「おっさん……やべぇよ……俺……エンティティに下半身を女の身体にされちまった……」
仮面越しのフランクの声は、それはそれはか細く弱々しいものだった。
彼らしくない萎れた声量でも、静まり返ったマクミラン・エステートでは十分よく聞こえたが、言葉の意味を理解するのに、サバイバーが通電した脱出ゲートを開けられるくらいの時間を要した。
理解といってもあまりにも荒唐無稽な内容を半分も飲み込むことができなかったが。
「フランクお前……疲れてるのか?」
「いやマジだって! 触ってみろよ俺の股間!」
「なんで男の股座を触らなきゃいけないんだ」
「じゃあ見せてやるよ、驚くなよ!?」
「おいフラ――」
恥じらいもなく――といっても何度か夜すがら抱いているし、肉体関係の間柄なのだからなんとも思わないのかもしれないが、少しは羞恥心というものを持ってほしい――フランクはジーンズの前を寛げ、勢いよく下着ごと膝まで下ろした。
剥き出しになった下肢には見慣れた性器はなく、なだらかな肉の丘があった。
「ほら、まちがいなくプッシーだろ」
「冗談だと言ってくれ」
「よく見ろよ、ちゃんとここに〝割れ目〟がある!」
フランクはやや腰を突き出し、ガニ股になって指先でそこを広げて見せつけてきた。下品にもほどがある。
やめろと頭を引っ叩くと、彼は背筋を伸ばし、内股になって股間を掌で押さえた。
「どうしよう、俺ずっとこのままだったら」
「どうせ気紛れなエンティティのことだ、すぐに戻してくれるだろ」
「戻ると思う……?」
「戻るだろ。いいからさっさと穿け」
フランクはなにか言いたげに唸ったあと、溜息を吐いて、膝で蛇腹になったジーンズをあげようと身を屈めた。
しかし、ぴたりと動きを止め「なぁ、おっさん」頭を擡げた。
「この身体で一発ヤらねぇ?」
「はぁ!?」
「だってほら、女って男の何倍も感じるっていうじゃん? おっさんとヤるのいつも気持ちいいけど、もっと気持ちよくなってみてーじゃん?」
せっかくだしさぁと結んで、好奇心旺盛な若者は情事の誘いをする時と同じく、ねっとりとした声音で「エヴァン、抱いてくれよ」と囁いた。
折り曲げられた足の間に座すと、確かにそこには女の肉色の甘い花が息づいていて、まだなにもしていないのに、潤いを帯びていた。
「おっさん……ここ、舐めてくれよ」
興奮を抑えきれていないフランクの息遣いは官能的だった。血が急速に下半身に向かい、腰回りが重たくなった。
片目が出るように仮面を斜めにして鼻梁の上まで上げて、身を屈める。
ぷっくりと膨らんだ柔らかい肉の門を指先で押し広げ、突き出した舌先で亀裂を下から上へなぞり、粘膜に覆われた肉核を見つけて掻く。
「あ……♡」
小さな弾力をぐりぐりと舌で詰る。フランクは艶を帯びた声を漏らした。
「ん……♡ クリ……気持ちいい♡」
肉核を包む皮を舌で掻き分けて剥いてやる。肉核はすぐにいじらしく突出した。無防備になったそこへ尖らせた唇を押しつけて吸うと、フランクは太腿を痙攣させた。跳ねる太腿の裏を押さえ付けて、強弱を付けて敏感な塊をねぶる。女になっても感度は良好のようだ。
鼻を丘の頂に引っ掛けて、濡れた生々しい割れ目に舌を押し込み、頭を前後に動かす。
体液が肉と擦れる粘っこい音にも構わず浅い抜き差しをしながら、親指の腹で主張する肉核を押し上げるように愛撫すると、フランクは喉を反らして身体を強張らせた。
「おっさん、まって……あ♡ クリ弄らないで♡ あっ♡気持ちいい♡まだちんぽ挿ってないのに♡♡」
溢れた蜜をわざといやらしい音を立てて啜り、舌でしとどに濡れた秘裂を刺激してやる。フランクからは見えないが、ウェーダーの下では、本能がすっかり硬くなっている。
「ん、あ、はぁ……♡ なんか……腹の奥が疼く……なんだよこれ……」
「挿れてやる」
股座に埋めていた顔を上げ、仮面の淵からわずかに覗く目でフランクを見上げる。顔の半分を彼に見せるのははじめてだった。
おそるおそるというように、フランクは頷いた。
仮面を元の位置に戻し、立ち上がってウェーダーの肩の留め具を外す間も、フランクはこちらをまっすぐ見上げていた。粗末な小屋の床に座り込む彼の開かれた足の間にいちもつがないのは、やはり妙な気分だ。
ウェーダーが足元に落ちる。血管を浮かせてそそりたったペニスを見て、フランクの反った喉の真ん中で喉仏が大きく上下するのを見逃さなかった。
「そんなデカいの、挿るかな?」
「いつもケツに挿ってんだろ」
