実になまめかしい。胸部はもちろん臍や下腹部はしっかりと覆われてはいるが、両足が太ももからほとんど丸見えになっている。胸部の豪奢な金色の留め具から垂れた長い布が捲れてしまえばあられもない姿になってしまうだろう。機能的なのはいいことだ。司祭としての威厳もある。しかし、瀕死の生存者が彼女を仰ぎ見た時はきっと別のものが見えてしまう。
「あまり着たことはなかったが、私の気に入りなんだ。気分転換に着替えた」
 微笑むアディリスの顔の半分を覆うヴェールも紅い。後頭部の冠から額にかけて連なった楕円型の飾りが揺れた。
「その色も似合いますね」
 彼女に歩み寄り、腰から抱き寄せる。掌が肌に触れた。背中側はもっと布面積が少ないのかもしれない。
「……綺麗だ。よく似合う」
 些か大胆だが、という言葉を呑み込んで口の端を緩く持ち上げる。ぎこちない笑みになったかもしれない。こういう時、開口器をつけていればどんなにいいだろう。
「カーター? どうした?」
「正直に言うと、他の男が今の君を見ることに、私は嫉妬してしまう」
「ふふ……そうか」
 白衣の上から胸を摩っていた掌が首のうしろに回る。
「カーター、私はあなたに見てほしかったのだ」
 耳元に熱い吐息が吹きかかって、魅惑的な囁きが甘く紡がれた。
 距離が詰まって、ふたりのあいだで彼女の豊かな乳房がつぶれた。