イベントでのスキン「紅の騎士」があまりにもD&D匂わせ(幻覚)で興奮して書きました
タルホーシュが纏っている甲冑は、ヴェクナがはじめて見るものだった。フードのような形状をした兜の天辺と右肩には黄金のドラゴンが座していた。甲冑にはいくつもの髑髏が彫られているが、禍々しい死の象徴とは相反して、雄々しいドラゴンの強さと生命力を現わしているようだった。
タルホーシュの頭の先からつま先まで眺めてから、ヴェクナは訊ねる。「その鎧は?」
彼がいつも身につけている隙のない兜と違って、視孔部分が空いていて、両目が見えていた。ヴェクナを見据える青白い眸に正気はないが、この眸の奥には無慈悲な暴力性が息づいているのをヴェクナは知っている。
「かつて征服した村で奪ったものだ」タルホーシュは瞬きもせず言った。「その村では、ドラゴンが信仰されていた」
タルホーシュの言葉は、ヴェクナの中にある好奇心を刺激した。彼がいた次元にドラゴンはいないことは知っている。しかし、どの次元でも、人間というものは人知を凌駕する存在を恐れ崇めるらしい。そして時に敬虔さは盲信へ変わり、やがて狂信に成り果てる……その様をヴェクナはあらゆる次元で幾度も見てきた。中にはドラゴンを信仰する者たち——捕獲したドラゴンは幼体で、怒り狂った母親により信者たちは全員焼きはらわれた——もいた。
「お前がいた世界にはドラゴンはいたんだろう? 奴らはどういう生き物なんだ?」
タルホーシュは鷹揚と歩み寄ってきた。頭ひとつ分背の高いタルホーシュと視線が交わって、足元では不揃いな影が添う。
「長く生きた個体ほど凶暴で知恵が回る。刃も魔法も通さぬ強靭な鱗を持ち、雄々しい翼で一夜で千里を飛び、有象無象を焼き払う灼熱の炎を噴き、鋭い爪は大地を裂き、頑丈な牙で砕けぬものはない」
「それほどまでに強大な存在に対して、なにを祈っていたんだろうな」
「さあな」ヴェクナは喉の奥で笑って、手を伸ばし、右肩のドラゴンの側面を指先でなぞった。こびりついた血は、黄金の輝きを曇らせている。「お前なら、なにを祈る?」
作り物のドラゴンから離れたヴェクナの手を、タルホーシュが掴む。一回り以上大きく厚い手は剣胼胝と肉刺だらけだ。指が掬い取られ、絡み合う。タルホーシュの手はわずかに温い。
「なにも。俺は存在しないものに祈ったり、縋ったりしない」
反対側の手で腰を抱かれた。背中を丸めてのし掛かる彼を、ヴェクナは受け止めた。血と死のにおいがタルホーシュから立ち上っている。それが心地いい。
「祈りは、灰になったか」
「ああ。燃やした。皆殺しにした」
ドラゴンはどこにもいなかった——彼は火のような熱い息吹で囁いて、ヴェクナの首筋に兜を埋めた。