※ED5ネタバレ注意
※ED5のその後を捏造してます
教団幹部からの評価がずば抜けて高い、『ワーカーズ・ハイ』の常連客である彼の勧誘に成功した時は誇らしさすら感じていたが、それは日が経つにつれ、オルーニィの中で色褪せていった。
彼自身について質問してもはぐらかされるし、彼の周りを根掘り葉掘り調べてみても、これといった情報は得られなかった。教団に貢献している様子もない。
オルーニィには、何故彼がターゲットとして選ばれたのかわからなかったが、きっと彼のことも神が導いてくださるだろうと思い込むことにした。
博愛主義者のように常に笑みを浮かべている彼への興味が完全に消え失せようとした時、オルーニィの中で、世界が変わってしまった。
突然蹲った彼の背中の肉が、背骨に沿って裂けてずれ落ち、内側からまるで膨らむように別の存在が現れた。
「それ」は仮初の肉体の中で収縮させていた全身を軋ませながら、ゆっくりと立ち上がる。オルーニィは呆然と目で追うことしかできなかったが、「それ」は卵の殻を破り産声を上げる雛のように純粋で、蛹から羽化したての蝶のように美しかった。
目の前にいたオルーニィの知る男の姿はもうなかった。今目の前にいるのは、あらゆる世界においても極めて稀有な存在だ。人類にとっては、或る時は厄災そのものであり、或る時は救世主ともなる。偉大で、残酷で、慈悲深い、放埒とした、強大な存在——。
それは。
「……神様……?」
オルーニィは瞬きを忘れて神を見上げた。天井のシャンデリアを背に立つ神は、輝いていて尊く見えた。
「は……あっ、ああ……」
心臓が早鐘を打ちはじめ、オルーニィは自身を落ち着かせようと震える手でローブを握り締めた。日々ハードワークに追われ、上司と職場に不満と疑念を持ち、生きる理由すらわからなくなっていた頃に、擦り切れた肉体と精神が掬い上げられた時のような幸福感——否、それ以上の安心感と陶酔が背骨を駆け上がる。
「ああ——ああ……! 神様……!」
身体が震えるほどの歓喜に、オルーニィは言葉を紡ぐことさえ上手くできなかった。
「オルーニィ」
低く滑らかな声は、聴覚器官から脳へと流れこんだ。神の指がゆっくりと伸びてきて、顎の下を撫でられ、甘い痺れがオルーニィの全身を駆け巡る。
「私と共に来るか?」
「…………っ!?」
神の双眸は、まっすぐにオルーニィに向けられていた。
「君自身が君の神を棄てるというのなら、私は君を救い、君だけの神になろう。そうだな……いっそこの教団も毀してしまおう。君の神も喰らってみせよう」
顎の先にあった爪がするりと首元に滑った。指の腹に脈打つ頸動脈をなぞられ、オルーニィは熱っぽい息を吐いた。
運命に出会ってしまった——。
「ワタクシの神様は、あなた様だけです……ああ、どうか、ワタクシを、ワタクシ〝だけ〟をお導きください……」
神の手に自身の掌を被せ、オルーニィは乞い、縋りついた。肌から伝わる神の体温に恍惚すら覚える。
「オルーニィ、おいで。君はいい子だ」
神の声は穏やかで、慈悲深かった。
『——死傷者ゼロ。行方不明者××人』
部下からの報告書を読み終えたエイメルは、溜息を噛み殺して腕を組んだ。
治安維持部隊の悩みの種のひとつでもあった例の教団は、今や宗教団体として機能していなかった。捜索令状を盾にして教団本部へ突入したところ、信仰対象であった者も、幹部も、信仰心の篤い信者もみな姿を消してしまっていたのだ。つまるところ、今や壊滅状態だ。
それに、近頃言葉巧みに弱った者たちを勧誘していた要注意人物の姿も見なくなった。彼もまた忽然と消えてしまった。
彼らの行方を知る者はいない。行方不明者の数は、増える一方だ。