リエーニエの東部で褪せ人と再会したその日、一緒に野宿をすることにした。
日が暮れる前に、彼女はウサギを一羽狩ってきた。籠手を外してウサギの皮を剥ぐ彼女の前腕に、真新しい縫い傷があることを気付いた。
以前「ラダーン祭り」のあとに開かれた酒宴で見た時は、そこに傷はなかった。
「この傷はどうしたのだ?」
言い終わる前に、ほぼ反射的に彼女の腕を掴んで引き寄せていた。色の白い筋肉の詰まった前腕には、短剣の刃ほどの痛々しい傷が手首から肘に向けて斜めに走っていた。十針以上縫ってある。
「ああ、これは……この間負傷したんだ」
腕を掴まれて驚いたのだろう、彼女は色褪せた眸を瞬かせて言った。片手から中途半端に皮を剥がれたウサギがぶら下がっている。
「貴公の身体に傷が増えるのは、居た堪れない」
腕を掴んだままであることにはたと気付いて「すまない」謝罪を述べて腕を離す。そして、所在なさげに持ち上がったままの掌をそっと包み込む。彼女の手は柔らかくて温かい。死体の硬さや冷たさしか知らない俺にとって、彼女は――特別だった。
「貴公の身体には、他にも傷はあるのか?」
焚火の中で、焚べた枝が弾ける硬い音が俺の弱々しい声に被さった。
「鎧を身につけてても、防げない攻撃もあるからね」
一拍置いて、彼女は曖昧に笑い、ウサギの皮を剥いだ。生々しい肉色の身体が剥き出しになった。
彼女の瑞々しく生き生きとした身体に無数の傷が刻まれているのを想像する。傷というのは、戦士にとって勲章である。けれど、まるで溢れる血と共に彼女の命が漏れ出てしまうようで、ひどく恐ろしくなる。かけがえのない友を失いたくない。彼女には、生きていてほしい……
胸に込み上げる衝動のまま、最愛の友を抱き締めたくなって、ぐっと堪えた。
夜が更けていく。薄闇に彼女の白い肌が映えた。