肘をついて横になったフランクの両足の間にしゃがみ、男を受け容れようととろけほぐれた女の部分に裏側を宛てがって擦り付けると、太い幹は甘美な蜜で肉色の粘膜の表面をぬるりと滑った。
「早く俺の処女膜ブチ抜いて……」
くぱっ♡
開いた亀裂の間で、愛らしい処女膜が見えた。そこへペニスの先を押し当て——ゆっくりと腰を突き出した。
「お……♡ ん、おおお……♡♡♡♡」
フランクは戦慄いた。
処女膜を貫き、みっちりと詰まった肉の間を押し広げ、ペニスは胎内へ割り入った。中はあたたかく、湿っていて、きつい。
やがて根元までずっぽりとおさまった。挿入しただけで果てたのか、フランクは息も絶え絶えだ。
「……動くぞ」
フランクの頭の横に手を突いて腰を揺すりはじめる。ピストンは潤滑よく、ゆるやかだ。それでもフランクには勁烈らしく、すぐにしがみついてきた。すがるように肩甲骨の間に食い込む指先が熱い。
「あっ♡ ん、はぁっ♡ すごい♡♡ 腹の中アンタでいっぱい……あっ♡ 奥っ、いい♡♡♡」
この身体になって一応は処女なのだし、体格差や自身のペニスの大きさを考えて彼に負担をかけてしまうのではと憂慮していたが、昂りを圧し殺すことはできそうになかった。つい胎内の奥を突く本能的な腰使いになってしまう。腹の内側で燃え上がった情欲の炎に理性は少しずつ炙られ、フランクをいつも以上にめちゃくちゃにしてしまいたいという気持ちに駆られた。
動きに合わせて根元のふたつの膨らみが濡れた肉に何度もぶつかって、ばちゅばちゅとみだらな破裂音が弾け、フランクの喘ぎ声に被さる。
腰にフランクの生足が絡み付く。肉と肉がぶつかり合い、摩擦は勢いを増した。
ペニスが抜け落ちてしまいそうなところまで腰を引き、雁首で上壁を擦るようにして一息に奥へ突き進むと、フランクはひときわ大きく喘いだ。
「あっ♡ 奥っ、あたってる♡♡ イく♡イっちまう♡♡♡♡」
根元まで深々とペニスを突き立て、小刻みに腰を打ち付ける。
ぬぽ♡ぬぽ♡ぬぽ♡
出入りを繰り返す男の形を覚えようと、胎内は収斂を繰り返した。
もう一度焦らすように腰を引いて、雌孔の淵で動きを止め、一拍置いて肉杭を打ち込んだ。
「あうあうっ♡♡♡♡」
絶頂を迎え、全身を痙攣させて、フランクは背中をのけ反らせた。
腰を挟み込んでいた足を引き剥がし、足首を掴み取って、繋がったまま踏ん張る。背骨が丸まって彼の尻が持ち上がる。真上を向いた結合部が丸見えだ。
辿り着いた肉壁の最奥の窄まりを先端でさらにこじ開けるように腰を落とす。
女の部分を責め立てられ、フランクは声にならない声を上げてよがっている。
「あっ、あ♡そこっ、子宮♡♡俺のプッシー壊れちゃう♡♡♡」
「このまま出したら孕みそうだな」
煮えたぎった本能のままに上から容赦なく腰を叩き付ける。胎内は精を搾り取ろうとうねり、きゅうきゅうと締まって離そうとしない。
「出してっ、中出ししてっ……エヴァン、おねが、い」
フランクの身体を抱え込み、腰だけをくねらせた。濡れた性器がぶつかる粘着質な音と、乱れたお互いの息遣いが重なる。身体の境界線はわからなくなっていた。
脊髄を行き来する快楽がついに沸点を迎えそうになり、出すぞと吐息混じりに言ってラストスパートをかけて腰を振る。
目の前で一刹那白い火花が散った。
「〜〜〜〜〜っ♡♡♡♡♡♡♡」
フランクが声を上げることなく、何度目かのオーガズムに呑まれた。組み敷いた身体は、腕の中で硬直と弛緩を繰り返した。
「……っ、………………」
歯を食い縛って顎を硬くさせ、最奥で弾けた。子宮に蒔いた種をしっかり植えるために、腰をわずかに動かして胎内に擦り込む。
「中出し……気持ちいい……♡ 中……熱っ……♡」
フランクは余韻にうっとりとして言った。
離れると、ぬらぬらといやらしく照った雌孔から逆流した精液が溢流するのが見えた。呼吸に合わせてひくつく割れ目で濃厚な白濁が泡立って太い糸を引いている。
「エヴァン、もう一発ヤろうぜ……女の身体気持ち良すぎる」
投げ出した足をだらしなく開いたまま、フランクは最初と同じく弱々しい声を上げてねだってきた。
「いいのか?」
「いいもなにも、アンタまだ勃ってんじゃん……」
「加減できねぇぞ」
「いいよ。いつもみたいに……いや、もっと俺のこと〝めちゃくちゃ〟にしてくれよ♡」
フランクの甘ったるい声に、じわじわと悪い熱が腹の底からせりあがってくる。色に染まった夜気を吸い込んで、魅惑的な身体に覆い被さった。